かそけき場所、というか・・・。


心の耳にだけしんしんと響いてくるような沈黙が、生息している場所だった。
6月の雨に濡れて、まわりの緑は生き物の香りをつよく放っている。
新潟・津南。

一年の半分近くを雪とともに過ごし、時に積雪は3メートルにも及ぶという。
そんな地域の静かな人里に、この廃墟は佇んでいる。

むかしは織物工場だったのだという。
時の吹きだまるような広い空間に、美術家の瀧澤潔さんと数日を過ごした。
夏のダンスパフォーマンスをここで、との由。
氏は、ここで作品をさぐって何年かを過ごされているとのこと。
床下をも含め建物まるごとで続けられている作業は大きな仕事だが、見せつけるような威圧感はなく、じっくりと場所と語らい親しんでゆくような感触は、やわらかで明るい。
お手伝いに来ていられる方たちが、看板を出している。
「制作中です、遊びにきてね!」

ものつくる人の生気が注がれてか、あるいは、
廃墟となって過ぎていった時の風が浄化していったのか、
すでに出来事諸々の情や念や気配は遠くなって、内部の空気は透明である。
空が無条件に注いでいる。


夏には全体が瀧澤さんの美術空間となり、僕はそのなかにダンスを供する。
日取りは8月15日、午後に2回公演と決まった。

風のごとくありたい、と思うかたわら、
この場所にひととき、人肌のぬくみや、肌に宿る柔らかな湿り気を彷徨い戻らせてみたい、
とも思う。
盆であるから、さまざま魂がにぎわうのだろうし、夏の蟲たちも声添えてくれるかもしれない。

からだを、たちあげる作業が始まった。