『雲の中の散歩 QUATTRO PASSI FRA LE NUVOLE』1942年
とても好きなイタリア映画だった。
あるセールスマンの、二日間の心のバカンス。又は、生活に疲れた既婚男性の『アリス イン ワンダーランド』。
口うるさい妻に「目覚まし時計のベルがうるさいわよ!」と起こされたパオロ。彼は、イタリア北部のある大都市で、やや退屈ではあるが安定した家庭生活を送っている。集合住宅のドアの外から牛乳を取って来て温めるのはパオロの仕事。パオロは毎朝、他の家族を起こさないように一人で起き、家族の分の牛乳を温める。
夫婦の子供は2人。妻の兄である義兄が同居。いわゆる居候である義理の兄は、妻によると就活をしているとのことだが、いつもカフェにいるところをパオロは目撃している。「義兄さんには同情しないよ。本気で見つけようと思えばいくらでも仕事はあるんだ。本気でやってないってことなんだ」とパオロ。しかしお人好しで根が優しいパオロは、高圧的な妻に敵わず言い負かされる。
コンロに火をつけるためにマッチを擦っているパオロ
寝間着のまま起きて来て、パウロに生活費を要求する妻
通勤のためにいつもの満員電車に乗ると、パオロはスーツケースを持った疲れた様子の若い女性↓に席を譲る。
しばらくして、切符の確認に来た車掌。女性がなかなか切符を出せずにいると、車掌が「じゃあ降車駅までの運賃を払ってください」。もう一枚切符を買う金銭の余裕のない女性は慌てる。するとパオロが後ろから助け船。「きっとあるさ。車掌さん、少ししたらまた確認しに来てよ。それまでにはきっと見つかる」。するとしばらくして女性の切符は見つかった。しかし返り討ちのように車掌がパオロの、さっきはスルーした定期券を本当にあるかと確認すると、ない。パオロは次の駅で降ろされ、中央駅に定期券情報の確認が取れるまで足止め。
ここでパウロは、いつもの日常という軌道から外れ始める。
確認が取れて列車ではなくバスに乗ると、隣りに座っていたのがあの女性。女性はマリアと名乗り、列車でのことについてお礼を言う。パオロも名乗り、自分の職業を言う。
セールスしている会社の見本のチョコレートを見せるパオロ
このバスの運転手がなかなか来ず、慌ててやってきて運転席に座ったところで、運転手の家の二階から「男の子よ!」。運転手の子供が生まれたということで、乗客たちはお祭り騒ぎとなる。
男の子出産の話を聞き、なぜかマリアは泣き出す。気遣うパオロ。
ガソリンスタンドに止まると、運転手は観客に祝い酒を振る舞う。
浮かれて調子に乗った運転手がスピードを出し過ぎ、家畜の群れを避けようとして道を外れ草原に突っ込み、車軸が折れ、引っ張ってくれるトラックを待つことになった。
パオロとマリアは、乗客から夫婦と間違えられる。
歩き出したマリアと別れてこのまま直ったバスに乗りセールスに行く予定のパオロだったが、寂しそうなマリアの後ろ姿に放っておけなくなり、追いかける。
「どこに行くの?」「実家まで」「じゃあ荷物を持つよ。まだバスが直らないみたいだから。それに、さっき乗客の一人が、『奧さんに免じて契約する』って言って契約できたんだ。その人、お菓子販売店を経営してるらしくて。だから、お礼」。
するとマリアは途中で、「今ふと思いついたんだけど、あなた、私の夫だって嘘をついてくれない?私、妊娠しているの。でも子供の父親は結婚してくれない。彼にとって私は遊びだったの。私は妊娠がバレないようにと会社を辞めた。うちの父は、由緒ある家系というのが自慢の人で、こんなことを言ったら勘当されてしまう。私仕事もお金もなくて、実家を頼るしかないのよ」。
マリアが農園をしている実家に入ると、↓「2年ぶりじゃないか」と祖父が出迎える。
マリアが結婚していると聞くと、父親は「初耳だ。まず親の承諾を得るのが筋じゃないか?」と怒る。するとパオロが「僕のせいです。仕事が忙しくて、ちゃんと会ってご報告しようと思っていたら、こんなに遅くなってしまって。マリアのお腹には、子供がいます。それもご報告したくて、一緒に来ました」。
マリアの夫のふりをし続けるパオロだったが、パオロのセールス鞄から出て来た家族写真を見たマリアの父親が、「お前は重婚しているのか?」と激怒。
パオロがこれまでの本当の流れを話すと、父親はマリアを「未婚の母なんて恥さらしだ。勘当だ!」。
しかしそこで、「乗りかかった舟だ」とパオロがマリアの父親を説得、「悪いのはマリアじゃない。男だ」。
そこへ、二階で母親に真実を告げていたマリアが階段を下りて来て、そんなパオロに感動。
パウロの言葉で目が覚めた父は、「お前はずっとここにいればいい」とマリアに言い、マリアの目は輝く。マリアの父親は、振り返ってパオロに握手を求める。ここで泣いた。
仕事に戻るために近くの広場から出ているバスに乗ることになったパオロに、マリアは搾りたての牛乳を注ぐ。
飲んだパオロは、「うまいなあ。やっぱり搾りたては違うな」。
広場に行くため、同じ敷地に住む親戚の馬車の荷台に乗ったパオロとマリアは、まるで恋人同士のような雰囲気。
「なんだか、子供の頃の夏休みを思い出したよ。昨夜は、きみと同じベッドでは寝られず、一階に下りていったらきみのお爺ちゃんがチェスをしてて。お爺ちゃんは、昼夜逆転の生活をしてるんだね。ちょっと話してから、外の干し草の上で寝ちゃって。朝、体の上に鶏が乗ってきて起きたよ。久しぶりにぐっすり眠れて、リフレッシュできたよ。まるで子供の頃の夏休みに戻ったみたいだ」
シーン変わって、パオロの家が見えてくる。
家に戻ると、寝室から妻の「牛乳を温めておいて!」。
パオロはいつものように作業を始める。
しかし牛乳を鍋に注いだところで、マリアからもらった朝のしぼりたての牛乳のおいしかったことが思い出され、眩暈のようなものに襲われたパオロは、牛乳の容器の蓋を床に落とす。
そこでジエンド。
ハッピーエンドじゃないところが、大人の生活のリアリズムだなと思った。
ザ・男の夢、とも言える。
「平凡な」既婚男性パオロは、2日間、マリアのヒーローだったのだ。
そういう非日常があればこそ、また日常という基本に戻れるのだろう。
マリアとのことを、パオロは妻に秘密にし続けるのだろう。日常を進めるための心のお守りとして。
タイトルの『雲の中の散歩』とは、つまりそういう「地に足のつかない、夢のような非日常の出来事」の比喩なのだろうと思った。
キアヌ・リーヴス主演でのリメイク
★Wikipediaより★
Four Steps in the Clouds(イタリア語:Quattro passi fra le nuvole)は、1942年のイタリアのコメディドラマ映画で、アレッサンドロ・ブラセッティが監督・共同脚本、
ジーノ・チェルヴィとアドリアーナ・ベネッティが主演しました。彼氏に捨てられた若い妊婦の夫として行動することに同意した既婚男性の物語です。審美的には、イタリアのネオリアリズムに近いです。ローマのチネチッタ・スタジオで撮影されました。映画のセットはヴィルジリオ・マルキによってデザインされました。
2008年、この映画はイタリア文化遺産省の「1942年から1978年の間に国の集合的記憶を変えた」100本の映画のリストである「保存すべきイタリア映画100本」に選ばれた。(注1)
英国アカデミー賞の最優秀映画賞にノミネートされました。この映画は、1956年の『The Virtuous Bigamist』や1995年の『A Walk in the Clouds』など、何度かリメイクされた。
プロット
物語は、ジーノ・チェルヴィ演じるキャンディーメーカーの既婚エージェントであるパオロ・ビアンキを扱っています。彼は、イタリア北部の無名の大都市で、やや退屈ではあるが安定した家庭生活を送っている。
会社の用事で南行きの列車に乗っていると、若い女性マリアが車掌に先延ばしにされそうになっているのを目撃する。彼女はチケットを持っておらず、チケットを買う余裕がありません。ビアンキはマリアが列車に乗るのを手伝い、マリアはもう1つ頼みごとをしてくれないかと頼む。マリアは妊娠してボーイフレンドに捨てられたばかりで、今は家族の農場に戻っています。彼女は他に行き場がありませんが、マリアが未婚であることに気づいた父親はすぐに彼女を追い出すと確信しています。
彼女は怯え、ビアンキに一緒に家に帰って夫になりすますように頼みます。欺瞞は数日しか続かず、その後、彼は通常の生活と仕事に戻ることができ、マリアは見捨てられたと主張することができます。ビアンキは、仕事を数日休むことは、マリアの名誉を一生守るための小さな代償だと判断し、彼女と一緒に列車を降ります。
農場に到着したビアンキは、嘘をつき続けるのが難しいと感じますが、熱のこもったスピーチで、マリアの父親に彼女を家に残すように説得します。その後、彼は事件に言及することなく妻と家族の元に戻ります。
キャスト
- ジーノ・チェルヴィ:パオロ・ビアンキ
- アドリアーナ・ベネッティ(マリア役
- ジュディッタ・リッソーネ:クララ・ビアンキ
- カルロ・ロマーノ(アントニオ役、コリエラのアウティスタ)
- グイド・チェラーノ(パスクワーレ役) – フラテッロ・ディ・マリア
- マルゲリータ・セグリン(ルイーザ、マドレ・ディ・マリア・エ・パスクアーレ役
- アルド・シルヴァーニ(ルカ、マリア・エ・パスクアーレ神父役)
- マリオ・シレッティ - Il fattorino della corriera
- Oreste Bilancia as Il droghiere di Campolo
- ジルド・ボッチ(Il contadino sulla corriera)
- アルトゥーロ・ブラガリア(Il viaggiatore nervoso)
- アンナ・カレーナ(ラ・マエストラ・スッラ・コリエラ役
- ピナ・ガッリーニ:シニョーラ・クレリア
- ルチアーノ・マナラ(Il settentrionale)
- アルマンド・ミリアーリ(アントニオ役、イル・カポスタツィオーネ)
リリース
この映画は1942年12月23日にイタリアで初公開されました。1948年11月20日にアメリカで発売されました。
レセプション
1948年のニューヨーク・タイムズ紙は、「イタリアの映画職人は、時事的な肖像画の痛烈なリアリズムで正当な称賛を得ているが、他のテーマに関しては賞賛は一般的ではなかった。ですから、『Four Steps in the Clouds』が、まったく地味な題材を繊細に扱ったことで、拍手喝采を浴びたことを報告するのはうれしいことです。批評家はチェルヴィの演奏を「美しく練り上げられた人物描写」と評し、ベネッティの演奏を「精巧に刻まれた」「痛烈な」と評した。ストーリーについて、批評家は「ありそうさがキャストの演技と演出の巧みさによって上回っており、それが『雲の中の四段』を信憑性と気晴らしの両方にしている」と書いている。(注2)
ヤツェク・クリノフスキとアダム・ガルビッチは、2012年の著書『Feature Cinema in the 20th Century』でこの映画を取り上げ、ブラセッティの前期の「平凡な」映画からの脱却であり、10年前に彼が採用した「革新的」と表現したスタイルへの回帰であると評価した。クリノフスキとガルビッチは、『雲の中の四つのステップ』、そしてブラセッティがイタリアのネオレアリズモ運動の発展において重要であったことを認めたが、この映画についていくつかの留保を思いつき、ネオレアリズモがブラセッティの映画ではなくルキノ・ヴィスコンティの『オセッション』にもっと触発されていたらよかったと書いている。[3] 批評家は『雲の中の四つのステップ』について次のように書いている。
特に、満員バスの中で繰り広げられるブラセッティの喜劇の前半は、(その洗練されていない観察にもかかわらず)印象的な斬新さと人生の真の写真として出くわします。しかし、監督の熱意に流されたように見えるのは事実ですが、『雲の中の四歩』は確かに質の高い映画です。第2の叙情的でノスタルジックな部分は、第1の部分よりも弱くはないが、その大衆的で一般的なトーンは、出来事の表面だけを示し、感情を単純な反対のもの、つまり嫌悪と友情、頑固さと寛容、絶望と喜びに還元する。(注3)
リメイク
この映画は、1956年に『高潔な重婚者』、
1995年に『雲の中を歩く』、
1997年にムンガリーナ・ミンチュ、1998年にプーヴェリ、
1999年にアルドゥガール・ヴァッチャル、
2000年に『Dhai Akshar Prem Ke』
としてリメイクされた。★