『マネー・ピット』
漫画チックなお屋敷崩壊ドタバタ劇。
ザ・スピルバーグ的映画だと思った。『激突!』や『ジョーズ』のようにシンプルでダイナミックな話。観客は、二人が入居したばかりのこの屋敷の崩壊に付き合うことになる。ほどんどドリフ(ドリフターズ。昭和のコミックバンド&コメディアン)。途中から、二人に愉快な諦めが生じ、泥を食らわば皿まで的覚悟が出て、そこからはもう、屋敷崩壊を味わうカタルシスコメディー。中途半端に壊れかけているものは全部壊したくなるその心理。全部壊れるまでを見ないと気が済まないその心理。これは、夏の終わりに打ち上げ花火を見て放心するのと似ているのかもしれない。砂の城が波にさらわれるのを眺めるのに似た、浄化作用。
『激突!』や『ジョーズ』は敵(巨大トレーラーと鮫)と一体感を持ってしまうと即ち死だったが、
大人二人はこの崩壊する屋敷と同期して、ある意味楽しんでいる。それは二人の、生来持ち合わせた性質にもよるのだが、男の金のなさ、男の弁護士である父のブラジルでの若い現地女性との再婚、父の金の持ち逃げの後始末、ヴィオラ奏者の女の、所属楽団の浅はかで利己的で自己陶酔な指揮者
との離婚、その指揮者と住んでいた家を指揮者の早すぎる帰国により二人が追い出される、など色々大変過ぎ、自暴自棄っぽくなっていた勢いがあった、打たれ強くなっていた、二人は恋愛渦中だった、弁護士の男は、バカ売れして王様気取りの子役スターに顎で使われたりしていた......などなど、この格安の古屋敷を、獄中から出たばかりの太った不動産屋の友人から買ってしまう不運の勢いに見舞われ楽しむ以外の選択肢がなかったのだった。
この古屋敷がリズミカルに大胆に駄々壊れしてゆく様子が祭りのようで楽しい。トム・ハンクスが一流のコメディアンだから。相手役もコメディエンヌだから。古屋敷がステージの、「8時だヨ!全員集合」(昭和のお笑いテレビ番組)。
このまま屋敷が全崩壊するのかと思いきや、安い業者に修理を頼み、それはある意味賭けだったのだが良い方に結果が出て、素晴らしい出来上がりになってしまう。
「それは土台がしっかりしていたから」と業者のトップが言い、「売りに出せばすぐ買い手が付くさ」と鍵を置いて出てゆく。
この「それは土台がしっかりしていたから」は、入居した二人の関係を暗示してもいるのだ。
主人公カップルの関係は家を買ってから危機に陥っていた。
男ウォルターが一晩いない間に、女アンナは前夫の指揮者の男マックスに誘われ食事をし、酒を飲み、気付くと、かつて住んでいたマックスの家で朝を迎えていた。マックスはアンナに、寝たのだと嘘をつく。
屋敷に帰ってきたウォルターはアンナに、自分がいなかった夜のことを訊き、マックスと寝たのでは、と疑う。アンナはマックスに言われた嘘を信じていて、寝たと言う。するとマックスは許さないと言う。二人は、この家の修理が済んだら売って金を半分にして別れよう、と決める。
しかしマックスは後日、寝たというのは嘘だった、自分は別の部屋で寝た、とアンナに告げに来る。そしてウォルターに、きみは世界一素敵な女性と付き合っている、と言う。
ウォルターは、マックスとアンナが寝たと聞き、アンナをどんなに愛しているかを知り、修理し上がった家の階段で、きみがマックスと寝ていても構わない、きみを愛している、と言う。アンナは、ウォルターが許さないと言ったから真実を話さずにいたのだが、そこで「マックスとは寝ていない」と言う。すると二人は互いを許し合い、キスをする。
次のシーンは二人の結婚式。結婚衣装を着た二人が家のドアを開けると、関係者が正装で勢ぞろい。マックスは真っ白なスーツ姿で楽団の指揮をしていて、楽団は演奏、合唱団は祝歌を歌い上げる。
それでめでたしめでたしかと言うと、次のシーンでリオデジャネイロにいるウォルターの父が、新妻と豪華な屋敷を見ている。
「いくらだ?」と父。「○○」と不動産業者。「じゃあこれで買う」と父はアタッシュケースを出す。不動産業者がそのアタッシュケースを開くと、中にはみっしりと札束。そこで、見覚えのある女性が出て来る。それはウォルターたちに古屋敷を売った、夫を亡くしたばかりの女性。
彼女はここリオデジャネイロで、新たに家を買い、それを売ったらしい。新しい夫もいるらしく、女性はそういう嘘をつき続けている人なのか、新たな夫がそういう嘘をつく、駄目な物件を安く買い高く売り逃げ抜けるということをする人なのか、そこまでは分からないが、女性は気候のせいか、バカンス気分でとても楽しそう。父と息子、因果は巡るというか、親子だから同じ人に引っかかってしまうというか、遠い所にいても親子は親子というか。そういう、血は争えないというような苦笑いを誘うリンクシーン。古屋敷の持ち主だった女性の、憎めないしたたかさも感じるシーン。
この映画は欠陥住宅話とも言える。それを暗く描かず、二人のカップルの再生話と絡めて明るく描いた。
マネー・ピットは金食い虫という意味だが、マネー・ピットは日本人にはあまり馴染まないワードではないかと思った。
大林宣彦監督の『ハウス』を想起。これは家が住人を食ってしまう話。
★掘り出し物の豪邸でラブラブ生活を夢見るカップル、ところが、その家は金喰い虫(マネー・ピット)だった !
【キャスト】トム・ハンクス/シェリー・ロング/アレクサンダー・ゴドノフ/モーリン・スティプルトン/ジョー・マンテーナ
【スタッフ】
監督:リチャード・ベンジャミン
■製作年:1986年
『マネー・ピット』(The Money Pit)は、1986年にアメリカ合衆国で製作されたトム・ハンクス主演、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮のコメディ映画である。
まだ若手俳優だったトム・ハンクスが主演したドタバタ・コメディである本作。タイトルの『マネー・ピット』とは日本語で言うと"金食い虫"という意味。とある欠陥だらけの激安物件を購入した若夫婦が様々な悪夢に直面する様をユーモラスかつコミカルに描いている。製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグが務めており、監督は俳優でもあるリチャード・ベンジャミンが起用されている。共演には、コメディエンヌのシェリー・ロング
をはじめ、『ダイ・ハード』などのアレクサンドル・ゴドゥノフや
らが顔を揃える。
あらすじ
若弁護士であるウォルター(トム・ハンクス)は、愛する恋人でヴィオラ奏者のアンナ(シェリー・ロング)と共に、アンナの前夫で指揮者のマックス(アレクサンドル・ゴドゥノフ)が留守中の家で同棲中。しかしある日、外国へ行っていたマックスが戻ってくることになる。そのことで住む場所を探さなければならなくなった二人だが、そんな2人に格安物件の話が舞い込む。洒落た見た目の豪邸で、とてもその値段で売られているような代物ではない。しかし、これはチャンスとその話に飛びついた2人。いよいよその家に引っ越して、新たな生活を送ろうとする2人だったが、その家のとんでもない"欠陥ぶり"が彼らを襲う。
キャスト
役名 | 俳優 | ||||
---|---|---|---|---|---|
ウォルター・フィールディング・Jr | トム・ハンクス | ||||
アンナ・クロウリー | シェリー・ロング | ||||
マックス・ベイサート | アレクサンドル・ゴドゥノフ | ||||
エステル | モーリン・ステイプルトン | ||||
アート・シャーク | ジョー・マンテーニャ | ||||
カーリー | フィリップ・ボスコ | ||||
ジャック・シュニットマン | ジョシュ・モステル | ||||
シャトフ | ヤコフ・スミルノフ | ||||
ブラッド・シャーク | カーマイン・カリディ★ | ||||
スタッフ
- 監督:リチャード・ベンジャミン
- 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、
- デヴィッド・ガイラー
主な作品 『エイリアン』シリーズ - 製作:キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャル、アート・レヴィンソン
- 脚本:デヴィッド・ガイラー
- 音楽:ミシェル・コロンビエ
- 撮影:ゴードン・ウィリス
- 編集:ジャクリーン・キャンバス★