橋口亮輔監督の『ぐるりのこと』が、とてもよかったんです。

観る者を「ひとり」にさせてくれる映画です。いいえ、孤独っていうのではないんです。
落ち着いて、心の中にある声に耳を傾けながら、スクリーンに向き合うことをゆるしてくれる映画。
日々の生活を、ふと振り返ってみる時間を与えてくれる映画。
だから、劇場のイスで他の人と同じ空気や時間の呼吸を感じつつなおかつ「ひとりっきり」に、なれました。

静かな、そして、確かな視点から創作された映画です。また、「手作業」を感じさせてくれる映画です。
演出にも演技にも、非常にていねいな身体の関与が感じられるのです。
こういう作品って、それほど多くはありません。

すでに評判となっている作品で、みなさんご存知かと思いますので、あれこれ書きませんが・・・。
無理して観に行った2時間あまり、貴重な時間となりました。

同じ銀座。
資生堂ギャラリーで開催された、『椿会』の展覧会も良かったです。
資生堂椿会は、いわずもがな、その時代気鋭の美術家が集まるグループ展。
今期とりわけ、塩田千春さんの作品には力をもらえた。
中空に吊るされたフレームの中には、鏡、衣服のオブジェ、それらを網目のように捉える膨大な黒糸・・・。
ひとつの様式が確立されつつあり、それでいて繊細な実験が持続している。

上記映画と共通するのは、やはり作家の視点が強靭であること、制作の根幹に個の生活と現代が照応されていること、
そして、「手作業」・・・。

フォームが映画であれ美術であれ、(もちろん全ての芸術領域で)
そこに「個」の手や足の営為がしっかりと刻まれていることが、
とても大事なことになってきている感じがしてなりません。

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ps:上記映画と同じシネスイッチ銀座にて、当方ダンス受講生も出演した映画「丘をこえて」(高橋伴明監督)も上映中。菊池寛の人柄を軸に、日韓現代史への言及もあり。高橋監督にしてはソフトで、賛否あるかと思いますが、じっくり観れば根底には監督の鋭い感覚と既成現代史への問題意識が感じられます。次回作への息吹が始まっている感じをうけ、一ファンとして陰ながらエールを送りたいです。