『ニノチカ Ninotchka』1939年
ニノチカという、共産主義を信奉するロシア人女性と、レオンという、資本主義や自由を謳歌するフランス人伯爵の恋愛コメディー。
ロシア革命・ペレストロイカの風刺。
共産主義と資本主義の対比の面白さ。
ニノチカが共産主義の象徴、レオンが資本主義の象徴、とも言える。
ロシアは、二年先に訪れるであろう食料危機のために、革命で貴族から没収した宝石をパリで売ろうとしていた(トラクターなど農作業機の購入のために外貨が必要)。
そのために三人のロシア人男性がパリに役人として派遣され、後に、三人を監視するために二ノチカが派遣されたのだが、
彼らが泊まった高級ホテルのホテルマンが、元ロシアの大公女スワナの忠臣。
四人のロシア人が、スワナの宝石を売却しようとしている、と知ったそのホテルマンは、スワナ宅に電話、スワナの愛人のレオンがその電話を取り、話を聞く。
その少し前。レオンは、パリの街頭で一人で地図を広げているニノチカに出会い、初めて本当の恋に落ちていたのだった。
電話でレオンは、そのニノチカが、自分の愛人であるスワナの没収された宝石を売却しようとしている一人なのだと知る。
結局、ニノチカを愛して彼女と相思相愛になったレオンはスワナに別れを言うのだが、その直前に、スワナは二ノチカの部屋から自分の宝石を取り返し、二ノチカを三人の役人と共にモスクワに帰してしまっていた。
★翌日、宝石は盗まれていた。大公女とかつての忠臣だったホテルマンの仕業である。大公女は、レオンを残して夕方の飛行機でロシアに帰るなら、宝石を現金化して渡すとニノチカに持ちかける。ちょうど、レオンからニノチカへ電話があり、2人は「7時に会う」約束を交わしたものの、ニノチカは約束を果たすことなく、大公女の要求通りにロシアへ飛び立つ。★
(左から、ニノチカ、レオン、スワナ)
(ニノチカとスワナ)
(スワナは、ニノチカが着た「去年ロシアで買ったドレス」をダサいと馬鹿にする。)
モスクワに帰ったニノチカは、三人と政治主義ではなく本当の心の同志になっている。
この三人にはユーモアがあり、パリに行ってからは、モスクワよりパリに憧れるようになる。それは二ノチカも一緒。
ニノチカは、バイオリン奏者の女性と同居していて、隣室には電車の運転手一家が住んでいる。
どうやら運転手は、政府のスパイらしい。4人は、この運転手がトイレという名目で部屋を横切るたび、パリへの憧れや、比してのロシアの悪口をシャットアウトする。
自由なパリを知った四人は、ニノチカの部屋に集まり、配給の卵を持ち寄り、パリ風のオムレツを作ろうとする。
しかし、一人の、一番間抜けという感じの男性がポケットに手を入れると、その卵一個が割れている。
「自分の分は要らない」と言うと、二ノチカが「三個で四人分作れるわよ」とにっこり。
というような、家族的四人なのだ。
窓の外を見て、「あのツバメはパリから来たのか?粗末な餌を食べない」などと言い合って美味しいものとワインの街パリを懐かしむ四人。(この役人男三人は、始めから、ゆとりの心のある楽天家。)
そこへニノチカ宛にレオンからの手紙が届く。しかし検閲済みで、本文は黒塗りされていて読めない。
「でも、思い出までは検閲できないよ」と一人が言う。
読めるのは、「愛するニノチカへ。きみのレオンより」だけ。
コンスタンティノープルへ毛皮の販売に派遣された3役人を調査するようまたニノチカは送り出される。
現地に着くと、3人はロシアレストランを開店させていて、国に戻らないと言う。
「亡命?」と二ノチカが訊くと、「古いニノチカが出て来た」などと3人は笑う。実はこれは、レオンがニノチカを出国させるための作戦だった。レオンは、これからロシア料理店をたくさん出すつもりでいる。
「帰らなくていい、ここが故郷だ」というようなことをレオンが言い、二ノチカと抱き合って、ジエンド。
おまけ的に、夜のロシアレストランの前面のネオンが出て来て、そこには、3人のうち2人の名前だけが入っている(レストラン〇〇&▲▲)。残りの一人が「僕の名前もネオンに入れてくれ」という抗議板をサンドイッチマンのように肩から掛けている姿が入る。
ニノチカは、始め任務遂行ロボットのように描かれる。
「ソレハ人民(じんみん)ノ為ニナルノカ?」というようなガチガチぶりで、それを面白がるような可哀そうがるようなレオンは、すぐにニノチカにぞっこんとなる。
このレオンと付き合ううちに、ニノチカの心に血が通うのだ。
一番象徴的なのが、労働者が通うレストランでのシーン。
ニノチカは、自分を尾行してきたレオンをすぐに見抜く。
「偶然だね!」と隣りの席に座るレオンに、「尾行しないで」と二ノチカ。
「何のこと?」「ここは伯爵のあなたが来る場所じゃないわ」「常連だよ、ね?」とレオンが言うと、ウェイターは「初めまして」。
仏頂面で任務マシンの二ノチカを何とか笑わせようとするレオン。
「俺が、聞いたときに大笑いした話を言うよ。ある男が、カフェで『コーヒーをくれ。クリーム抜きで』と言った。するとウェイターは、『今クリームは切らせていますので、ミルク抜きでいいですか?』」
店の客の労働者たちは大笑い。しかしニノチカは微笑すらしない。
「この話の面白さが分からないのか?」と言ったレオンが興奮して椅子からずり落ちテーブルを破壊すると、
初めてニノチカは大笑い。
ここでニノチカの鎧は外れ、レオンと急速に相思相愛になる。
この時代のソ連と、比してパリの様子がよく描かれていると思った。
「あの五か年計画は尊敬している」とフランス人が言う感じや、ロシア革命後のレーニンからスターリンへという趨勢も窺える。
レオンは、愛人のスワナの写真を銀の写真立てに入れていた。ニノチカと付き合うようになったレオンはそれを引き出しにしまう。
「あの写真立てはどうしたの?最初見たときは銀の無駄遣いと思ったわ。でも今は……」と二ノチカが口ごもると、「ニノチカ!嫉妬してくれているのか?」とレオンは喜ぶ。
まるで、AIロボットに自分の情報をぐんぐんインストールしている(一人で子作りしている)博士のよう、と思った。
可愛い、とは、自分に似ている、の変奏なのかもしれない。
アトムを作ったお茶の水博士を想起。
ソ連の人民のためという使命しか頭になかった、頭脳明晰のお堅いニノチカが、パリで自由主義の伯爵レオンと恋をして、外部から影響を受け、軟化してゆく。ヘンテコなパリの流行帽子を密かに買い、かぶって「似合うかしら」と言うと、「とっても」とレオン。
この映画は、一人の真面目な、生まれ育ちや因習や社会的使命感に雁字搦めになった女性が、愛を得て、固い蕾が花開くように解放されるまでの話、とも言える。
★Wikipediaより★
『ニノチカ』(Ninotchka)は、1939年のアメリカ合衆国のロマンティック・コメディ映画。監督はエルンスト・ルビッチ、
出演はグレタ・ガルボと
メルヴィン・ダグラスなど。
ソビエト連邦を風刺したコメディ。グレタ・ガルボが初めて出演したコメディ作品で、それまでシリアスな役どころが多く「笑わない女優」と呼ばれていたガルボが大笑いするシーンがあることから、公開当時は「Garbo laughs!」(ガルボ笑う)というキャッチコピーが使われた。これは、ガルボが最初に出演したトーキー映画『アンナ・クリスティ』
のコピー「Garbo talks!」(ガルボ話す)をもじったものである。
日本では1949年に『ニノチカ』のタイトルで劇場公開された後、『グレタ・ガルボの ニノチカ』のタイトルでビデオ発売されたことがある[2]。
ストーリー
ロシア革命で貴族から没収した宝石を売却して食料危機に対処するための資金にするため、ソ連貿易省の3人の役人(ブリヤノフ、アイラノフ、コパルスキー)がパリに派遣される。ロシアの大公女スワナの忠臣で現在はホテルマンとして働いているラコーニン伯爵は、3人が所持している宝石が大公女のものであることを知り、彼女に知らせる。彼女の愛人であるレオン・ダルグー伯爵は、裁判所に宝石の不当没収を申し立て、売買・移動の禁止を訴えたと話し、彼らの懐柔を図る。食べ物を運ぶホテルマンや煙草売りの女性が彼らの部屋に入っていくと、中からは楽しそうな声が聞こえる。すっかり懐柔された3人の帽子はシルクハットになる。
3人の仕事が遅延しているため、ソビエト当局は共産主義を信奉するニノチカをお目付け役として参加させることにする。パリ到着の日、駅で3人はそれらしい人物をニノチカだと思って追うが、実はナチスであった。ともかくも3人と落ち合ったニノチカは、ホテルのショップで女性用の奇抜な帽子を見て「あんな帽子を女にかぶせる文明は滅びる」と言う。
ニノチカとレオンの出会いは、横断歩道を渡っている際に信号が変わり、中央分離帯に残されたときである。レオンの部屋で初めてキスを交わしたあと電話が入り、レオンがソビエト当局者の名前の綴りを確認する段で、お互いが敵対者であることを知る。自分が殺したポーランド兵にもキスをしたといって、ニノチカは去っていく。
労働者用レストランに行くニノチカをレオンは追う。レストランでのたわいない会話を通じてニノチカの頑なな心もほぐれ、彼女は心の底から笑えるようになる。その後、ホテルに戻ったニノチカは窓を開け、冬に南に去るツバメに喩えて「私たちには高い理想が、彼らには暖かい気候がある」と言う。
裁判まで2週間となり、3人の役人をパリ見物に行かせたニノチカは、鍵のかかった引き出しからホテルのショップで見かけた帽子を取り出す。そして、カール・マルクスの『資本論』を読み始めたレオンとの邂逅となる。高級レストランで2人は偶然に大公女と居合わせ、ニノチカは自分の立場を思い知らされる。酔いつぶれたニノチカにウラジーミル・レーニンの写真がほほ笑む。
翌日、宝石は盗まれていた。大公女とかつての忠臣だったホテルマンの仕業である。大公女は、レオンを残して夕方の飛行機でロシアに帰るなら、宝石を現金化して渡すとニノチカに持ちかける。ちょうど、レオンからニノチカへ電話があり、2人は「7時に会う」約束を交わしたものの、ニノチカは約束を果たすことなく、大公女の要求通りにロシアへ飛び立つ。
ヨシフ・スターリン政権下のモスクワで卵を持ち寄って3人の役人とニノチカが再会した夜、レオンからの手紙が届くが検閲でほとんど読みとれない。ブリヤノフは「思い出までは検閲できない」と言い残し、3人は帰っていく。
コンスタンティノープルへ毛皮の販売に派遣された3役人を調査するよう、ニノチカは上司であるラジーニン長官から命令される。現地に着くと3人はロシアレストランを開店させ、国に戻らないと言う。これはレオンがニノチカを出国させる作戦だった。「ブリヤノフとアイラノフの店」というネオンが輝いている。店の前で、「ブリヤノフとアイラノフに抗議!私の名前もネオンに」とプラカードを掲げるコパルスキーの姿でエンディングとなる。
キャスト
※括弧内は日本語吹替
- ニノチカ: グレタ・ガルボ(山崎左度子)
- レオン・ダルグー伯爵: メルヴィン・ダグラス(仁内達之)
- スワナ大公女: アイナ・クレア(花形恵子)
- アイラノフ: シグ・ルーマン(英語版)
- ブリヤノフ: フェリックス・ブレサート(英語版)
- コパルスキー: アレクサンダー・グラナック
- ラジーニン長官: ベラ・ルゴシ
- 作品の評価
映画批評家によるレビュー
Rotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は「グレタ・ガルボがキャリア末期にコメディの才能を証明して見せた『ニノチカ』は、見逃せない古典的名作である。」であり、35件の評論のうち高評価は97%にあたる34件で、平均点は10点満点中8.4点となっている[3]。
受賞歴
- 第12回アカデミー賞ノミネート
日本での演劇
1989年に劇団NLTによって『ニノチカ ペレストロイカ万々歳』のタイトルで黒柳徹子、立川三貴、賀原夏子らの出演によって上演された[4]。★