『ジョヴァンニ・エピスコーポの殺人 Il delitto di Giovanni Episcopo』1947年
原題「Il delitto di Giovanni Episcopo」の直訳は、『肉体は降伏する』。
正にそうで、真面目な、公文書館の会計士ジョヴァンニ・エピスコーポが、
スーツを新調した日に羽目を外して
ワルに遭い、その女に一目ぼれして二人のカモにされ、破産し、職場の金を盗もうとするまでになり、
公文書館も辞めざるを得なくなり、破滅。
しかし女性を忘れられない主人公は、ワルが遠出したときにその女性の実家へ行き「二人で落ち着いた生活を送ろう」と求婚、結婚。
しかしその女性はワルと切れていない。女性は、退屈が嫌。主人公は女性にとって、退屈そのものなのだ。
女性との間に息子が生まれると(女性は主人公に「あなたの子よ」と言う(ここでお腹の子が主人公の子であるために、物語のためにワルは遠出していた(させられていた)のだろう))、その子と主人公は愛し合う。とてもいい子、可愛い子。しかし母親の女性はまだワルと切れていず、秘密裡に旅行しようとしていたところ、学校を早退した息子が主人公の工場に来て一緒に帰宅。
ワルを見つけた主人公、ワルの前で「(ワルに)挨拶しなさい」と息子を平手打ちする女性。息子はワルの匂いを嗅ぎ、生理的に受け付けないのだ。
息子を庇う主人公は、息子が倒れた際に、手元にあった刃物でワルを刺殺、殺人犯となってしまう。
主人公は息子と一緒に、元の下宿に行く。すると大家の母娘は、まるで自分の家族のように息子を手厚く看病。
ここに妻である女性が来る。女性は息子を撫でる。
そこへ、主人公が犯した殺人事件の記事が載った夕刊を持って大家の主人が帰宅。大家は主人公に起こった全てを理解している。主人公は、この下宿に16年いて、その生活を「死んでいるよう」と感じ、ワルに引き寄せられ、破滅したのだ。人生双六スタート地点に戻った主人公は、妻と息子を残し、家を出、自首してジエンド。
ラストシーンで、ここを出なければ良かったのに、ここの三人は、主人公の本当の家族のようだったのに、と思うも、本当の家族だったから、主人公はそこを一旦出て、人生の旅をせねばならなかったのだ。
ザ・人生、と思った。
主人公はきっと、愛し合える息子に出会うために、ヤバい男女に遭わねばならなかったのだ。
息子が本当に愛おしいことが伝わってきて、主人公は本当の命を得た、この子のことを考えれば、魂は休まる、と思った。
近いものの良さは、遠くなってみないと分からないのだが、あのまま主人公があの下宿にいたら、もしかしていつかエネルギーが悪く溜まって家主一家を殺してしまったかもしれない。
と思うと、こうするしかなかった、と思うしかない。
冒頭、毎日同じ時間に同じことをする規則正しい主人公が、突如スーツを新調して、そこからリズムが狂い出すのだが、真面目な主人公はきっと、狂いたかったのだろう。
そして自分を狂わせてくれる男女に出会った。
このワル男は、燃料。女が火。
燻(くすぶ)っていた主人公が欲していた二つの、セットだった。
この映画を観ていると、一人の人間の周りには、同じ性質の人が円を作っている、と思う。
そんなに世の中単純じゃないだろう、とも思うも、実は顕微鏡で見るシャーレの細菌の規則正しい同心円のように、人間社会の物事も、単純な同心円なのかもしれない。
ワルとの出会いは、盛り場でのビリヤード場。イカサマをしているワルがキレて投げたコップが、主人公の額に当たり、ワルが知り合いの医者に連れていき、その際ワルが主人公のポケットに預金通帳を見つけ、額を見て使えるカモだと目を付けられたのだ。
これが因縁。しかし、因縁を怖がると、一歩も外に出られない。ここがジレンマ。
主人公のこの額の傷は、正に十字架。この傷の原因を、主人公は息子に偽って話していたが、最後に「実はそうじゃないんだ」と告白、そして別れるのだ。
イタリアの心情は日本に似ている、と思った。
この映画は、黒澤明の『生きる』に似ている。生きる (映画) - Wikipedia
★『肉体は降伏する』(イタリア語: Il delitto di Giovanni Episcopo)は、アルベルト・ラトゥアーダ監督
による1947年のイタリアのドラマ映画である。[1] ガブリエレ・ダンヌンツィオ
の小説『ジョヴァンニ・エピスコポ』
★ジョヴァンニ・エピスコポは、イタリアの作家ガブリエーレ・ダンヌンツィオによる1891年の小説です。貧しいイタリア人店員が、妻と支配的な同僚に辱められる物語です。ダンヌンツィオの2作目の小説である。フョードル・ドストエフスキーなどのロシアの作家からインスピレーションを得ました。(注1)★
が原作。1947年のカンヌ国際映画祭に出品された。(注2)
プロット
ジョヴァンニ・エピスコポは控えめな店員で、恥ずかしがり屋で不器用です。男は、自分が運命によって永遠に罰せられることを知らない。実際、ジョバンニはジネヴラと恋に落ちます。二人は結婚し、息子を産み、ジョバンニが貯金で買った家に住むようになります。ジョバンニの友人で、ジネヴラと恋愛関係にあったジュリオ・ヴァンツァーは、彼の人生を台無しにすることを決意しています。ジネヴラの性格は変化し、より残酷で攻撃的になり、思い込みの極みでジョヴァンニの家に入れられたジュリオがジネヴラとその息子に攻撃的になると、ジョヴァンニは怒りに狂い、ジュリオを殺します。
キャスト
- アルド・ファブリツィ:ジョヴァンニ・エピスコポ
- ロルダーノ・ルピ:ジュリオ・ヴァンツァー
- イヴォンヌ・サンソン:ジネヴラ・カナーレ
- アヴェ・ニンチ(エミリア・カナーレ役
- アメデオ・ファブリツィ(チーロ・エピスコポ役
- ナンド・ブルーノ(アントニオ役
- アルベルト・ソルディ(ドベルティ役
- フランチェスコ・デ・マルコ(カナーレ役
- リア・グラニ:シニョーラ・アデル
- マリア・ゴネッリ(サンティーナ役
- ジノ・カヴァリエーリ(アーカイブ・ディレクター)
- ジャン・ルカ・コルテーゼ - アルグティ侯爵役(ルカ・コルテーゼ役)
- フォルコ・ルッリ(カルリーニ役
- ガレアッツォ・ベンティ(騎兵将校)
- シルヴァーナ・マンガーノ(ダンサー)
- ジーナ・ロロブリジーダ(ダンサー)
脚注
- ^ "Il delitto di Giovanni Episcopo (1947)".シネマイタリアーノ。2015年3月11日閲覧。
- ^ 「カンヌ映画祭:肉体は降伏する」。festival-cannes.com。2015年3月11日閲覧。★