<IPCC報告書>温暖化、30年で許容上限 迅速対応迫る
毎日新聞 2014年11月03日 00:01
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2日、地球温暖化を巡る最新の研究成果をまとめた第5次統合報告書を公表した。今のペースで温室効果ガス排出が続けば、今世紀末には人々の健康や生態系に「深刻で広範囲にわたる後戻りできない影響が出る恐れ」が高まり、被害を軽減する適応策にも限界が生じると予測。その上で、気温上昇を抑えるために「多様な道筋がある」として、各国政府に迅速な実行を迫った。
報告書は、温暖化の主な原因が人為である可能性が「極めて高い」(95%以上)と断定。産業革命(18~19世紀)後の気温上昇を「2度未満」に抑える国際目標の達成には二酸化炭素(CO2)の総排出量を約2兆9000億トンにとどめる必要があると分析した。
しかし、既に排出されたCO2は約1兆9000億トンで、余地は約1兆トン。2011年の世界の排出量約350億トンのペースが続けば、30年足らずで許容量の上限に達してしまう計算だ。
2度目標達成には、世界全体の温室効果ガス排出量を50年に10年比で41~72%、2100年には78~118%削減する必要があると指摘。排出量を大きく左右する発電部門で省エネや再生可能エネルギーの導入を促進し、将来的にはCO2を回収・貯留する技術を大規模に普及させることが有効だとした。
一方、有効な対策を取らない場合、今世紀末の世界の平均気温は2.6~4.8度上昇。海面は最大82センチ上がる。2度以上の上昇で穀物生産に悪影響が表れ、4度以上で食糧安全保障に大きなリスクが生じるとした。さらに、アジアで暑熱による死亡率が非常に高まるなど、「温暖化の規模や速度が大きいほど、人が適応できる限界を超える可能性が増す」と警告した。
第5次統合報告書は、昨年9月~今年4月に順次公表された三つの作業部会の報告書をまとめたもので、第4次以来7年ぶりに公表された。新たな温暖化対策の国際枠組みの合意を目指す国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)を来年末に控え、交渉に大きな影響を与えそうだ。
デンマークで記者会見した国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は「科学者は、世界各国がすぐに行動を起こさなければならないと声を上げた。我々は手段を持っている。この機会を逃してはならない」と呼びかけた。【阿部周一、渡辺諒】
【ことば】気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
地球温暖化の影響や被害の軽減策について、最新の科学的知見をまとめた統合報告書を、90年以降約5年おきに公表してきた。第5次は世界の800人を超す研究者らが約3万本の論文を基に執筆した。政策決定者向けに要点をまとめた「要約」は、総会に参加した全ての国の承認を経て公表され、温暖化の国際交渉や各国の対策の科学的な根拠となる。
温暖化:今世紀末6.4度上昇 洪水被害、年6800億円
毎日新聞 2014年03月17日 11時05分(最終更新 03月17日 16時09分)
今世紀末に予測される国内影響
地球温暖化によって、今世紀末の日本では平均気温が20世紀末に比べ最大で6.4度上昇し、年間の洪水被害額は20世紀末の約3倍にあたる最大約6800億円に上るとの報告書を、環境省の研究班(代表=三村信男・茨城大教授)が17日、公表した。熱中症などによる死者数の倍増など健康への影響も深刻で、被害を軽減するための対策に早急に乗り出すよう国や自治体に求めている。
温暖化の影響で、世界的に高潮や大雨の増加などが予測されているが、その度合いは地域によって異なり対策も変わる。研究班は、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第1作業部会が昨年9月に公表した最新の報告書と同じ考え方に基づき、気温上昇など今世紀末の日本の姿を初めて予測。災害、食料など5分野の影響について、20世紀末と比較した。
温室効果ガスが増え続けた場合、平均気温が3.5~6.4度、海面は60~63センチ上昇すると予測。海面上昇による浸食で、砂浜は最悪の場合、83~85%消失。干潟も12%が失われ、日本の風景が激変する可能性もあることが分かった。
洪水による被害額は、豪雨の増加などで、年間2416億~4809億円増えると見込まれる。地域別では、東北、中部、近畿、四国で、20世紀末の2倍を超える可能性が高い。一方、治水対策を強化すれば被害額を20世紀末と同程度以下に抑えられると指摘している。
熱中症や高温で持病が悪化して死ぬ人の数は、今世紀末には2倍以上になると予測。熱帯の感染症「デング熱」を媒介する蚊の一種、ヒトスジシマカは現在、国土面積の約40%に分布しているが、気温上昇に伴って約75~96%に拡大。感染のリスクが高まると予測している。
農業分野では、気温上昇の影響を受けやすいウンシュウミカンは、最悪の場合、生産に適した地域がなくなる恐れがある。一方、亜熱帯の果樹、タンカンの適地は、現在国土の1%程度だが、13~34%に拡大する。コメの収量は全国的には大きく変化しないが、品質が低下する割合が大きくなる。【大場あい】
◇被害軽減対策が急務
環境省の研究班が17日公表した、地球温暖化による国内影響の最新報告は、農作物の栽培適地の変化や洪水による被害の増加など、今世紀末までに環境や国民生活が一変する恐れを指摘した。一方で、対策強化によって被害を軽減できる可能性も示した。
農業分野では、夏の高温による影響が既に深刻化し、コメは粒が白く濁るなどの品質低下への懸念が高まっている。
報告書によると、対策を取らなくても今世紀末のコメの収量はそれほど変化しないが、生産量の半分近くの品質が低下するリスクが非常に高いという。一方、品質低下を防ぐため、田植えの時期をずらして夏の高温の影響を避ける対策だけでは、収量が増える地域と減る地域の差が大きくなると予測した。
豪雨などの増加に伴う洪水被害については、対策を全国一律に強化するためには長い時間と莫大(ばくだい)な費用がかかるため、「危険度の高い地域を抽出し、便益に見合ったコストで、その地域に適した対策を選ぶことが重要だ」と指摘している。
報告書は、社会基盤の充実した日本でも温暖化の被害から逃れられないという予測を突きつけた。政府は来夏、被害を軽減するための初めての総合計画「適応計画」を閣議決定する方針だが、温室効果ガス排出量削減とともに、実施が急がれる。【大場あい】
気温上昇2度未満に抑える「道筋ある」 IPCC報告書
毎日新聞 2014年11月3日09時34分
コペンハーゲン=須藤大輔
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化に関する第5次評価報告書の仕上げとなる統合報告書をコペンハーゲンで開かれた総会で承認し、2日公表した。温室効果ガスの排出をこのまま続けると世界的な影響が深刻化するが、それを避けるために国際社会が目指す気温上昇を19世紀末の工業化前と比べて2度未満に抑える目標について、「道筋はある」と明記した。
国連で進められている温暖化対策の交渉は年末から本格化するが、対策に早急に乗り出すか否か、国際社会に決断を迫る内容となった。
IPCCは昨年9月から温暖化の科学、影響、削減策の三つの作業部会ごとに、2007年以来の第5次評価報告書を公表。統合報告書は、それらを分野横断的にまとめ、新たなメッセージを盛り込んだ。
温暖化被害予測:熱中症の死亡リスク3.7倍
毎日新聞 2014年03月03日 21時50分
環境省は3日、地球温暖化による国内での災害や健康被害などを軽減するための「適応計画」策定に向け、検討材料となる被害予測の中間報告案を公表した。海面上昇が進むと、100年後には高潮による浸水被害が10億円以上の地域が東京湾など5カ所に及ぶなど、深刻な内容だ。
適応計画は、今世紀末に日本の年平均気温が2.5~3.5度上昇すると想定。被害予測を検討するため、食料(農水産業など)▽水資源▽自然災害など7分野で各省庁・研究機関が公表済みの100以上の分析結果を集めた。
農業では、コメの総生産量が一定程度増加するものの、高温による品質低下のリスクが増す。自然災害分野では、非常に厳しい温室効果ガス削減を実施しても大雨による洪水被害が増加。浸水域は最大で1000~1200平方キロに達し、特に関東、甲信越、北陸での増加が懸念される。また、熱中症による死亡リスクは、今世紀末には約2.1~3.7倍に上るとした。
温暖化対策をめぐっては、今後温室効果ガス排出削減が進んだとしても社会や生態系への影響が避けられない可能性が高いとして、被害対策に力を入れる国が増えている。日本も適応計画を来年夏に閣議決定することを目指している。
同省は今月中に中間報告をまとめた上で、広く意見を募り、来年2月に取りまとめる最終報告に盛り込む。今月末に横浜市で公表される国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次報告書の内容も反映させる。【大場あい】
◇今世紀末までに予測される主な影響◇
・コメの総生産量は少し増加する一方、品質低下のリスクが上昇
・リンゴ、ウンシュウミカンの栽培適地が北上
・洪水氾濫面積が1000~1200平方キロに
・梅雨後期の降雨量、強い雨の頻度が増加
・がけ崩れなど斜面崩壊の発生確率が増加
・海面上昇により砂浜が最大約47%喪失
・台風襲来の可能性は少なくなるが、強度は高まる
・熱中症による死亡リスクが約2.1~3.7倍に
地球温暖化:「歴史的責任は先進国に」 途上国と対立激化
毎日新聞 2013年11月18日 10時34分
【ワルシャワ阿部周一】ポーランドで開催中の国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、地球温暖化をもたらした「歴史的責任」の明確化を求める途上国と、反対する先進国との間で対立が深まっている。日本が公表した温室効果ガス削減目標「2020年までに05年比3.8%減」も、温暖化対策に消極的な印象を与え、歩み寄りの兆しは見えない。
京都議定書(1997年に採択)では、先進国だけが削減義務を負ったが、近年、中国やインドなどの新興国の排出量が急増した。COP19では、すべての排出国が参加する新たな温暖化対策の枠組みを2020年以降に始めることを目指し、議論が続いている。
「歴史的責任」は、産業革命以降、石炭や石油を燃やして大量の二酸化炭素(CO2)を排出しながら経済発展を遂げた先進国の責任を問う考え方で、特に新興国が強調している。ブラジルは9月、歴史的責任を科学的に明らかにするため、1850年以降の国別の累積排出量について、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)に算出を委託するよう提案。COP19で、中国などが支持した。
国際エネルギー機関(IEA)によると、エネルギー起源のCO2排出量に先進国が占める割合は、1990年の66%から2011年には43%に低下した。先進国にとっては、過去にさかのぼるほど責任が大きくなることは確実。一方で、新たな枠組みに新興国を巻き込まなければ、温室効果ガス削減は進まない現状がある。
日本政府交渉団筋は「IPCCに累積排出量の計算を頼んでも、最低2年はかかる。新興国は、新枠組みの合意を遅らせる作戦ではないか」と警戒感を強めている。