『サンライズ』(Sunrise: A Song of Two Human, または Sunrise)1927年
雨降って地固まる映画。
タイトルはサンライズ以外ありえない。動かせぬ真実的に、動かせぬタイトル。それだけテーマが明確ということだろう。
こどもが産まれた、田舎の農家の夫婦。メイドが一人いて、そのメイドはまるで二人の母親のよう。
絵に描いたような安定の幸福。しかし、それは裏を返せば、刺激の乏しい、倦怠期の入口と言えなくもない。
男は街から来た女と付き合っていて、奥さんの目を盗み、茂みで密会。
女は男に悪だくみを耳打ちする。
「奥さんとボートに乗って、転覆させて奥さんを殺して、農場を売って、わたしと街で暮らしましょうよ」
「そんなことはできない」と男は首を横に振るが、女は力ずくで男の性欲に火をつけ籠絡、男は陥落。
(男が女の生霊にとりつかれているところ(笑))
(生霊といえば六条御息所。こちらは上村松園作、六条御息所をモチーフにした「焔」。)
男は女の奸計を実行しようと妻とボートに乗る。妻はお出かけ気分で着飾り、うきうき。
ボートが桟橋を離れると、飼い犬がとんでもないパワーで鎖を引きちぎり(笑)、爆走してきて桟橋をジャンプ!まっすぐ泳いできて(笑)、ボートに乗ってくる。男はボートを桟橋に戻し、犬を戻す。
もう一度やり直し、とボートを出すが、途中で妻は夫の殺意に気付く。その妻のおののきで夫は目を覚ます。一体俺は何をしてたんだ!とばかり、急に改心。しかし、自分を殺めようとした夫に妻は心を閉ざし、岸に着くと、街なかを逃げる。追いかける夫。
途中で結婚式がある。教会に入って牧師の言葉に耳を傾けているうちに、
男の目に涙。その涙が本物と分かった妻は、母のような眼差しで夫を抱きしめる。
ひびの修復された二人の関係はリフレッシュされ、すっかり新婚気分。写真館で自分たちのこどもの赤ちゃん時代の写真を見つけ
(ここで記念に撮影したのだろう)、興奮した二人は、そこで二人の写真を撮る。
カメラマンが見ていても、二人はキスをやめることが出来ないほどラブラブ。勢い余って、写真家が暗室で現像している間に部屋中を追いかけっこ(笑)。途中、サモトラケのニケの置物を落とす。頭がない!割れたんだ!と頭を探すがどこにもない。それもそのはずなのだが、
(サモトラケのニケ in.ルーブル美術館)
二人は、この像を知らなかったのだろう。ひよこボールを頭代わりに載せ、罪悪感の為、お釣りももらわず、逃げるように写真館を出る。ここは『ローマの休日』のライオンの口的楽しいシーン。
別に二人は写真などほしくない。盛り上がっている恋人同士、ただ体験を共有したいだけ。
こういう感情が伝わる、二人の全身表現が凄い。歌わないミュージカルという感じ。普通のリアルな動きより、いちいちオーバーアクション。正に演技という感じの、しかしやりすぎとは思わない、欲しい情報を必要なだけくれる、匠の技。
レストラン、遊園地などで街の一日を満喫してボートで帰ろうとすると、
突然の嵐。
男は、女の奸計の、男だけ助かるための救命道具として隠していた藺草(いぐさ)を妻の背中だけに背負わせる。
(畳の原料、藺草)
大波が来て、二人はボートごと波に飲まれる。
男は自力で岸についたが、妻は行方不明。村人総出で捜索するが、見つからず、死亡だろうと捜索は打ち切り。
その騒ぎを聞きつけた街から来た女は、男が奸計を実行したのだろうと、着飾って男の家へ走る。
するとドアを開けた男には、殺意。ビビった女は逃げる。追う男は、女を柵に追い詰め、首を絞める。
そのとき、漁師が妻を見つけた。
ここがドラマ。間に合うか間に合わないか、それがドラマ。観客は、ああ、遅きに失したドラマか、と思う。夫婦の母的メイドが、泣きながら男を呼んでいる。このメイドが嬉しそうな顔をしているため、ああ、妻は生きていたんだ、と分かる。無声映画のため、表情が情報。
ああ、殺さなければ男は殺人者にならずに済んだ。でもそもそも、その女が唆(そそのか)したんですよ、と裁判の陪審員の気分で思っていると、男はメイドの声に手の力を緩め、女は死んでいず、隙をついて逃げた。
ああ良かった、とほっとしていると、妻は家のベッドの上で目を覚ます。こどもも元気。男は、本当に良かった、と妻を抱きしめる。
メイドがいい。妻を救ってくれた漁師に、感謝の気持ちが一杯。その気持ちが嬉しいと同時に、メイドを恋愛対象として見ている漁師。この漁師はもともとメイドのことが好きで、その気持ちが、諦めずに岬まで船で捜索という行動に向かわせたかもしれない。漁師とメイドがこの先夫婦になるんじゃないかというハッピームードのなか、正に時も気分もサンライズという夜明けエンディング。
1927年のモノクロサイレント。
冒頭のキャスト表記には、主人公の夫婦もある男、その妻、という感じ。他の役には、個人名がない。男(アンセス)、その妻(アンドル)、街から来た女、メイド、床屋......という感じ。これが興味深い。無声だと、固有名詞に意味がないのだ。名前を呼んでも観客には聞こえないから。口パクだから。
パントマイムだと、つまり言葉がないと、きのうとか明日とかいう時間の表現ができない。どうするのかと思っていると、そこは字幕で説明。この表現方法が、大変興味深かった。
1927年ということは、昭和2年。街から来た女や街の女性たちのファッションは高畠華宵(たかばたけ かしょう)の絵のような大正昭和モダンだった。
ボブカットに帽子を深くかぶる、締め付けないゆるゆるローウエストワンピースが特徴の大正昭和モダン。
★『サンライズ』(Sunrise: A Song of Two Human, または Sunrise)は、1927年公開のアメリカ映画である。監督はドイツ出身のF・W・ムルナウ。
概要
『吸血鬼ノスフェラトゥ』や『最後の人』など、表現主義の傑作と言えるサイレント映画を世に送り出したドイツ出身の映画監督F・W・ムルナウが、フォックス社に招かれて撮った、渡米第1作である。ムルナウはフォックス社から莫大な予算を提供されて、製作を一任された。原作はドイツ人のヘルマン・ズウデルマンの短編小説『Die Reise nach Tilsit』であり、
ムルナウ作品で何度も脚本を執筆したカール・メイヤーが脚色[1][2]、撮影にはチャールズ・ロッシャー、カール・ストラスと、ドイツ人スタッフを起用した。
本作はサイレント映画だが、映画史上初のFox Movietoneによるサウンドカメラで撮影され、音楽付きのサウンド版である。また、路面電車の走る都会の街並みや、葦に囲まれた湖など、全シーンがセットで撮影されており、字幕をなるべく排除して視覚的表現を重視した手法[3]となっている。
1927年9月23日にニューヨークのタイムズ・スクエア劇場で、ムッソリーニ
のアメリカ国民へのメッセージを伝えるトーキーのニュース映画1巻をそえて封切られた[3]。興行的には振るわなかったが、光と影を巧みに使った映像と、移動撮影によるカメラワークなど、その芸術性は高く評価された。
翌1928年9月21日には日本でも公開され、同年度のキネマ旬報ベストテンにおいて第1位に選出された。
第1回アカデミー賞において、芸術作品賞と撮影賞、主演のジャネット・ゲイナーが『第七天国』の演技と共に主演女優賞を受賞した。
1989年、この映画はアメリカ議会図書館から『文化的および歴史的に見て偉大な作品』であると評され、2002年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
ランキング
- 「映画史上最高の作品ベストテン」(英国映画協会『Sight and Sound』誌発表)※10年毎に選出
- 2000年:「20世紀の映画リスト」(米『ヴィレッジ・ヴォイス』紙発表)第6位
- 「AFIアメリカ映画100年シリーズ」
- 2002年:「情熱的な映画ベスト100」第63位
- 2007年:「アメリカ映画ベスト100(10周年エディション)」第82位[4]
- 2008年:「史上最高の映画100本」(仏『カイエ・デュ・シネマ』誌発表)第4位
- 2010年:「エッセンシャル100」(トロント国際映画祭発表)第25位
- 2013年:「オールタイムベスト100」(米『エンターテイメント・ウィークリー』誌発表)第30位
以下は日本でのランキング
あらすじ
田舎に住む男は、都会から来た女の虜になった。男は彼女に妻を殺すようそそのかされ、小舟から妻を突き落とそうとしたが思いとどまった。だが、おびえた妻は男から逃げ、二人はたまたま来た電車に乗って街へ行った。街で二人は何とか仲直りして、幸せな時を過ごした。だが、小舟で田舎に帰る途中、嵐のため小舟が転覆し、男は助かったが妻は行方不明になった。男は村の皆とともに彼女を探したが見つからなかった。悲しみに暮れる男の目の前に、再びあの女が現れた。女は男が妻を殺したと思って喜んでいたが、男は怒りのあまり美女を絞殺しそうになった。するとそこへ妻が無事だったという知らせが入った。美女は都会へ帰って行った。朝日の前で男と妻は抱きしめあった。
キャスト
- 男(Anses):ジョージ・オブライエン
- その妻(アンドル):ジャネット・ゲイナー
- 街から来た女性:マーガレット・リビングストン
- メイド:ボディル・ロージング
- 写真家:J・ファレル・マクドナルド
- 床屋:ラルフ・シップリー
- マニキュアを塗った少女:ジェーン・ウィントン
- 床屋:レオ・ホワイト(ノンクレジット)
受賞歴
アカデミー賞
- 受賞[5]
- アカデミー芸術作品賞
- アカデミー主演女優賞 - ジャネット・ゲイナー(『第七天国』、『街の天使』と共に)
- アカデミー撮影賞 - カール・ストラス、チャールズ・ロッシャー
- ノミネート
- アカデミー美術賞 - ロフス・グリーゼ
備考
- 映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア 』
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- において、吸血鬼のルイスが映画館でこの映画を見ている(冒頭より1:46:35のところ)。★