それと同時期だろうか…零は例の廃墟街へ何度も足を運んでいた。

「また来てくれたの?」
 
「当たり前だ…君のお父さんには、よく助けられた。」
 
そう廃墟街となったこの街は、零が初代・闇武神零-zero-や街の人に助けられた場所。零にとっては思い出の場所だった。
 
そこに通りかかったのは、クロだった。
 
「…あ」
 
「ここに来れば、またお前に会えると思っていた…」
 
零も考えることは同じのよう、辛い時・泣きたい時はいつも廃墟街へ…しかし零が何度も廃墟街へ来ていたのは廃墟街を元の姿に戻そうとする理由もあった。
 
「クロ…」
 
「…え?」
 
「俺の名前…クロだから。」
 
クロが言った。
 
零に自分を転生させたと言われた時、悪い夢ならば早く覚めてほしいと思った。けどこれは夢ではなく現実なのだと…ここに来る数分前まで自分は剣を握って、仲間に振るっていたのも…現実だと思い知らされた。
 
 
「…クロ…… 」

「もう、仲間は信じない……」
 
数分前…

「クロ…お前のその言葉…その言葉が間違っているんだ!!」
 
「いや…俺は…零は間違っていない!…間違っているのはあの方の方だ!!!」 
 
 
何が間違いで何があっているかなんて、人にはわからない……けど、これが正しいと思うなら行動しなければならない。
 
 
「こんなに傷だらけになって…俺が言ったこと……」
 
「別に…俺はあんたを信じたわけじゃない!…」
 
信じなくてもいい…生きていてくれさえいればと零は言う。

「…」
 
その目は何かを見据え、その足はしっかりと大地を踏み…その手は確かに大切なものを掴もうとしていた。

それは、大切なものとの別れが近づいていることを意味していた。
 
 
「ゆっくり話してる暇はないようだな…」
「零…」
 
「クロ、…すぐ戻る。」
 
 
同時刻、廃墟街から遠く離れた街。
 
この街は別世界との境にあり、現世の連絡地点でもある。
しかし、この時の闇世界は現世との行き来は簡単にできない。
 
 
「ここもダメか…なんでだよ!」

闇世界では、彼をはじめとする闇武戦士達が闇世界を変えるために奔走していた。

「牙…諦めろ。」
 
「なんでだよ…なんでそんな事が簡単に言えるっ俺は諦めねぇよ、この世界の秩序がなんだ!変えてやるよ、この手で!」
 
「馬鹿を言うな!この俺達でさえも、奴には適わなかった。」

 
この世界を統治するのは、深淵の剣士と呼ばれるある男だった。
 
零は、遅れること半時間で返ってきた
 
「……」
「零……?!……どうしてこんな…」
 
 
「俺なら大丈夫だ…クロ、ちょっと肩を貸してくれ…」
 
明らかに様子がおかしい…。それに、残波剣がない…
 
「零…何が…」

「…、負けたんだ俺は……奴との戦いに」
  

戦い?
 
何のことだろう、それに零の言う『奴』って誰のことだろう…でも、闇世界最強の零が負けるなんて…

クロは、傷ついた零を連れて闇武達の集まる場所へ急いだ。
 
「あ、おじさんが帰ってき…た?!…ええ?!なんでこんな……」

あたりが騒然となる…
 
「あなたが……零をここへ?
 
頷くクロであった…。

「……俺は…」
 
 クロ……
 
 
「え……?」  
 
零は、なぜクロを闇武達のいる拠点へ連れてきたのか…理由は明白だった。
 
「おじさんは、君はソウルを持つに相応しいとふんだんだ……アビとしてこの世界を変えれるって…信じているんだ。」
 
「俺が…この世界を?……それより、あんたは?」
 
「俺の名は牙……闇戦士牙破(キバ)、と言っても今は戦っちゃいないんだけどな…お前は?」
 
「クロ……なぁ教えてくれ、零は…零は誰と戦った!?…そいつはどんな奴だ?!」
 

詰め寄るクロ…

 
「落ち着けよ…いいか、今から教えてやるからよく聞け……零が戦ったのは深淵の騎士・龍雅…初代からの因縁であり、お前もよく知る殺戮者のトップ……その龍雅は俺達のことを良くは思っちゃいない、秩序を管理し俺達が干渉できないようにしている。そう…お前は当時、龍雅に零を殺すようにと命じられていた…しかし、零に己が闇世界に転生させてもらったことを知り怖くなった……違うか?」
 
「……な、そんなこと……」
 
「図星だな…当初俺も反対したんだ零が「あいつには俺が…」なんて言うもんだからさ、俺は止めなかった…あの人が転生させた子はあの人の息子も同然だからな。多分だけどおじさんは君を助けたいんだよね…」
 
淡々と喋る牙であったが…どこかその表情は険しく固いまま、闇世界の東を見つめていた。
 
「お前、これからどうするんだ?…」
 
「………」
 
「答えなしか…だが、決断は急げよ?」

アビとして世界を変えるか
殺戮を続けるか

 
その決断はやがて、世界を大きく動かすこととなる。
 
「俺は、東側の調査に向かいます…」

 
その後、牙は闇武戦士数名を連れて未踏の地・東部サイドムーンの調査に乗り出した。
 
同時刻、西部の街・マルグリット…そこにはクロがいた。
 
「…?…」
 
この街にもある、異変が起こっていた。