『スプラッシュ』
ダリル・ハンナ演ずるマジソンが、トム・ハンクス演ずるアランに名前を訊かれ、イルカのような鳴き声で答えると、デパートの売り場のテレビ画面が割れるシーンがリアルだった。
マジソンは、そこで半日テレビを見ていて英語を習得してしまうというのも腑に落ちる。結果論で大ヒットした後で観るとこの役はトム・ハンクスとダリル・ハンナ以外にあり得ないのだが、最初トムはアランの兄役、ダリル・ハンナは上層部が反対していたという。しかし、この二人が、アランとマジソンを自分のものに引き寄せたのだろう。トム・ハンクスはコメディアンとして売れていなかったから現場でも周囲を笑わせようと頑張った。しかし監督から「きみは人魚を愛することに徹してくれ。笑わせるプロは他にいる」と言われ気持ちを切り替えたらしい。笑わせるプロとはアランの兄のフレディー役のジョン・キャンディと、人魚をしぶとく捜索していて見つけ、マジソンを追いかける生物学者コンブルース役を演じたユージーン・レヴィだ。この二人がいなかったら、薄いものになってしまっただろう。この二人が、最後にアランと一緒にマジソンを水槽から脱出させる。アランの兄フレディーはこどもの頃からふざけてばかりいて大人になってはチャラい感じだったのだが、でもだからこそ、弟アランの純愛に気付き、恋の相手が人間以外でも構わない、とアランを応援する。コンブルースは、人魚の存在を証明したくて捜索していて、故に陸上にマジソンを見つけると、公衆の面前で水をかけて人魚に戻してしまうのだが、最後にはアランとマジソンを応援することになる。
ダリル・ハンナはこどもの頃から人魚になりた過ぎ、両足を縛って人魚泳ぎを練習していたらしい。それがスタントマンより上手くて(笑)、ダリル本人がスタントなしで上下ゆらゆらの人魚泳ぎをしたのだという。撮影中は下半身が魚故、排泄できないから七時間も飲食なしでいたらしい。こういうことが、全部映画に出ていると感じる。ダリル・ハンナはマジソン以外ではないと思う。
アランとマジソンが六歳のときに会っていたことが伏線。アランはコッド岬の
船上で、海に憧れるような気分になって飛び込んでしまう。すると少女の人魚に会い、二人は一目で惹かれ合ってキスをする。アランは大人たちに助けられる。長じて、アランはこの水中での体験が自分の幻想だったのでは、と思うようになり胸のうちに秘めるようになる。
しかし大人になったアランがまたふとコッブ岬に行ってまた船から落ちると、大人になったあのときの人魚がアランを助ける。
二人は惹かれ合うが、人魚は海に戻る。海に沈んだアランの写真入りの財布を見つけた人魚は、その中の個人情報と住居にしている沈没船の中の地図をすりあわせて確認し、ニューヨークに行く。すると裸で歩いていた彼女は公然わいせつ罪で逮捕される。彼女が持っていた財布からアランが呼ばれ、二人は、恋人が去ったばかりのアランの部屋で暮らすことになる。
街の名前から、彼女の名前はマジソンになる。言葉を持たない彼女の愛情表現はキスすること。
言葉を覚えると、彼女は次の満月に帰らなければならないと言う。
アランは、マジソンが外国人だと思い、結婚すればこの国にいられる、などと言うが、マジソンは自分が人魚であることは隠している。アランはそんな彼女を不審に思う。しかし好きという気持ちは消せない。
同時進行として生物学者コンブルースが動いている。彼は、師匠が言っていた人魚の実在を証明したい。しかしそんなコンブルースのことを、師匠は諫める。「何だ、じゃあ、もし本当に彼女がヒレを足にしてニューヨークにいたとして、見つけたら公衆の面前で水をかけて正体をバラすとでもいう訳か」。師匠が弟子にアイデアを渡した瞬間。師匠それいただきますとばかりコンブルースの目が光リ、彼はそれを実行する。
マジソンが人魚だったことがバレた瞬間のアランは、驚き過ぎて身動きが取れないといった様子。大騒ぎの人だかりのなかアメリカ自然博物館に連行されてゆくマジソンを、呆然としたアランはどうすることもできなかった。
しかし、マジソンがいなくなってがっくり落ち込みすっかり元気がなくなるアラン。アランの兄は、「何で魚を愛しちゃいけないんだ」とアランを励ます。
兄フレディー、生物学者コンブルースと共に、アランはマジソンを解放する。
そして港へ。追っ手が来るなか、「さあ行け」と言うアラン。「一緒に行きたいが僕は泳げないんだ」と言うと、「あなたは6歳のときに泳げたわ」とマジソン。「あれは幻想じゃなかったのか!?」と全て腑に落ちたアランは、一緒に海へ。
二人が楽しそうに泳ぐ水中シーンでエンディング。
これは、アランが、水中でも呼吸ができるようになり、一生マジソンと暮らしましたとさ、というラストと解釈した。
『シェイプ・オブ・ウォーター』と同じことなのだろうと思った。
11歳からベジタリアンだったダリル・ハンナ。レストランでロブスターをバリバリ食べるシーンでは、殻のみ本物、中にはマッシュポテトとネギを詰めていたのだという。インタビューでは「今でもネギを見るとあのときのロブスターを思い出してウウッとなる」と語っている。
マジソンは、アランを喜ばせようとして、(多分)沈没船の中で拾った高価な首飾りを売って、密かに、壊されることが決まっている公園の噴水↓を買って(笑)、家に設置してしまう。愛し合う二人の異文化コミュニケーションの、想定外の驚きエピソード。犬が靴を、猫が虫を、飼い主に、こどもが紙コップの泥水を「コーヒーどうぞ」と大人に持ってくるような、そんなピュアな愛情表現。
監督はこの映画について「妻とのことを思い出して純粋な女性、理想的な恋愛を表現しようとした」と語っているが、全ての個人的体験とは、それを通じて普遍の宇宙にアクセスするための通路なのだろうと思った。
ロン・ハワード監督
★監督作品
『ラブ IN ニューヨーク』
『スプラッシュ』
『コクーン』
『ウィロー』
『バックマン家の人々』
『バックドラフト』
『ザ・ペーパー』
『アポロ13』
『身代金』
『グリンチ』
『ビューティフル・マインド』
『シンデレラマン』
『ロバート・ラングドン』シリーズ
『フロスト×ニクソン』
『ラッシュ/プライドと友情』
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
ロン・ハワード(Ron Howard、1954年3月1日 - )は、アメリカの映画監督、映画プロデューサー、俳優。オクラホマ州出身。
映画監督としては、2001年の『ビューティフル・マインド』にて第74回アカデミー賞監督賞・作品賞を受賞。『ダ・ヴィンチ・コード』は全世界で7億ドルを超えるヒットを記録した。
俳優としては、子役時代に8年間演じたシットコム『メイベリー110番』のオーピー・テイラー役、10代の頃に6年間演じたシットコム『ハッピーデイズ』のリッチー・カニンガム役で知られる。日本では俳優時代、一時期ロニー・ハワードと表記されている時代があった。
プロデューサーとしては、1986年にブライアン・グレイザーと「イマジン・エンターテインメント」を共同で立ち上げ、テレビシリーズ『24 -TWENTY FOUR-』『ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る』などを世に送り出した。
父親は俳優のランス・ハワード。母ジーン・スピーグル・ハワード、弟クリント・ハワード、妻シェリル・ハワード、娘のブライス・ダラス・ハワード、ペイジ・ハワードも俳優。★
スプラッシュ|ディズニー公式 (waltdisneystudios.jp)
★スプラッシュ
ニューヨークの街に、ある日全裸の美女が出現!彼女の正体は人魚で、20年前に海で溺れそうになったアランを助け、彼に再会するためにヒレを足に変えて、人間世界にやってきたのだった。そんな事情も知らず、アランは実の人魚のマジソンにたちまち夢中になってしまう。一方生物学者のコンは彼女の正体を知り、何とかそれを証明しようと追いまわすが、なかなかうまくいかない。邪魔者を尻目に、アランとマジソンの恋は周囲に驚きと笑いの渦を起こしながらも進展してゆくが…。
-
キャスト
トム・ハンクス (アラン), ダリル・ハンナ (マジソン), ユージーン・レヴィ (コンブルース), ジョン・キャンディ (フレディー)
-
監督
ロン・ハワード
-
製作
ブライアン・グレイザー
-
原案
ブルース・ジェイ・フリードマン
-
脚本
ローウェル・ギャンツ, ババルー・マンデル, ブルース・ジェイ・フリードマン
-
音楽
リー・ホルドリッジ
-
製作総指揮
ジョン・トーマス・レノックス★
★『スプラッシュ』(Splash)は、1984年のアメリカ映画。ロン・ハワード監督。現代のニューヨークを舞台に、青年と人魚の恋を描くファンタジー・ラブストーリー。
ウォルト・ディズニー・カンパニーの映画部門として設立されたタッチストーン・フィルムにとっては第1作目となった作品。
本作において、米国のDisney+ではデジタルによる頭髪の追加、ぼかし、特定のシーンをトリミングすることでヌード描写を削除しているが、日本のDisney+(「スター」ブランド)では無修正となった。
ストーリー
泳げない少年アランはある日、家族で訪れたケープ・コッド
で船上から海を見つめ、なぜかそこに吸い寄せられるように飛びこんだ。そして、海の中で可愛らしい少女と遭遇し二人は一目で惹かれあうが、アランは大人たちに救助された。人魚の少女はそれを海から見つめ、船に戻ったアランは遠く離れた海の少女を見つめた。その後アランは、その時海の中で会った少女のことを幻覚だったのではないかと思うようになる。
それから20年後、ニューヨークで兄のフレディと共に青果会社を切り盛りする青年に成長したアランは、再び行った海で溺れかけ気を失い、人魚に助けられる。浜辺で目が覚めたアランは、そこに美しい裸体の女性と遭遇し、彼女にいきなりキスをされて一目惚れをするが、彼女は海に飛び込み消えていった。人魚はアランが海底に落した財布の身分証から、アランのいるマンハッタンを目指し、自由の女神像の前に到着する。全裸の彼女は警官らに捉えられ、彼女が所持していたアランの身分証で連絡を受けたアランは、急いで警察に赴き再び彼女と再会できた。
彼女は英語が話せず素性は不明だったが、彼女の熱烈な愛情を受け二人はすぐに愛し合った。ほどなく彼女はテレビを少し観ただけで英語をマスターし、本当の名前を発音するとブラウン管テレビが割れてしまうほどの奇声なので、仮の名前をマジソンとした。マジソンは限られた期間しかアランと過ごせないと言うが、アランはマジソンと結婚することを決意した。マジソンは自分が人魚であることをなかなか言い出せなかったが、アランのプロポーズを受けることにした。
ところが、海中で人魚を見た科学者によって、マジソンは彼に水をかけられてしまい、公衆の面前で人魚の下半身になってしまった。マジソンは直ちに人々に取り囲まれて研究所に囚われてしまった。まだマジソンの秘密を知らなかったアランは気が動転してしまう。アランも人魚ではないかと疑いをかけられ、水槽の中にいた。人魚のマジソンがそこに一緒に入れられたが、とまどうとっさにアランは人魚のマジソンを拒絶してしまった。人間だと判明したアランは街に帰されるが、アランの兄は、ありきたりの凡庸な幸福を夢見ていた弟の恋の心変わりを批判し、アランの正直なマジソンへの愛を気づかせた。
水槽の中で衰退していく人魚に同情した例の科学者は自分の行いを反省し、アラン兄弟と一緒にマジソンを研究所から救出した。軍人らの追手を逃れて岬までたどり着いたアランとマジソンだったが、彼らに追いつめられてもう逃げ場がなくなってしまう。アランはマジソンを海へ帰そうと考えた。マジソンは、20年前に少年のアランが海中で会った少女が自分であることを告白し、自分と一緒に海に行けば、アランも人魚と同じように生きられると教えた。アランはクリスマスだけは街に帰れるか聞くが、もう二度と人間のいる場所には戻れないとマジソンは言う。アランはマジソンと別れることにし、マジソンは追手に捕まる寸前で海に飛び込んだ。アランにさよならの手を振るマジソンを見つめていたアランは、彼女と海で暮す決心をして自分も海に飛び込む。二人は海中まで追ってくるダイバーらを逃れて、美しい海中を泳いでいった。
キャスト
役名 | 俳優 | ||
---|---|---|---|
アラン・バウアー | トム・ハンクス | ||
マディソン | ダリル・ハンナ | ||
ウォルター・コーンブルース | ユージン・レヴィ | ||
フレディ・バウアー | ジョン・キャンディ | ||
スティムラー夫人 | ドディ・グッドマン | ||
バイライト | シェッキー・グリーン | ||
ロス博士 | リチャード・B・シャル | ||
ジデル博士 | ハワード・モリス | ||
ジェリー | ボビー・ディ・シッコ | ||
ドアマンのティム | トニー・ディ・ベネデット | ||
クロード | デヴィッド・ネル | ||
ジュニア | ジェフ・ドーセット | ||
マニー | ジョー・グリファシ | ||
マッカラー | ランス・ハワード | ||
スタッフ
- 原案:ブルース・ジェイ・フリードマン
- 監督:ロン・ハワード
- 製作総指揮:ジョン・トーマス・レノックス
- 製作:ブライアン・グレイザー
- 脚本:ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデル、ブルース・J・フリードマン
- 編集:ダニエル・P・ハンリー、マイク・ヒル
- 撮影:ドン・ピーターマン
- 水中撮影:ジョーダン・クライン
- 音楽:リー・ホールドリッジ
- 衣装:メイ・ルース
受賞・ノミネート
- 第57回アカデミー賞
- ノミネート 脚本賞
- 第19回全米映画批評家協会賞
- 受賞 脚本賞
その他
- 当時アメリカでは、女児の名前に「マディソン」と名付けられるのは珍しかったが、この映画によって一般的なものとなった。この映画の中で、人魚は主人公に自分たちの言葉が通じなかったため、スクエアの名前であるマディソンを自ら呼び名として付けたという設定である[2] 。
- レストラン内でマディソンがロブスターを殻ごと手づかみで食べてしまうシーンでは、演じたダリル・ハンナが菜食主義者でロブスターが食べられないことから、マッシュポテト他野菜を用いた食材でロブスターの身を再現した。
- 1988年に続編のテレビ映画『スプラッシュ2(英語版)』(Splash, Too)が製作されたが、ドディ・グッドマン以外は映画と別のキャストとなっている。
外部リンク
- スプラッシュ|ディズニー公式(日本語)
- スプラッシュ | Disney+(日本語)
- スプラッシュ - Box Office Mojo(英語)
- スプラッシュ - Rotten Tomatoes(英語)
- スプラッシュ - allcinema
- スプラッシュ - KINENOTE
- Splash - オールムービー(英語)
- Splash - IMDb(英語)★