『ビッグ』
泣いてしまった。スーザンとの別れのシーンで。
スーザンとはまた会える。ジョッシュは、大人に変身していた間のことを忘れていない。
でも、忘れなければ互いの人生に負荷がかかる。と互いに思うことが大人心だろうと思う。そのジレンマが切ない。
親友と別れたくない。でもスーザンとも別れたくない。主人公は、束の間の成功を手放し元の人生に戻ることを決意し、戻るために必要なゲーム機を探す。
確かなのは、三人は奇跡を目撃、共有したということ。
変身。変態。
これは、実は誰にでもある大人への階段のこと。
それが可視化されていた。
有馬しのぶさんの『モンキー・パトロール』を想起。この漫画で、精神年齢が見える人がいて、その人が見ると、電車の中にはスーツを引きずった赤ちゃんがいたり、老人がランドセルを背負っていたり、こどもが新聞を読んでいたりする。つまりそういう、中身が見た目に反映され、しかもある時期複数に共有されてしまったことの幸不幸、悲喜劇だとも思った。
お母さんは、一夜で大人になった息子を、強盗だと思い込んでバッグを渡し、刃物で立ち向かう。そしてジョッシュは、母親によって家から追い出されてしまう。
ここでまず、母親に説明できないのがリアル。親友には、独自の暗号を開示して分かってもらって理解者になってもらえる。というのが思春期のリアル。
親を混乱させたくない。でも最も分かってもらいたいのは実は親。でも、親の反応を良く知っているから、無理なことも分かっている。
親はこどもを愛しているから、そんな理不尽な目に我が子が陥ったなど信じたくない。信じようとしない。
こどもは、そんな親を安心させたい。主人公のジョッシュは、もしかしてこの時期の本当のことを一生親には言わない、言えないのかもしれない。ジョッシュは誘拐されたことになっているが、実は12歳から30歳になっていたのだということを信じてくれるのは、これからも親友と束の間恋人だったスーザンだけだろう。そういう不思議な事実を共有できるのが、親友であり恋人であるとも言える。
コメディーなのだが、コメディーだからこそ真実が詰まっていて、つまり真実とはコメディー的なのだとも思った。
中身が12歳で見た目が30歳の主人公ジョッシュは、親友のアドバイスでニューヨークに行きおもちゃ会社に就職し、こども心を全開にして社長のこども心とシンクロ同期、気に入られて一気に副社長にまで上り詰める(笑)。この感じがバブル時代のアメリカンドリーム。
こども心をなくしている同じ会社のスーザンとも仲良くなり、恋人同士になる。スーザンに真実を言っても彼女は最初信じてくれない。しかしスーザンは、ジョッシュの親友に会って、彼の話を聞いて信じることになる。
ジョッシュが30歳になったのは、憧れの女子が乗るジェットコースターに乗ろうとして、身長制限で乗れず、女子は大人っぽい男子と乗った、その悔しさと悲しさから、遊園地内にあったヤバいムードのゲーム機ゾルター↓に引き付けられ、お金を入れ、「願いを言え」と表示されて「bigになりたい」と言うとカードが出てきて、ふと見るとゾルターのプラグはコンセントに入っていない、
不思議に思いながら家に帰って寝て起きて顔を洗おうとして鏡を見ると、まるで別人の大人が映って自分でも驚き、という顛末。
これは思春期の、大人への脱皮の表現で、カフカの変身も同様であると言える。
自分が自分ではなくなるというアイデンティティー崩壊の危機。そこで肉親以外の親友や恋人が機能するというのは、誰の人生にもある一般的なこと。いわば親とは母川で、別の支流に行くには、または海に出るには、親にも見分けがつかない別人への変身が必須、ということでもある。
仕事という、自分自身がなすべきことを見つけると、自立できるという様を描いた作品でもある。そこで親友に不義理をしてしまう、親友より恋人を優先し、心が咎めるがやがて親友と恋人が親友関係になるというのも、よくあること。
そういう身に覚えのあることが、ファンタジー作品になっている。
ファンタジーとは嘘話ではなく、魂の可視化、心のドキュメンタリーなのではないか、と思った。
主人公ジョッシュを演じたトム・ハンクスと、親友のビリー役のジャレット・ラシュトン↓がナイス演技。
ビリーと、12歳だったジョッシュ。
ビリーと、30歳になったジョッシュ。
現代版ゾルター。
(Amazon商品ページより)
12歳の少年がある朝突然、30歳のオトナの身体に!?"演技派"トム・ハンクスの出世作となった、傑作ハートウォーミング・コメディ!
映画の言葉"私はその年を生きたわ 一生に一度で十分"<
キャスト&スタッフ>
ジョッシュ...トム・ハンクス
スーザン...エリザベス・パーキンス
マクミラン社長...ロバート・ロッジア
監督:ペニー・マーシャル
監督作品
- ジャンピン・ジャック・フラッシュ Jumpin' Jack Flash (1986)
- ビッグ Big (1988)
- レナードの朝 Awakenings (1990)
- プリティ・リーグ A League of Their Own (1992)
- 勇気あるもの Renaissance Man (1994)
- 天使の贈りもの The Preacher's Wife (1996)
- サンキュー、ボーイズ Riding in Cars with Boys (2001)
製作:ジェームズ・L・ブルックス/ロバート・グリーンハット
脚本:ゲイリー・ロス/アン・スピルバーグ
●字幕翻訳:戸田奈津子
<ストーリー>
ある日、目覚めたらオトナに!?──12才のハートのまま、30才のボディで未知の世界に放り出されたジョッシュ。そう、全ては遊園地の不思議マシーン"ゾルター"から始まった......。
<ポイント>
●誰もが抱く大人願望と子供回帰を、コミカルにロマンティックに、そして純真な愛に満ちた優しさで描いたファンタジー・コメディ。この映画の為に生まれたのでは?と思わせるほどの適役のトム・ハンクスの好演は超必見だ。★
★
Wikipediaより
ペニー・マーシャル監督によるコメディ映画。主演のトム・ハンクスは、この作品でゴールデングローブ賞 主演男優賞を受賞。
ただのコメディに終わらない、心温まるストーリーが評判を呼んだ。
ストーリー
13歳の少年ジョッシュは、親友のビリーといつもつるんで遊んでいた。年に一度地元の街にやってくる移動遊園地で、ジョッシュは意中の女の子にカッコつけたくジェットコースターに乗ろうとするが、身長が低くて乗れず落胆した。その夜の遊園地で願いを叶えるという不思議でレトロなコインゲーム機「ゾルダー」を見つけ、大きくなりたいと願う。奇妙なことに「ゾルダー」は電源も入っていないのに稼働していた。
翌朝目が覚めるとジョッシュは望み通りに大人の姿になっていた。すっかり変わったジョッシュは親に不審者と勘違いされて追い出されてしまう。なんとか親友のビリーにジョッシュであることを認識させて、すでにどこかに移転してしまった移動遊園地=「ゾルダー」を探すため二人でニューヨークに向かう。移動遊園地はなかなか見つからずジョッシュは帰る場所もないので、安いホテルに泊まり経歴を偽りおもちゃ会社に就職し大人として生活することになった。ある日ニューヨークの老舗おもちゃ屋「FAOシュワルツ」の巨大鍵盤で偶然出会った就職先のマクミラン社長に「大人が失っている子供の感性」を気に入られ商品開発のアドバイサーに起用された。商品会議で会社の重役であるスーザンと出会い、スーザンは不思議なジョッシュに惹かれ、ジョッシュは戸惑いながらも大人の恋人関係になっていく。ジョッシュの「子供の感性」が受けて、とんとん拍子におもちゃ会社で出世していき大人として生活が安定するが、逆にビリーとは疎遠になってしまう。月日が過ぎ、消えてしまった息子に悲しむ両親・年相応に学生生活するビリーやクラスメイトたちを見て心を揺さぶられる。ついに元凶である移動遊園地=「ゾルダー」が見つかるが、ジョッシュは「このまま大人としてスーザンと過ごす」か「こどもに戻る」かの選択を迫られる。
苦渋のうえ「こどもに戻る」ことを選び「ゾルダー」を稼働させたジョッシュを、全て理解したスーザンはジョッシュの実家に送る。スーザンの車から玄関に向かう一瞬にジョッシュは13歳の少年の姿に戻った。ジョッシュは歓喜する家族に迎えられ、相も変わらず親友のビリーとともに学校生活を過ごすのであった。
登場人物
- ジョッシュ・バスキン
- ひょんなことから一夜にして少年から成人男性となる。おもちゃ会社に入社しデータ科の平社員として働き始めるが、1週間後に製品開発担当副社長に大抜擢される。見た目は20代半ばぐらいだが、中身は12歳ぐらいの状態。行動や思考、味覚なども子供なため状況によって周りから変な目で見られたり逆に周りに新鮮な発想をもたらす存在となる。
- 少年ジョッシュ
- アメリカで言う7年生(日本で言う中学1年生)ぐらいのどこにでもいる少年。趣味はパソコンを操作すること。ある日移動遊園地にあった不思議な機械に「(背を)大きくなりたい」と願い事を言ったところ、一夜にして大人の男に成長してしまい生活が一変する。
- スーザン
- おもちゃ会社の女性社員。仕事をバリバリこなし、市場調査などから子供が欲しがるおもちゃを考えようとする。プライベートではポールの恋人。作中ではよくタバコを吸っている。これまでの男性社員とは全然タイプの違うジョッシュに興味を持ち始める。
- マクミラン社長
- おもちゃ会社の経営者。自社のおもちゃが今以上に売れるにはどうしたらいいか日々考えている。子供のような個性的な感覚を持つジョッシュを気に入り、彼のアイディアを新商品開発に取り入れる。
- ポール
- 社長の腰ぎんちゃく。部下には厳しく社長にはゴマをする性格。1週間で大出世したジョッシュを妬み、一方的に敵視して彼の新商品のアイディアなどに否定的な発言をする。
- ビリー
- ジョッシュの親友。悪ガキでませた性格の少年。ジョッシュの隣の家に住んでおり、帰宅後もお互いの部屋にあるトランシーバーで話している。ジョッシュが「見た目は大人だが中身は子供」ということを唯一知っている人物。
- スコッティ
- マクミランの会社の勤続5年目の男性社員。入社当初データ科の社員として配属されたジョッシュと席が隣同士になる。
- ジョッシュの母
- 夫と2人の子供を持つ主婦。ある朝ジョッシュが部屋からいなくなり、代わりに見知らぬ男(大人になったジョッシュ)と鉢合わせしたことから、息子が目の前の男に誘拐されたと思い悲嘆に暮れる。
キャスト
役名 | 俳優 | |||
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ジョッシュ・バスキン | トム・ハンクス | |||
スーザン | エリザベス・パーキンス | |||
マクミラン社長 | ロバート・ロッジア | |||
ポール | ジョン・ハード | |||
ビリー | ジャレッド・ラシュトン | |||
少年ジョッシュ | デヴィッド・モスコー | |||
スコッティ | ジョン・ロヴィッツ | |||
ジョッシュの母 | マーセデス・ルール | ★ | ||