『美しき野獣 Klondike Annie』1936年
メイ・ウェストの、たっぷりした色気、肝っ玉の据わった愛、悟ったような泰然、が全開になっている映画。
1890年代のサンフランシスコのチャイナタウン。
メイ・ウェスト演じるローズは、サンフランシスコ・ドールと呼ばれるほどの美しい人気歌手。
ローズは、彼女が歌手をしている賭博場の経営者チャン・ロウの愛人にされ、囲われている。
(ローズと、彼女の大ファンのような(笑)お付きのメイド)
束縛に反発して、金が出るためゴールドラッシュで賑わうアラスカへ船で逃げようとしたローズは、見つかり、正当防衛でチャン・ロウを殺してしまう。
(チャン・ロウとローズ)
アラスカ行きの船に乗ると、その船長ブル・ブラケットと惹かれ合う。シアトルに寄港した際、「殺人容疑者サンフランシスコドール=ローズ・カールトンの指名手配」のビラが配られるが、ブルはそれを見ても、ローズに対する気持ちを変えない。
途中バンクーバーで乗船してきたアニーというシスターと同室になったローズは、病気のアニーの看病をしているうちに聖書を学び、影響を受ける(「いい女は誘惑が多いわね」とアニーはローズに言う)が、アニーは他界。
警察に追われていることが分かったローズは、アニーと入れ替わり、死体をローズ、自分をアニーとして、シスターとして振る舞う。ブルは、ローズがアニーと名乗ることに協力。ブルはローズに「きみにどんな事情があろうと、きみへの愛は変わらない」、と言う。
(ローズと船長のブル)
アラスカに着いてシスター・アンとして迎えられ、福祉施設を創立(ここは金の採掘の探鉱労働者がたくさんいる。その労働者が稼いだ金を、酒場の女店主は酒浸りにして巻き上げようとする。ローズはアンが乗り移ったかのように、その女店主を「与えられるより与えるほうが幸福」と諭し、福祉施設への寄付を請う。すると女店主は多額の寄付をするように。労働者たちも、福祉施設(教会として機能)に通うようになって、家族愛を取り戻す(何週間も家出していた労働者が泣いて奧さんへの愛を告白すると、施設の端に奧さんがいて(笑)、二人は再会を喜び、抱き合って帰宅(笑)、周囲から拍手(笑)))、軌道に乗せていると、
今度はローズを追ってきたイケメンの警官(笑)が、
アンを名乗るローズにフォーリンラブ(笑)。
この警官が、「こんな気持ちは初めてなんだ。二人でどこかに行って暮らそう。自分は警官を辞めてもいい」と言うと、その警官を本気で愛していたローズは、自分がアンではなく殺人容疑者のローズだと分かるとこの警官が免職されるだろうと危惧し、彼に別れの手紙を送り、彼はそれを読んで失恋、ローズはブルの船へ戻る。
ブルが「南太平洋に逃げて二人で暮らすことに同意してくれたんだな」と言うと、「そうじゃない、サンフランシスコに戻って。アンに事件のことを話したら、『正当防衛だから裁判になれば勝つ』と言ってくれたのよ」。
そうか、とブルは進路を変え、船はサンフランシスコに向かう。
二人だけの船室のベッドでブルが「お前は俺の原動力、命。お前を失うくらいなら、お前を殺す」と言い、「それは情熱的な愛ね」とローズが言って、ジエンド。
囲われ愛人歌手の俗がシスターの聖に対極転移する様に、『天使にラブソングを』を想起。俗を極めるとシーソーのように聖に反転しやすいのかもしれない。ヤンキー(一所に落ち着かない冒険者。死の寸前までチキンゲームを繰り返した人)を極めた人が人間存在の物理的限界に気づき、そのラインに聖性を感じて突如神父になるかのように。
メイ・ウエストの、決して揺らがない生き軸のようなものが画面から伝わってきた。それが男性、というより人を惹き付けるのだろう。抗えない引力、大陸的母性。
この二人の役者だからこそ成り立つ、太く強い愛の船旅物語。
邦題の「美しき野獣」は、最初船長ブルのことかと思っていたが、ローズも美しき野獣か、と思い直した。
原題は、「Klondike Annie」。クロンダイクとは、アラスカの金産地の地名。
★Klondike[名]クロンダイク(◇カナダ中西部の地域;金産地)★
船はNome港に着いた。
★クロンダイク・ゴールドラッシュ(英語:Klondike Gold Rush)は、カナダ・ユーコン準州クロンダイク地方
で1896年から1899年に起きたゴールドラッシュである。1896年8月にクロンダイク地方で金鉱が発見されたニュースがアメリカ合衆国のシアトルやサンフランシスコに伝わると、一攫千金を狙う人々が大挙し殺到した。ゴールドラッシュで出来た町ドーソン・シティーは一時人口が3万人以上にまで膨れ上がった。
10万人以上がクロンダイクを目指したが、厳しい気候や地形の険しさのため到達出来たのは3万人から4万人、その中で幸運にも金を採掘出来たのは約4,000人と言われる。★
1899年にアメリカ合衆国アラスカ州ノームで金鉱が発見されると、人口流出が起きゴールドラッシュも終焉することになった。
ユーコン・ゴールドラッシュとも呼ばれる。★
乗り物上の愛&アジア関係&主人公女性の濃密で抗えない吸引力という共通項において、マレーネ・ディートリッヒの『上海特急』に似ていると思った。上海特急 - Wikipedia
マレーネ・ディートリッヒ
メィ・ウエストとディートリッヒのオフショットだろうか
★Wikipediaより★
『美しき野獣』(うつくしきやじゅう、Klondike Annie)は、メイ・ウエストと
の主演により、1936年に公開された白黒のドラマ映画。ウエストが1921年に書いた戯曲『Frisco Kate』を基に、マリオン・モーガン(英語版)とジョージ・ブレンダン・ドウェル (George Brendan Dowell) のチームが脚本を共作した[1][2]。監督は、ラオール・ウォルシュ
が務めた。
あらすじ
1890年代のサンフランシスコの中華街。歌手であるローズ・カールトンは、「フリスコ・ドール」という名で賭博場の舞台に立ち、経営者チャン・ロウの愛人にされていた。そこから逃げ出そうとしてロウに発見された彼女は、ロウを殺してしまい、逃亡する。乗り込んだアラスカ行きの船の航海中、ローズは船長ブル・ブラケットと惹かれ合う。
途中で寄港したシアトルから、アラスカでの伝道に赴くアニー・オルデンが乗り込んでくる。ブルは警察の手配からローズが殺人犯である事を悟り、困惑するが、彼女を助けることを決意する。一方、ローズはアニーと接するうちに聖書を学び始める。ところが、船がアラスカへ到着する前に、アニーは船中で病死してしまう。...[3]
キャスト
- メイ・ウエスト - フリスコ・ドール (The Frisco Doll) / ローズ・カールトン (Rose Carlton) / シスター・アニー・アーデン (Sister Annie Alden)
- ヴィクター・マクラグレン - ブル・ブラケット (Bull Brackett)
- フィリップ・リード - 警視正ジャック・フォレスト (Insp. Jack Forrest)
- ヘレン・ジェローム・エディ - シスター・アニー・オルデン (Sister Annie Alden)
- ハリー・ベレスフォード - ブラザー・バウザー (Brother Bowser)
- ハロルド・ヒューバー(英語版) - チャン・ロウ (Chan Lo)
- ルシール・グリーソン(英語版)(Lucille Webster Gleason 名義)- ビッグ・テス (Big Tess)
- コンウェイ・タール(英語版) - ヴァンス・パーマー (Vance Palmer)
- エスター・ハワード - ファニー・ラドラー (Fanny Radler)
- ソー・ヨング(英語版) - ローズのメイド、ファー・ウォング (Fah Wong, Rose's Maid)
- ジョン・ロジャース (John Rogers) - バディ (Buddie)
- テッド・オリヴァー (Ted Oliver) - グリッグスビー Grigsby)
- ローレンス・グラント(英語版) - サー・ギルバート (Sir Gilbert)
- ジーン・オースティン(英語版) - オルガン奏者
- ヴラディマー・バイコフ (Vladimar Bykoff) - マリノフ (Marinoff)
評価
グレアム・グリーンは、1936年に『スペクテイター (The Spectator)』への寄稿で、この映画を好意的に評し、「映画全体が楽しめるし、大傑作『わたしは別よ』以降のミス・ウエストの出演作のどれよりも面白い」と述べた。グリーンは、自分の意見が少数派であろうと認めた上で、ホーリネス運動の救済の姿を描いたウエストの演技が、害のない楽しいものであり、宗教に対する風刺ではないという自身の解釈を強調している[4]。★