『ハムレット Hamlet』1948年
ハムレットはとにかく怒っている。
自分の父を殺して王になった叔父(父の弟)と、父の喪に服さずすぐに叔父と結婚した母に怒っている。
そして女というものに不信感を抱き、恋愛中だった、叔父の重臣の娘オフィーリアのことも、
女という生き物であるが故に憎み、尼寺へ行けと言う。
父の後は自分が王になるはずだったのだが、王位は父の弟の叔父に。
ハムレットの父は、弟に毒液を耳に入れられて殺されたと、亡霊の姿でハムレットに告げに来た(表向きは、父は毒蛇に噛まれて死んだことになっていた)。
ハムレットは、必ず仇を討ちますと父の亡霊に告げる。
ハムレットは苦悩する。とにかくどこででも、声に出して独白する。それがことごとくポエム。
シェイクスピアは、これらのセリフを、鳥の羽根で書いていたのだと想像ができる。言葉が飛んでいる。羽を得て羽ばたいている。
(『恋に落ちたシェイクスピア』より)
ローレンス・オリヴィエはシェイクスピア俳優であるから、そのトートロジーの多いセリフを歌のように語ることが出来る(監督もローレンス・オリヴィエ)。イギリスはマザーグースの国。歌うように真実を語る国。
生きるべきか死ぬべきか。正にそれが問題だ。
それを悩むべき時機の、それを悩んで大袈裟ではない立場のハムレット。
忠臣蔵を想起。耳なし芳一も想起。平家物語も想起。
とにかく室町時代っぽい。血で血を洗う、復讐劇。
イギリスはとにかく演劇の国なのだ。王は演劇を観る。演劇一座が全国を行脚している、そういう国。
だから演劇が鍵になるという作品になる。(ハムレットはデンマークの国王の息子という設定。)
旅の一座を呼び、ハムレットはその演者にセリフを加える。
ハムレットは、オフィーリアの父から狂人と思われている。
ハムレットはそのことを利用し、狂人を演じつつ、新国王である叔父に劇を観せ、王役の役者のセリフに叔父が苦しむように仕組む。
劇は新国王の妻である自分の母もオフィーリアもオフィーリアの老いた父も観ている。
そんな中、劇は始まる。
劇は、叔父の王殺害の様子を再現。
『カインとアベル』が人類初の殺人を描いた作品。それも兄弟殺し。
劇を観た叔父は兄殺しの罪に苦しみ、一人神に祈る。
そこでハムレットは叔父を殺そうとする。しかし、祈っている最中の人間を、父親の亡霊の命令で殺すのは雇われ仕事じゃないか、と殺さずにおく。
「狂人」のハムレットを、叔父はイギリスに送る。そこでの生活が療養になるだろうというのが表向きの理由で、実はイギリス王と組み、着いたらハムレットを殺す約束だった。
しかしハムレットの乗った船は海賊に襲われ、ハムレットだけが海賊船に乗り込むことになり、結果命が助かった。
ハムレットは、叔父に知られずデンマークに戻る。
すると墓場でオフィーリアの粗末な葬式が行われている。自殺はキリスト教で罪なため(自殺と判断されたのだろう。語りでは、川辺で花輪を枝にかけようとして、と事故に思われたが。)、讃美歌などが歌われないのだ。
棺なくオフィーリアの死体が埋められようというところへ、フランスに留学(又は遊学)していた、オフィーリアの兄が飛び込み、嘆く。するとその大袈裟な様子にハムレットはカッとなり、物陰から出ていき、オフィーリアの兄と取っ組み合いに。
オフィーリアは、自分の父親が死んだ悲しみのために狂って
川に落ちて溺死したのであり、
(ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」(1852年)、テート・ギャラリーのコレクションより。)
オフィーリアの父を、叔父と間違って刺し殺したのは、ハムレットだった。
それは、ハムレットが母親に、叔父が父親を殺したのだと教えているときのことで、
オフィーリアの父は母の部屋のカーテンに隠れていたのだった。
ハムレットの叔父の現王は、オフィーリアの兄と組み、ハムレット殺害を目論む。
オフィーリアの兄とハムレットの剣の試合を催すということになっていたが、オフィーリアの兄の剣先は先止めがなく、そこに毒が塗ってあり、刺したら死ぬことになっている。蒸し暑い日。ハムレットが飲む盃にも毒が塗ってあり、それを飲んでもハムレットは死ぬ。
ハムレットの母は息子を救うために、自ら盃を口にする。
ハムレットが刺され、オフィーリアの兄も刺される。
オフィーリアの兄が死を覚悟し、ハムレットに全てバラす。そして死ぬ。
母も死ぬ。
ハムレットも死を覚悟し、檀上から飛び降りて叔父を何度も何度も刺す。
倒れた叔父の頭から王冠が外れる。叔父は王冠を取ろうとするが、手が届く前に息絶える。
ハムレットの親友が、ハムレットを城の上に置いてくれ、ハムレットはその地位に就けば、偉大なことをする人間だったと言う。
ハムレットの死体が、階段を上がって運ばれ、塔の上に着いたところで、ジエンド。
近松門左衛門を想起。近松門左衛門 - Wikipedia
シェイクスピアのセリフは、江戸時代の歌舞伎のセリフ同様、読む人を恍惚にさせる。音読したくなるセリフ。
音読するとうっとりして、現世の悪が心地よい調べに代わる、そういうカタルシス浄化マジック。
そもそも演劇とは、そういうマジックなのだろう。
古代ギリシャなどでは、そのような施術がなされていたのだろう。
そのような施術が、演劇の始まりなのだろう。
つまり、ロールプレイングによる、自己客観化セラピー。
悩みとは、問題に近視眼的に対してしまっている拘泥コンディション、距離のことで、演劇を観てアハハと笑えれば、それで治療完了(問題からの引きはがし、遠隔化)なのだろう。
『ロミオとジュリエット』でのロミオとジュリエットが、『ハムレット』ではハムレットと母になっているのだと思った(ラストの毒死の間に合わない感の所)。
『ロミオとジュリエット』もハムレットとオフィーリアも、これしかない、という音。
『恋に落ちたシェイクスピア』で、タイトルが始めちょっとピンと来ないもの(恋人同士の名前が)だったが、それをライバルの戯作者の提案で変えたというのは、さもありなん、と思えた。タイトルの音感がとにかく大事。
ローレンス・オリヴィエのシェイクスピアや演劇という様式に対する信頼、誇りを感じた。
ウィリアム・ウォルトンの音楽も、テーマと同期する壮大さ、素晴らしさだった。
★ 映画音楽
シェイクスピア3部作
ローレンス・オリヴィエの制作・監督・主演による3作は映画史上も傑作とされる。音楽も、ウォルトン自身(上述)やミュア・マシーソン、クリストファー・パーマーなどによって演奏会用に編曲されている。
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ローレンス・オリヴィエが監督と主演を務めたシェイクスピア映画作品の傑作。
復讐が復讐を生み、物語はやがて悲劇のクライマックスへと導かれる。
ハムレットの悲劇を真正面から描いた作品としてアカデミー賞作品賞を受賞した。
製作年 : 1948年
製作国 : イギリス
監督 : ローレンス・オリヴィエ出演 : ローレンス・オリヴィエ
、ジーン・シモンズ★
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ローレンス・オリヴィエ
ジーン・シモンズ
ヴェネチア国際映画祭グランプリ、イタリア批評家賞、ゴールデン・グローブ賞、NY批評家協会賞も受賞。十三世紀デンマーク王は、庭園に眠っていて毒へびにかまれて亡くなると、王位は弟ク ローディアスが継ぎ、幾ばくもなくして前王妃ガートルードが新王と結婚した。前王の一子ハムレットはすでに成人しており、本来ならば王位に即くべきであるのだが...王子ハムレットは一人憂愁に閉ざされ、あれほど父に愛されていた母が義 弟と再婚してからは、彼は狂気じみた言行がある程である。重臣ポローニ ヤスの娘オフィリアに、王子が言寄っても彼女はその愛の言葉が本心やら戯 れ言やら分らない。時しもハムレットの親友ホレーショがウイテンベルグ から帰って来たが、彼の言葉でハムレットは父王の亡霊が、エルシノーア 城の前の高台に現れると知り一夜亡霊と会って父は弟の為に毒殺されたこと必 ず復讐をとげろと告げられる。かねての疑いがいよいよ真実と知ったハムレッ トは復讐を決意するが証拠がない。そこで訪れた旅役者に「ゴンザゴ殺し」 を演じさせると、王は見るに堪えず中止を命ずる。そしてポローニヤスにハ ムレットの本心を探らせる...。★
★Wikipediaより ★
『ハムレット』(原題: Hamlet)は、1948年に製作・公開されたイギリス映画。
概要
ウィリアム・シェイクスピアの同名戯曲の映画化であり、ローレンス・オリヴィエが製作・監督・主演を務めた。白黒で重厚な雰囲気を持つ不朽の名作と言われ、第21回アカデミー賞にてハリウッド以外の作品として初となる作品賞・主演男優賞を始めとした5部門を受賞。
キャスト
- ハムレット:ローレンス・オリヴィエ
- オフィーリア:ジーン・シモンズ
- ガートルード:アイリーン・ハーリー
- クローディアス:ベイジル・シドニー
- ホレーショ:ノーマン・ウーランド
- ポローニアス:フェリックス・エイルマー
- レイアティーズ:テレンス・モーガン
スタッフ
- 監督:ローレンス・オリヴィエ
- 製作総指揮:ローレンス・オリヴィエ
- 音楽:ウィリアム・ウォルトン
- 撮影:デズモンド・ディキンソン
- 編集:ヘルガ・クランストン
- 美術:ロジャー・K・ファース、カーメン・ディロン
- 衣裳:エリザベス・ヘニングス
映画賞受賞・ノミネーション
- 受賞
- 英国アカデミー賞作品賞
- アカデミー作品賞
- アカデミー主演男優賞:ローレンス・オリヴィエ
- アカデミー美術賞:ロジャー・K・ファース(英語版)(美術監督部門) / カーメン・ディロン(英語版)(装置監督部門)
- アカデミー衣裳デザイン賞:ロジャー・K・ファース(英語版)(白黒部門)
- ゴールデングローブ賞外国映画賞
- ゴールデングローブ賞 主演男優賞 (ドラマ部門):ローレンス・オリヴィエ
- ニューヨーク映画批評家協会賞 主演男優賞:ローレンス・オリヴィエ
- ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞
- ヴェネツィア国際映画祭 女優賞:ジーン・シモンズ★