映画の小部屋『天国と地獄』1963年☆☆☆☆☆

『天国と地獄』1963年

High and Low (Tengoku to Jigoku) 1963 trailer with subtitles

（三船敏郎、加藤武、仲代達矢ら）

最初から最後まで緊迫感が途切れず、凄過ぎる映画だと思った。

靴の工員から一流靴屋の常務にまで上りつめ、丘の上に豪邸を建てた富豪三船敏郎VS.貧乏の内科医インターン三畳間学生山崎努という二極対立構造なのだが、全員凄い。

黒澤明指揮による、黒澤交響楽団。全員の役者から、一番いい音を引き出していると感じた。

刑事たちを率いる捜査現場指揮者は仲代達矢。

ある日、三船演ずる権藤邸に、お宅の一人息子を誘拐した、身代金は3000万、という電話がかかってきた。

★権藤金吾

演 - 三船敏郎

製靴会社「ナショナル・シューズ」の工場担当常務。16歳で見習い工として入社した叩き上げ。仕事に対して高い理想と信念を持つ余り、自らの社内勢力を強化しようと躍起になっているが、実直な性格で現場の職人たちからの信望は厚い。★

妻が駆け付け、「息子を返してくれるならいくらでも出す」と言った権藤だったが、息子はいた。犯人は、一緒に遊んでいた権藤の運転手の息子を間違って誘拐したのだった。

（奧の左が運転手青木の息子しんちゃん、右が権藤金吾の一人息子）

（奧で立っているのが、運転手の青木）

とたんに、権藤は悩む。五千万という金を権藤は用意していた。それは、社長重役の持ち株を合わせたものより多くの株を買い集めようとして水面下で動き、今夜大阪に行ってそれを買い、会社を乗っ取るための金だった。

ここがジレンマ。権藤は、自分の息子が誘拐されたと思ったから金などいくらでも出す、息子の命さえあれば、と言ったのだが、いざ誘拐されたのが運転手青木の息子と分かると、その勢いはないのだ。つまり悩みが生じ、つまり天秤にかける。

絶対ではなくなるのだ。

そして、どうしようかと逡巡する。妻は「しんちゃんを助けてあげて。一文無しになったって、そこからやり直せばいいわ」「お前はお嬢様育ちだから、本当の一文無しがどんなに惨めか知らないんだ」。

運転手の青木は、自分の雇い主の権藤の立場が危ういことと自分の息子の命が危ないことのはざまでもうどうしようもない。見ていてこの青木に感情移入してしまう。

青木が「すみませんでした」などと謝ろうものなら、「そんなことをするな」と権藤。

家の中の独裁者、権藤が、この事件で本来の良さが表出、柔軟になり、変わってゆく。

それまでは、とにかく会社の人間関係の権謀術数に囚われていたのだ。

刑事たちは、人生を懸けて悩み、行動する権藤の魅力に惹かれていく。

この感じは何かに似ていると思ったら、同じく三船主演の『七人の侍』。

真犯人は、薬中の男女を使い、しんちゃんを返す。この方法が、身代金を持って電車に乗れ、そうしたら鉄橋の所でこどもが生きていることを見せる、

それを確認したらその先で、７センチしか開かない窓から鞄二個を落とせというもの。

その通りにすると、こどもは解放され、運転手青木は抱き締める。

この後警察が権藤の為に動くのが昭和という、武士マインドの名残があった時代。

「真犯人はこれでつかまっても12年牢屋に入っているだけ。権藤さんは実質終身刑だ（クーデターがバレ、会社の役員から外される、会社にもいられなくなる）。犯人を死刑にするには、ここで捕まえずに泳がせ、再犯させるんだ」。

これを言うのが仲代達矢。

真犯人は、共犯二人を、純度の高い薬を渡すことで、自ら手をかけずにショック死させた。（純度の高いヘロインはなかなか出回っていない。普段純度の低いヘロインで薬中になっている人が純度の高いヘロインを注射するとショック死する）

警察側は、電話の録音の背景音やしんちゃんの証言などから真犯人に近づく。

結構最初から山崎努が真犯人ですと視聴者にバレる感じで出て来て、視聴者は山崎努が真犯人と分かっている。

ゆえに視聴者は、マズイ、危ない、と声を出しそうになりながら、趨勢を見守ることになる。

警察側は、マスコミも身内にし、共犯二人の死を伏せ、二人が、分け前の札（ナンバーが控えてある）を使ったと記事に出した。

その新聞を読んだ真犯人は、この二人を再び殺しにやってくるだろうという目論見。

捜査本部総出で尾行すると、山崎努演じる真犯人は、街中で権藤を見かけ、彼に煙草の火を借りるという大胆なことをする。その後花屋でカーネーションを一本買い、胸ポケットに挿し、中華街の外国人がたくさんいる中で女と踊り、

警察が見失った辺りでヘロインを入手、ヘロイン中毒者だらけのエリアに入り（ここが現代舞踊、武満徹の音楽っぽい。又は「スリラー」のMV）、

中の一人を宿に連れ込み、

ヘロインを渡し、その女は注射を打ち即死。

なぜ女にヘロインを渡したかというと、それでヘロインの純度を確かめるため。

刑事たちが駆け付けると、女は白目で白い涎を垂らし、既に死んでいる。

真犯人は、共犯二人が死んでいた家に現れた。（↓このシーンが伊丹十三映画っぽいと思った）

そこを逮捕。

権藤は、会社を追われることになり、抵当に入っていた家には、管財人が入っている。

「身代金は、真犯人がヘロインに使った二万円以外取り返しましたが、遅かったようですね」と仲代。

シーン変わって、「死刑の決定した真犯人が、牧師には会わず、でも権藤さんに会いたいと言っているんです」で権藤は、刑務所に。

出て来た山崎努が「最近どうですか」というようなスカシタことを訊くと、

「俺を雇ってくれる小さな靴会社があって、そこを俺は、古巣のナショナルシューズに負けない会社にしたいんだ」。

「俺が死刑になって嬉しいか？」というような挑発を始める真犯人。

「俺んちからあんたの丘の上の豪邸を見ているうちに、あんたが憎くなった。あんたは天国、俺は生まれた時から地獄。でもおふくろもこの間死んで、これがジメジメした最後になんなくて、良かったよ」と、真犯人は最後は絶叫し、頭を掻きむしり、

制する人が来て、権藤の前で黒いシャッターが閉まって、ジエンド。

黒澤明の統率力と黒澤組の結束、凄い、と思った。

原作はエド・マクベインの『キングの身代金』。

★野心家のキングは窮地に追いこまれた。 彼の息子の誘拐を企てた犯人が、誤って運転手の幼い息子を連れ去ったのだ。 身代金の要求は五十万ドル。★

音楽は佐藤勝。佐藤勝 - Wikipedia

佐藤勝の世界＿CD

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★映画化の動機は2点あり、🔶🔶🔶🔶「徹底的に細部にこだわった推理映画を作ってみよう」ということと「当時の誘拐罪に対する刑の軽さ」（未成年者略取誘拐罪で3ヶ月以上5年以下の懲役〈刑法第224条〉、営利略取誘拐罪で1年以上10年以下の懲役〈刑法第225条〉）に対する憤り」だという。🔶🔶🔶🔶

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★Wikipediaより★

『天国と地獄』（てんごくとじごく、High and Low）は、1963年（昭和38年）に公開された日本映画。監督は黒澤明、主演は三船敏郎。モノクロ、東宝スコープ、143分。毎日映画コンクール・日本映画賞などを受賞した。

概要

1961年に『用心棒』、『椿三十郎』と娯楽時代劇を世に送り、次回作には現代劇を構想していた黒澤が、たまたま読んだというエド・マクベインの小説『キングの身代金』（1959年、「87分署シリーズ」の1つ）に触発され、映画化した作品である。映画化の動機は2点あり、「徹底的に細部にこだわった推理映画を作ってみよう」ということと「当時の誘拐罪に対する刑の軽さ」（未成年者略取誘拐罪で3ヶ月以上5年以下の懲役〈刑法第224条〉、営利略取誘拐罪で1年以上10年以下の懲役〈刑法第225条〉）に対する憤り」だという。

映画は興行的には成功を収めたものの、公開された3月以降、吉展ちゃん誘拐殺人事件など都内を中心に誘拐事件が多発した。映画の公開は中止されなかったが、国会でも問題として取り上げられ、1964年の刑法一部改正（「身代金目的の略取（無期または3年以上の懲役）」を追加）のきっかけになった^[2]。

あらすじ

 

横浜の製靴会社『ナショナル・シューズ』社の常務・権藤金吾の元に、「子供を攫った」という男からの電話が入る。そこに息子の純が現れ、いたずらと思っていると住み込み運転手である青木の息子・進一がいない。誘拐犯は子供を間違えたのだが、そのまま身代金3000万円を権藤に要求する。

デパートの配送員に扮した刑事たちが到着する。妻や青木は身代金の支払いを権藤に懇願するが、権藤にはそれができない事情があった。権藤は密かに自宅を抵当に入れてまで自社株を買占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を手に入れようと計画を進めていた。翌日までに大阪へ5000万円送金しなければ必要としている株が揃わず、地位も財産も、すべて失うことになる。権藤は誘拐犯の要求を無視しようとするが、その逡巡を見透かした秘書に裏切られたため、一転、身代金を払うことを決意する。

権藤は3000万円を入れた鞄を持って、犯人が指定した特急こだまに乗り込む。が、同乗した刑事が見たところ車内に子供はいない。すると電話がかかり、犯人から「酒匂川の鉄橋が過ぎたところで、身代金が入ったカバンを窓から投げ落とせ」と指示される。特急の窓は開かないと刑事が驚くも、洗面所の窓が、犯人の指定した鞄の厚み7センチだけ開くのだった。権藤は指示に従い、その後進一は無事に解放されたものの、身代金は奪われ犯人も逃走してしまう。

戸倉警部率いる捜査陣は、進一の証言や目撃情報、電話の録音などを頼りに捜査を進め、進一が捕らわれていた犯人のアジトを見つけ出すが、そこにいた共犯と思しき男女はすでにヘロイン中毒で死亡していた。これを主犯による口封じと推理した戸倉は、新聞記者に協力を頼み共犯者の死を伏せ、身代金として番号を控えていた札が市場で見つかったという嘘の情報を流す。新聞記事を見た主犯は身代金受渡し用のかばんを焼却処分するが、カバンは燃やすと牡丹色の煙が発する仕掛けが施されており^[3]、捜査陣はそこから主犯が権藤邸の近所の下宿に住むインターンの竹内銀次郎という男であることを突き止める。

竹内の犯罪に憤る戸倉は、確実に死刑にするためにあえて竹内を泳がせる。竹内は横浜の麻薬中毒者の巣窟で、純度の高い麻薬使用によるショック死の効果を実験したのち、生きていると思った共犯者を殺しに来たところを逮捕される。かくして事件は終結し権藤の元に身代金は戻ったが、一足遅く自宅が抵当に入ってしまうのだった。

後日、竹内の死刑が確定。権藤は竹内の希望により面会する。最初こそ不敵な笑みを浮かべながら語る竹内だったが、権藤は既に新たな職を得て再起を図っていると語る。やがて竹内は彼が天国、自分が地獄にいたという恨みを語ったのち、突然金網に掴みかかり、絶叫する。竹内は刑務官に取り押さえられ、2人の間にシャッターが下ろされる。★