そんな事は、どうでもいい。
が、このおとん、かなり天然だ。
10数年くらい前だろうか。おとんと、おかんや子供と、家族で旅行に出かけた。
豊橋辺りの三谷温泉という所だったと思う。昼間、宿屋についていきなり、おとんが天然を発揮した。
宿屋の玄関は、向かって右にあり、その玄関の横も綺麗なガラス張りの作りだった。
僕たちが続けて、右の自動ドアから入っているのにもかかわらず、おとんは左手の海を見ていたのか、
宿屋のフロント中に響き渡る音を立てて、おとんはコケた。
おとんは、開かないガラス張りのほうから入ろうとして、勢いよくガラスに激突したのだ。
バネのようにひっくり返ったおとんは、宿の人に囲まれ、赤く腫れたデコを触りながら、大きな声で言った。
『ガラスもないと思ってたわ!』
それ、なに?
おとんのエピソードをもう一つ。琵琶湖沿いにある、鮎屋へ行った時の事だ。
おとんはソフトクリームが大好きで、よく買っては食べていた。
鮎屋でも、おとんはソフトクリームを頼んだ。出来たら取りに行く流れだ。
おとんのソフトを僕が取りに行った時、同じ大きさのソフトのサンプルがレジ横に置いてあった。
僕はイタズラ心を出して、そのサンプルをおとんに渡した。
おとんは触って、
『なんやこれ?』
とでも言うと思った。
おとんは触っても分からず、そのままペロンとソフトを舐めた。
あれっ?と言いながら、もう一度舐めた。
すると、ソフトの上の部分だけが転がって落ちた。かなり強く舐めたのだろう。
おとんは驚き、上の部分を拾おうとした。それを見て僕はもっと驚いた。
たまりかねて僕、
『おとん、それサンプルや!』
おとん『なんか固いソフトクリームや思ったわ!』
ほな舐めるなよ!
そのあと、おとんは幸せそうに本当のソフトクリームを食べていた。
『ほんまもんは、やっぱり旨いなぁ♫』と言いながら。
嵐山あおや
