『オール・ザ・キングスメン』1949年
物凄くパワーを持った一人の男の野心に振り回される人たちの話。
知事になった主人公の男は大統領も目指していたが、運命を狂わされた、正義感ある関係者により射殺される。
原作は『すべて王の臣』(原題: All The King's Men )という小説。印象的な原題All The King's Menは、ハンプティダンプティの詩の一節に由来しているという。同じ原題が、小説では『すべての王の臣』、映画の邦題ではそのまま『オール ザ キングズメン』となっているのが興味深い。
アメリカの前大統領を想起。
こんな風に、大衆は煽動されるのだと感じた。
その男ウィリー・スタークは、もとは優しい正義感のある正直者だった。
地元のボスが吃音の人を揶揄うと、ボスを真面目に注意したりしていた。
覇気があり、本気で政治を良くしようとしていた。しかし地元の選挙で敗戦。
教師の奥さんと法律を勉強し、弁護士になり、としているうちに、州知事選候補の囮(おとり)として白羽の矢が立った。
州知事選候補が、対立候補の票数を恐れ、それをバラしたいがために、ウィリーを選挙に出馬させたのだった。
しかし、ウィリーは本気になり、いいところまでいってもしや、という所で惜しくも落選。
ここで落ち込まないのがウィリー。
本気の本気になり、州知事選に再出馬する準備をする。
その中で、悪とも手を結び、過去の自分が叩いていた、正にその通りのことをして、知事に当選する。
そして権力欲にとりつかれ、自分に利益となるものは取り入れ、そうでないものは消してゆく。
人事も然りで、自分の右腕だった元新聞記者の
恋人アンと恋仲となり、アンの父親を司法長官として取り込み、
都合が悪くなると不正を掘り出して突きつけ、彼は自殺。
アンの兄を病院長にするが、
彼は最後にウィリーを撃ち、警護の者に射殺される。ウィリーも間もなく死に、そこでジエンド。
汚職・賄賂・恐喝に手を染めるウィリーは、まるでギャング。
紙一重なのだろう。
上り詰めて独裁者になり自滅する、元は田舎の貧乏の家出身の優しい男のドミノ人生が描かれる。
演じたブロデリック・クロフォードが天才だと思った。
奥さんと、ウィリー。
二人は、養子を育てているのだが、
ウィリーが保護し過ぎ、可愛がり過ぎ心配し過ぎ、この息子は駄目になってしまう。父親は、何でも鶴の一声で特別待遇させようとする。しかし、息子が所属しているラグビーの監督にはそれが通じない。
ある日、彼女を乗せてスピードを出しまくった息子の車は、パトカーに追われる。
逃げようとして衝突。彼女は重体、のちに死亡。
この彼女の父親は、昔、ウィリーの最初の演説を聞き、支持したが、失望した、とウィリーに告げる。
この父親は間もなく行方不明。後に撲殺死体で発見され、ウィリーの仕業との噂が広まる。
命の助かった息子は車椅子生活になるが、知事として形勢が悪化したときに、ウィリーは家に帰り、妻と息子と三人の写真を撮らせようとする。これに息子は、「イメージ戦略だろ?」と反発。この息子が良い。養子として、家に馴染めていないんじゃないかと観客が心配するが、父の、愛という名の圧迫に窮屈を感じ、反発を始めるのだ。この、父の手を振り払う感じが、とても自然でリアルだった。
奥さんは、ウィリーを母のように導く。しかしウィリーは、この妻を裏切り、アンと恋仲になるのだった。
アンの目が節穴だと思った。
ウィリーが演説する姿を、まるでロックスターのように観てキャーとなり、浮かれて渦中の人になりたがった、昭和で言う、ミーハー。または、グルーピー。つまり取り巻き。
アンは、自分の父も兄もウィリーという台風で殺され、やっと目が覚めるのだが、遅いよ、と思った。
アン、鈍感なのか?と、アンに物凄く怒りを感じた。
ウィリーには、左腕のような女がいるのだが、その女は、アンの出現に、女として劣等感を持つ。これもよくあることなのだが、そこは女として出陣するなよ、と情けなく思った。
ウィリーが起こした台風の渦中に、誰もが入りたがったのだろう。
台風の中心の、その特別な静けさに。
その昔、そういう台風は、政治だったのだ。
ウィリーは、権力欲の虜になり、自滅した。
野心とは、成り上って自滅して初めて消える火で、それまでは消火不能の鬼火なのだ。
アメリカ政治の腐敗を描いた内容のため、GHQの指示で公開が見送られ、アメリカ公開の27年後の1976年9月、ちょうどロッキード事件での田中角栄元首相逮捕時に公開され、まんまロッキードじゃん、という感想を持った人たちがいたらしいということに、首肯する。
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第22回アカデミー賞®最優秀作品賞に輝いた衝撃の問題作!
男の栄光と挫折をスキャンダラスに描いた名作
★第 22回アカデミー賞 3部門受賞作品賞/主演男優賞/助演女優賞®
【ストーリー】
ウイリーは校舎建築に絡む不正を糾弾したことを機に州知事へ立候補する。
政界浄化を唱えて理想主義を掲げるが、敢えなく惨敗。
3度目の出馬でようやく当選する。
しかし知事の座を手にした彼はいつしか汚職、賄賂、恐喝などに手を染める独裁者へと変貌していた...。★
★『オール・ザ・キングスメン』(英: All The King's Men)は、ロバート・ロッセン製作・監督・脚本の1949年制作のアメリカ映画。ロバート・ペン・ウォーレンの小説『すべて王の臣』(原題: All The King's Men はハンプティ・ダンプティの詩の一部に由来)の映画化で、野心家の地方政治家が権力欲の虜となって自滅していく様を描く硬派のドラマ作品である。第22回アカデミー賞で、作品賞・主演男優賞・助演女優賞の3部門を獲得した。
また、2006年には同じ原作小説にもとづく同名映画(主演:ショーン・ペン)が公開されている。
あらすじ
語り手である若い記者とスタークは知己になる。スタークは、虎視眈々と当選を狙う田舎の政治家志望者だ。ある講演をきっかけにのしあがってゆく。
キャスト
- ウィリー・スターク:ブロデリック・クロフォード
- ジャック・バーデン:ジョン・アイアランド
- アン・スタントン:ジョーン・ドルー
- ルーシー・スターク(ウィリーの妻):アン・シーモア
- トム・スターク(ウィリーの息子):ジョン・デレク
- セイディ・バーク:マーセデス・マッケンブリッジ
- アダム・スタントン:シェパード・ストラドウィック
主な受賞歴
アカデミー賞
日本での受容
アカデミー賞受賞作品でありながら、1949年当時、連合国軍占領下の日本では公開されなかった。アメリカにおける政治腐敗を描いた作品であるために、GHQの指示で公開が見送られたといわれる[1][2]。日本国内では27年後の1976年9月になって、岩波ホールで初めて公開された[1]。ロッキード事件での田中角栄元首相逮捕と偶然に時期が重なったため、「映画の内容がまるでそっくり」と騒がれたという[3]。
脚注
- ^ a b “映画 「堕落する革新」を突く アメリカ オール・ザ・キングスメン”. 朝日新聞(夕刊): p. 7. (1976年9月27日)
- ^ 谷川建司『アメリカ映画と占領政策』京都大学学術出版会、2002年6月15日、108, 446-447頁。ISBN 4-87698-443-3。
- ^ 高野悦子『私のシネマライフ』岩波書店〈岩波現代文庫〉、2010年9月16日、126頁。ISBN 978-4-00-602174-0。
関連項目
- ヒューイ・ロング -
- モデルとされる人物。ルイジアナ州知事、のち同州選出上院議員。暗殺された。
- オール・ザ・キングスメン (2006年の映画)★