右京区嵐山に、言わずと知れた嵐山ラッツ&スターズという名門少年野球チームがある。
先日も、嵐山ラッツと、右京の雄、常盤野少年隊との試合があった。
ある大会の2回戦である。
常盤野が序盤、1点を先制し、中盤に常盤野のスラッガー、マリカのツーランホームランで2点を追加、
終盤には、もう1点を追加し、最終回表、4点差をつけられたまま、ラッツの攻撃に入った。
だが、この時、ラッツの選手たちは、誰一人あきらめてはいなかった。
子供たちの目には、何の曇りもない。
コーチ陣でさえ、奇跡を信じて攻撃を迎えた。打順よく1番からだ。
その時、ラッツの石黒監督が、こう言い放った。
『マンガみたいな勝ち方しよかー!とりあえず、1、2、3番と出て、4番がホームラン打とう!』
石黒の本気とも冗談ともつかぬ言葉に、子供たちは笑顔で頷いた。
嵐山ラッツの1番バッターは、俊足巧打の勝谷サクタロウだ。
内野への打球だったが、足を生かして出塁。
2番バッター、さくらを奏でる妙打の森山アキタロウ。
これもヒットで出塁。ノーアウト1塁2塁。
3番、ラッツ1の強打者、歩くホームランこと、石黒ミナオだ。
ミナオもヒットで出塁して、ノーアウト満塁。
さっきの監督の言葉が、頭をよぎった。まさか、、、
4番バッター、バットコントロールの神、ピッチャーでキャプテンの和瀬田キセキだ。
コーチ陣は吠え、応援の母たちは祈った。
一球目、外角低目にストライク。
キセキは見送った。
2球目、見逃さなかった。
真ん中高めの球を、ライナーで左中間に打ち返した。
真っ二つに割れた左中間を白球が転がる。
1人2人とホームイン、3人目
もホームイン、そしてキセキが三塁を回ろうとした頃、センターからの返球。
三塁側ベンチのコーチ陣は、なぜか迷わず手を回した。
ホームへ向かえと。
キセキが三塁ベースを蹴った。
ホームには、走者とほぼ同時に球が返って来た。
主審が手を横に伸ばし、セーフと声をあげた。
同点満塁ホームラン。
ベンチに帰ってきたキセキを、監督は無邪気に抱きしめた。
最終回、裏を0点に抑えたラッツ。この大会に延長はない。
抽選が行われ、、、
ラッツは見事、勝利した。
子供たちが飛び上がる中、数人のコーチは涙を流した。
嵐山あおや