『晩餐八時 Dinner at Eight』1933年
大恐慌時代のニューヨークの話。
人は、うまくいかなくなったとき、その人の人生が漏れてきて、観客にとって面白くなる。
逆に言うと、うまくいっているときというのは、つまり秘密が体内に保持されているのだ。
いわゆる役者が揃っているというこということなのだろう。それぞれの登場人物が、ただそこにいるだけで面白い。当て書きなのかなと思った。それぞれハマり役過ぎるので。
ある晩餐会の舞台裏のドタバタ劇で、主催者夫婦と招待客八人がビリヤードの球のように裏で接触関係しているという構造。
ホスト夫婦の夫は、その昔、国民的人気の絶頂にあった女優に求婚。夫21歳で、女優は30代だった。
(左が元国民的女優。)
この女優は今破産寸前。かつて求婚してきた、今汽船会社の社長である男の会社の株を手放そうとしている。しかしそれは困る、会社が潰れる、と社長。この株を買い占めて成り上ろうとしているのが、元炭鉱夫の田舎出身の男。この男の現妻は、主治医と不倫。この主治医が、最近調子の悪い汽船会社の社長を診ると、冠動脈血栓で余命わずか。
(社長夫婦と、医師)
元炭鉱夫と元場末のクラブ勤めの妻は喧嘩が絶えない。
夫は妻を「拾ってやった」という認識。妻の医師との不倫もバレる。医師は妻に不倫がバレる。妻は医師を二重人格の色情魔と言う。医師もそれに同意。「本当に愛しているのはお前だけだ」と医師は妻に言う。
元クラブ勤めの妻は夫が株を買い占めることをやめさせようとする。
晩餐会主催夫婦(汽船会社社長夫婦)の娘は、元国民的人気俳優と恋仲(俳優は三回結婚していて、今も別の女性と婚約中)。
この俳優は、自分はまだ一流のつもり。しかし実のところ、エージェントがプロデューサーに頭を下げ、やっと観光地のビーチでの死体役が得られるか否かという状態。
(左から、プロデューサー、俳優、エージェント)
そのことにやっと気づいた俳優は、泊まっている部屋の退出をホテルの社長から求められた後で暖炉のガスだけつけ、火をつけずにガス中毒自殺。ここで、発見された際を想定して死に顔を気にして鏡を見たり髪を撫でつけるのを忘れないのが役者の性(さが)。この自殺を、晩餐主催夫婦の娘に教えたのが、俳優と同じホテルに泊まっている元女優。この元女優の「人生全部経験しました」オーラが越路吹雪のようでかっこいい。
晩餐会が催される寸前、自慢のライオンを象ったゼリーの前菜(ロンドンから来る主賓夫妻の国 英国を讃えるためのモチーフだった)は床に落っこちる。それが落ちたのは使用人の男二人の喧嘩ゆえ。同じく使用人である一人の女性を取り合った喧嘩。
電話で主賓夫妻(卿の付く、ロンドンの有名夫妻)が来ないことが分かると、主催者の妻はパニック。
主賓夫妻の代わりに数合わせとして会に呼ばれた主催者夫婦の親戚の夫はグレタ・ガルボの大ファンで、彼女主演の映画を観に行きたい。
呼ばれていた元人気俳優の死は伏せられ(元女優と主催者夫婦の娘のみが知っている)、汽船会社の株は買い占められを逃れそう。主催者の夫の死が迫る中、それぞれの思惑はそれぞれの胸中に秘められ、あくまでも穏やかに、晩餐会は午後八時に始まったのだった、でジエンド。
1933年公開ゆえ、世界恐慌の真っ只中という設定。
(左から、晩餐会主催の、汽船会社社長夫妻。医師夫妻。買い占め屋夫妻。俳優と社長夫妻の娘、かつての人気女優。)
「かつての人気女優」の役は、今ならジュディ・デンチなのでは、と思った。
脚本家が女性ということに納得。セリフに女性心理が描かれていると思った。
タイトルの『8時の夕食』が洒落ていて素敵だと思った。
医師と不倫する炭鉱夫の妻キティ役のジーン・ハーロウの人気絶頂期だったのだろう。彼女中心の広告が目立つ。
ジーン・ハーロウ
★Wikipediaより ★
『晩餐八時』(ばんさんはちじ、原題:Dinner at Eight)は、1933年に製作・公開されたアメリカ合衆国の映画である。ジョージ・S・カウフマンとエドナ・ファーバーの同名戯曲(1932年ニューヨーク初演)の映画化であり、前年の『グランド・ホテル』
に次ぐメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)のオールスター映画として製作された。
キャスト
- カーロッタ・ヴァンス:マリー・ドレスラー
- ラリー・レノールト:ジョン・バリモア
- ダン・パッカード:ウォーレス・ビアリー
- キティ(ダンの妻):ジーン・ハーロウ
- オリヴァー・ジョーダン:ライオネル・バリモア
- マックス・ケイン(ラリーのエージェント):リー・トレイシー
- ウェイン・タルボット:エドマンド・ロウ
- ミリセント(オリヴァーの妻):ビリー・バーク
- ポーラ(ジョーダン夫妻の娘):マッジ・エヴァンス
- ジョー:ジーン・ハーショルト
- ルーシー(ウェインの妻):カレン・モーレイ
- アーネスト(ポーラの婚約者):フィリップス・ホームズ
スタッフ
- 監督:ジョージ・キューカー
- 製作:デヴィッド・O・セルズニック
- 脚本:フランシス・マリオン、
- ハーマン・J・マンキーウィッツ
- 音楽:ウィリアム・アクスト
- 撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ
- 編集:ベン・ルイス
- 美術:ホーブ・アーウィン、フレドリック・ホープ
- 衣裳:エイドリアン
- 録音:ダグラス・シアラー★