基礎クラスでは身体のエネルギー回路を高めるために毎回反復されるフィジカルトレーニングの他に、レッスン後半では、「歩き方」の練習に力を入れています。今日2/11は、偶然メンバーの間から立ち方やバランスなど、主に下半身に対する質問が出たので、いいチャンスかと思い、「歩き方」の練習ワクを拡大して行い、「立つ」「踏む」「歩く」ということをじっくり稽古し直しました。次回以後にも反映させられそうな良い稽古だったと思います。

さて、歩き方といっても、形の上で美しいとされる運びを単にまねるだけではかえって視野の狭い身体をつくってしまいますから、無意識にスタイルをなぞることはかえってマイナスと僕は考えます。

このクラスで実践しているのは、さまざまなテンポや姿勢をためしながら一歩一歩を「味わい尽くす=一歩一歩にさまざまな思いを注ぎ込む」という方針です。基本的に「踏む」「運ぶ=バランス」「着地する」という3段階、あるいはそこに「立つ」を加えた4段階を強く意識しながら、練習は進められますので、「すごく丁寧に歩く」練習ともいえます。

ゆっくり、そして徐々にすばやく、時には音楽を伴いながら、この練習は続けられます。練習のコツは、気持ちと運動が刺激しあうように、感情面にも常に何らかの根拠を与えていくこと。どんな場所を歩いているのかということを心の中にしっかりイメージしたり、テンポや姿勢から何らかの物語を連想しても良いかもしれません。そうしながら、いま抱いている気持ちをより深めたり高めたりするようなダイナミズムと丁寧さを身体に心がけるようにしますと、「楽しく」なってきますし、楽しく行うことに成功すれば確実に姿がクリアになってきます。

僕らは、歩き方の中に知らず知らずその時々の気分を反映させています。たとえば、そわそわしているときには、やはり歩幅も狭くなっていますし足を運ぶテンポも不規則でとらえどころがありません。そして重心は足の先にかかっており、足首が緊張して踵が地に着きにくいようです。そこに不安感が加わったりすると膝までもが緊張してしまい、うまく一歩を踏み出すことができません。また、腹を立てているときや、何かを強く示したい気分の時などは、反対に膝や足首を強く屈伸し、踵でドンドン音を立てるように歩いているのではないでしょうか。悔しいときや悲しいときなどは靴の裏がギュッと音を立てるように「ひねり」が入っていたり、楽しいときは足首も膝もすこしバネが効き始めるようで全体に重心も上がり気味、そして充実感や自信にあふれているときには足裏全体で何かを味わうように、また一歩一歩確信をもって歩いています。
「歩く」というのはリズム運動であり、リズムは一つの気分を高める働きがありますから、同じ調子で歩いていると気分もそのまま強調されてきます。確かな足取りで歩いているときはどんどん晴れやかな気分となり、緊張して歩いていると気分もどんどんダウンしてしまいます。逆に歩き方を変えることで、気分が大きく変化することも確かです。
そういったことを意識的にとらえなおし、実践し直すことが練習を楽しむことにもつながり、さらには日常生活へのフィードバックにもつながるのではないでしょうか。

ダンスとは、ある運動に没頭することで、なんらかの気分やイメージを体現してしまうこと。そして単なる自己表現に終わらず、非日常の中で育まれた事柄が、日常生活のシーンに還元されるのが芸術のユーティリティーです。だからこそ、ダンスの練習が目的を問わず開かれた場であり、恒常的なワークとしても成り立つのでしょう。

あらゆる運動の中で最も親しみやすく、かつ気分を反映しやすいものが「歩行」ですから、さまざまな歩き方を「味わい」マスターすることは、そういったなかで、最も重要な基礎のひとつとなるわけです。回転もジャンプも極論すれば、その衝動は歩行とそれにともなう気分の変化にあると思いますし、それらが不可欠な要素では決してありません。大事なことは知らず知らず行っている動きに思いを注ぎ、自らの身におこる変化を畏敬の念で見つめ直すこと。なかでも、うんと身近に始められることが「歩き方」の見直しなのです。

一歩踏み込むたびに、そこは踊り手にとって新しい風景のひろがる新しい場所でなくてはなりません。一歩一歩にさまざまな思いが行き交うからこそ、結果として感情に満たされた美しさがあらわれるのです。

踊り手にとっての一歩とは、あたらしい扉の一枚を開く行為と同じ価値であり、一歩一歩が新しいシーンの始まりを意味します。そのことがただ一つの舞台をいかような風景にでも変化させてしまう身体作法の秘密にもつながっています。また、歩くと言うことは瞬時のゆるみと緊張を通して体全体の力を気持ちもろとも転換し、全身にフレッシュな「空気/心持ち」を入れ換える作業でもあります。僕らにとって、歩くことはイメージの呼吸ともいえる行為です。

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