しんちゃんは昔、女子バレーボールを見ていたら『さおりん』にすごく色気を感じて、
バレーボールそっちのけで、ずっとさおりんを凝視していたという兵だ。
そのしんちゃんがある日の朝、家を出て車で2分走った時、メールが鳴った。
しんちゃんは新しいものを好まず、今でもガラケーを使う高倉健のような男だ。
しんちゃんはガラケーのメールをパカッと開けた。すると、こんな内容だった。
『旦那、今、出て行きよったわ。ほんまうっとうしいわ。保険入ってくるし、はよ死によったらええのに。』
しんちゃんの嫁からのメールだった。
しんちゃんは激怒した。すぐに車をUターンさせて、家に帰って嫁に問い詰めた。
しん『どういうことや!このメールは!?』
嫁『な、何がやな!ちょっとお姉ちゃんに愚痴っただけやん!』
しん『死んだらええのに、は……キツいやろ!』
嫁『みんな愚痴るで、それくらい。給料も安いし、まあ、けど冗談やん。』
しん『給料安いし死ねか?……アホか!……』
しんちゃんは高倉健のように口下手な昭和の男だ。ガラケーをパカッと閉じた。
それから仕事に向かい、夕方、しんちゃんは僕の家に来た。
居酒屋でしんちゃんは僕にガラケーをパカッパカッさせながら、その話をした。
ゲコのしんちゃんはノンアルコールビールを飲みながら、何度も、
『酔えへん、酔えへんわ……』
と言った。僕は、
『そらノンアルやもん!』
とツッコムのをやめた。
一通り嫁の愚痴を話終わると、居酒屋を出て、しんちゃんは運転しながらドラッグストアに向かった。
そこでしんちゃんは、なぜか、ユンケルより強烈な一本2千800円する精力剤を飲んだ。
左手にガラケー、右手に精力剤だ。やはり昭和の沢田研二だ。
飲み終わるか終わらないかくらいに、しんちゃんは僕に、送るわ、と言った。
どこ行くの?と聞く僕に、しんちゃんは、旅に出るような高倉健のような顔で、
『ヘ○ス行ってくるわ♪』
と、帰って行った。
嫁に対しての、せめてものしんちゃんの抵抗だったのかもしれない。
2時間半後、珍しくしんちゃんからメールが届いた。
『良かったわ♪』とだけ書かれてあった。
そんな報告いらんし!
嵐山あおや
