『ヘイル、シーザー!』
『ヘイル、シーザー!』とは、「万歳、シーザー!」という意味。
ハリウッド内幕サスペンス・コメディ。
コーエン兄弟の誘拐もの。
エキストラ二人が、ジョージ・クルーニー演じるビッグ俳優ベアードが飲み干す高坏に薬を入れる。ベアードは「ヘイル、シーザー キリスト物語」でシーザーを演じている。
ベアードは強い眠気を覚え、控室に行って眠る。そこにノックするエキストラの二人。ベアードが立ち上がってドアを開けると、ちょうど気を失って倒れる。そのベアードを担ぎ、二人は入り江にある屋敷に連れてゆく。
そこには脚本家がたくさんいる。脚本家は『資本論』について語り、映画会社のシステムを喝破。芸術としてではなく経済として映画製作のシステムを語る。時は1950年代の、ハリウッド。脚本家たちは、自分たちは使い倒されてお払い箱、トップの経営者に金が行くという資本主義のシステムを罵倒。共産主義を賛美する。
人質のベアードは、その会議に参加してしまい、論に賛同する。脚本家たちは、「我々がいただくのは身代金ではない、今まで不当に安かった我々のギャラの取り立てだ」と言う。
身代金100万ドルは、イケメン俳優が屋敷に運んだのだが、彼も共産主義者となり、脚本家が漕ぐ舟で沖へゆく。
すると水面下からソ連の潜水艦が浮上。イケメン俳優は、その潜水艦に飛び移る。脚本家たちは、「この金をコミュニストの為に使ってくれ」と渡す。するとイケメン俳優はいったん受け取るが、舟から飛び移ってきた愛犬を抱こうとして、身代金の鞄を落としてしまう。鞄は海に沈む。
イケメン俳優は犬を抱き、ハッチから潜水艦の中に入る。脚本家たちはオールで方向を変え、入り江の屋敷に戻る。
何事もなかったかのように、映画会社にシーザーの格好で一人で戻ってきたベアードは、プロデューサーに資本論を説き、プロデューサーより上の立場のトップの男を罵倒する。するとプロデューサーはベアードを張り倒し、「みんなあの人のお陰で今があるんだ」と説教。「腹の底から出たセリフを吐いてこい、それがお前の仕事だ。みんな腹の底から自分を出して、それで映画を作ってるんだ」とプロデューサーが言うと、ベアードは目が覚めたようになって、撮影現場へ。
するとキリストが磔で死んだ後のシーン。
シーザーは、「あの人は、奴隷にもローマ人にも分け隔てなく、井戸の水をくれた」と磔にされたキリストを仰ぐ。
このすぐ前に、磔のキリスト役の男の足だけが映る。その男にスタッフが「朝食はAかBか」と訊くと、「分からない」と情けないような声を出す。つまり個人待遇をされていない、大部屋俳優がキリスト役なのだ。本編撮影でもキリストの顔は見えない。足元だけ。
つまりそういう偽キリストを前に、ベアードは迫真の演技をするのだ。これには、誘拐されて共産主義にかぶれて、一労働者の立ち位置から資本家に文句を言うストライキ状態に一度なって張り倒されたからだ。
ベアードは、シーザー気取りで上から目線でプロデューサーに説教したら、説教し返され、張り倒され、目が覚め、生まれ変わって周囲が水を打ったようにしんとなる、迫真の演技ができた。しかし最後の一語を間違え撮り直し、しかしその一語とは、寸前に書き換えが入ったものだった、という現場感。惜しい、と共演者が言い、ベアードはもう一回、という感じで仕切り直し。
この主人公のプロデューサーは、映画の冒頭から教会の懺悔室で神父に告白をしている。その間隔が一日ごと。
その告白の内容というのが、妻と約束した禁煙を破った、というもので、その、事に小ささにウケるというか、感動する。大勢をまとめる役の人は、自身に対してそれくらい内省的でなければ指示などできないのだろう。
大金・大勢を動かしている人がこんな煙草数本という小さいことに悩んだり、仕事では怒鳴って決断しまくりの人が家で妻には終始頷くだけで優しい口調だったり、こどものことの報告に真剣に相槌をうったりという脳内棲み分け案件の共存が人間味でリアルで大人事情で面白い。
このプロデューサーは、ロッキード社から引き抜きの話を受ける。それは金銭的には現職より上で、10年後にはリタイアできるという好待遇。この話をすると妻はいい話じゃないと肯定的に受け止めるが、しかしこのプロデューサーは、安定を選ばない。本気になれるもの、自分が没入できるものつまり映画製作の方を選ぶ。
神父は父なのだ。信者はson、息子なのだ。
教会の懺悔システムは、究極の精神衛生法なのだろう。
壁一枚隔てた狭い暗所での告白とは、水に流すの実戦。
〇〇教では神は擬人化していないだとか、▼▼教ではキリストは神ではない、神の子なのだとか、◆◆教では神は神としか言えない存在なのだ、とか、宗派によってイメージの相違があり、そこが要のため決して相容れない。そこが面白い。そここそが肝心、そここそが信じるイメージの根源なのだから、簡単に妥協してはならないのだ。
そこで折れない所が、信用できる。正に神は細部に宿るで、細かいところを疎かにしている全体は、きっと雑で、信じる対象にはなり得ないだろう。故に教会の壁画や天井画の宗教画は細密でなければならないのだろう、と思った。
ジョージ・クルーニーが演じた、実はお人好しのベアード↓は、『ビッグ・リボウスキ』の駄目男デュードと同じポジションの役。『ビッグ・リボウスキ』も誘拐の話だった。
『ビッグ・リボウスキ』の駄目男デュード。
主人公の映画プロデューサ、エディ↓は、実在の映画プロデューサー、エディ・マニックスをモデルにしている。プロデューサーとは何でも屋なのだということが、この映画を観ていると分かる。
主人公エディのモデルとなった映画プロデューサー、エディ・マニックス。
★制作背景
映画の舞台は1951年だが、この少し前にパラマウント・MGM・ワーナー・RKO・20世紀FOXのメジャー映画会社5社に対するパラマウント訴訟により、独占禁止法に触れるとする判決が出され、各社とも自社で抑えていた映画館を手放すことになる。またテレビの登場で観客が減少し、余裕があった時代には製作できたB級映画を削減せざるを得なくなり、1本の作品にかける大作主義をとるようになった。 また主人公は、実在の映画プロデューサーエディ・マニックス
をモデルにしている。彼はMGMで伝説的なフィクサーとして活躍し、1924年から1962年の間にMGMで制作された全ての映画の予算・収入会計帳簿を管理していた。またキャリアの中で、強制中絶、偽装結婚、その他いくつかの未解決事件のスキャンダルを残している。[6]★
★ジョージ・クルーニー×コーエン兄弟監督=必見の傑作!
スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタムら豪華競演の、ハリウッド内幕サスペンス・コメディ!
(1)アカデミー賞4度受賞のコーエン兄弟監督最新作!
そして、ジョージ・クルーニー×コーエン兄弟監督=必見の傑作!
『オー・ブラザー! 』『ディボース・ショウ』『バーン・アフター・リーディング』に続き4作目のタッグとなる、コーエン兄弟監督とジョージ・クルーニー。
絶妙のコンビネーションを堪能できる1本。
(2)豪華俳優アンサンブル映画! これ1本で今観るべきハリウッド俳優がチェックできる!
ジョージ・クルーニーがバカ面で誘拐され、スカーレット・ヨハンソンが超セクシーな人魚に大変身!
チャニング・テイタムがサービス満載のシーンで悩殺し、ジョシュ・ブローリンがトラブル処理のフィクサーを華麗に演じる!
・・・彼らの演技を見ているだけでも大満足。
その他、レイフ・ファインズ(『シンドラーのリスト』)、フランシス・マクドーマンド(『ファーゴ』)、ティルダ・スウィントン(『フィクサー』)、
ジョナ・ヒル(『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)、アルデン・エーレンライク(『ブルージャスミン』)といった実力派俳優陣が多数登場。
ひと癖もふた癖もある役どころを熱演!
(3)巧妙な犯罪サスペンス+実話ベースの映画製作バックステージもの!
人気俳優の誘拐事件から物語が始まる本作。まずは『ファーゴ』『ノーカントリー』のコーエン兄弟お得意の犯罪サスペンスとして楽しみたい。
そして、当時の映画製作事情、TVの台頭で揺れるハリウッドビジネスの実態を描く本作。
50年代のハリウッドを舞台にした、実話ベースの映画製作バックステージものとして、コーエン兄弟の映画愛に溢れた1本!
【ストーリー】
突然消えた映画スター! 最高にゴージャスな大捜査、始まる。
1950年代、ハリウッドが“夢"を作り、世界に贈り届けていた時代。
スタジオの命運を賭けた超大作映画「ヘイル,シーザー!」の撮影中に、主演俳優であり世界的大スターのウィットロック誘拐事件が発生!
撮影スタジオは大混乱に陥る中、事件解決への白羽の矢を立てられたのは貧乏くじばかりを引いているスタジオの“何でも屋"。
お色気たっぷりの若手女優や、みんなの憧れのミュージカル・スター、演技がヘタなアクション俳優など、撮影中の個性溢れるスターたちを巻き込んで難事件に挑む!
【キャスト】
エディ:ジョシュ・ブローリン(『ボーダーライン』『ミルク』『ノーカントリ―』)
ベアード・ウィットロック:ジョージ・クルーニー(『マネーモンスター』『ゼロ・グラビティ』『オー・ブラザー! 』)
ホビー:アルデン・エーレンライク(『ブルージャスミン』『イノセント・ガーデン』)
ローレンス:レイフ・ファインズ(『グランド・ブダペスト・ホテル』『シンドラーのリスト』)
ジョー:ジョナ・ヒル(『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)
ディアナ:スカーレット・ヨハンソン(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『LUCY/ルーシー』)
C・C・カルフーン:フランシス・マクドーマンド(『プロミスト・ランド』『ファーゴ』)
ソーラ・サッカー/セサリー・サッカー:ティルダ・スウィントン(『フィクサー』『ペンジャミン・バトン 数奇な人生』)
バート:チャニング・テイタム(『ヘイトフル・エイト』『フォックスキャチャー』)
【スタッフ】
監督・脚本・製作:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン(『ノーカントリー』『オー・ブラザー! 』『ビッグ・リボウスキ』『ファーゴ』)
製作:ティム・ビーヴァン/エリック・フェルナー(『リリーのすべて』『レ・ミゼラブル』『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒルの恋人』)
製作総指揮:ロバート・グラフ(『トゥルー・グリット』『ノーカントリー』)
撮影:ロジャー・ディーキンス(『アンブロークン 不屈の男』『007 スカイフォール』)
プロダクション・デザイン:ジェス・ゴンコール(『プラダを着た悪魔』『ノーカントリー』)
衣装:メアリー・ゾフレス(『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『トゥルー・グリット』)
音楽:カーター・バーウェル(『キャロル』『オー・ブラザー! 』)
■製作:2016年 アメリカ
Film (C) 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.★
★『ヘイル、シーザー!』(原題:Hail, Caesar!)は、2016年公開のアメリカ合衆国の映画。コーエン兄弟監督のコメディ映画[4]。
あらすじ
1950年代、ハリウッド。エディ・マニックスは早朝から若い女優の契約違反を尾行し、警察の追求から逃れさせる。彼は、映画スタジオ内外で起こるどんなトラブルにも対応する汚れ仕事請負人だった。朝、教会で懺悔するところから、彼の一日は始まる。
テレビの台頭に危機感を抱いたキャピトル(Capitol)・ピクチャーズ社は、命運をかけた歴史スペクタクル超大作映画『ヘイル、シーザー! -キリストの物語-』の製作に乗り出している。撮影にはトラブルが続発。エディはカトリック、プロテスタント、ユダヤ教、正教の宗教者たちと、宗教的見地から内容に問題が無いか会議をしていた。問題はキリスト役で、宗教者の反発も強く、また予定されるホッカイザ―はフォックスに移籍する予定だった。一方、水中バレエ映画スターのディアナは未婚のまま妊娠し、西部劇のスター俳優ホビーはロマンス映画『我らは踊る』に抜擢されるが演技と発音が問題となる。そしてエディも、問題解決能力を買われロッキード社からのヘッドハントを受けていた。
そんな中、主演オトロカス役のベアード・ウィットロックが何者かに誘拐されるという大事件が発生する。エディは事件解決に向けて極秘裏に動き出す。海辺の邸宅で目を覚ましたベアードは、誘拐犯の会議に顔を出してしまうが、彼らは共産主義思想を隠さない。
ベアード抜きで撮影は進められ、そこに10万ドルの身代金を要求する脅迫状が届けられる。ゴシップ記者ソーラは、ベアードの同性愛スキャンダル記事を書くと話すが、エディは逆にホビーの熱愛記事のネタを提供する。ソーラの妹でやはり、ゴシップ記者のセサリーは、誘拐を聞きつけて記事に書くと話す。エディは彼女たちに決して真実を明かさず、明日の記事に載せないよう誘導する。事務所に戻り現金をカバンに詰めながら、エディはホビーに誘拐事件を打ち明けると、ホビーはエキストラを怪しむ。
エディはバート主演の『Singin' Dinghy』が撮影中のスタジオに行き、ディアナのお腹の子の父である監督のアーンを説得しようとするが、彼には妻子がいた。エディは穏便に出産させようと一計を案じる。その頃、誘拐犯たちはベアードに自分たちの共産主義思想を語って聞かせ、ベアードなりに彼らの思想を受け入れる。一方、撮影スタッフたちも怪しいエキストラを突き止める。
その夜、ホビーは会社からの指示で、女優のカーロッタを伴って自らの主演映画『ものぐさなお月様』の試写会へ赴く。その頃、同じ街のジョー・シルヴァーマンの事務所で話し合いが行われ、ジョーがディアナの産む子の里親となり、その後、彼女が養子として引き取ることでまとまった。一方、ホビーはカーロッタとの食事の席で、10万ドルの入ったカバンを目撃し、持ち去った男:バートを追跡する。ホビーはくつろぐベアードを見つけると、連れ帰る。バートと共産主義者たちはカッターで海に漕ぎ出すと、ソ連の潜水艦が現れる。バートは潜水艦に迎えられるが、10万ドルのカバンは取り落としてしまう。
翌朝、何事もなかったように戻り、すっかり共産主義に毒されたベアードは、エディに対し「資本論」(Capital)はあらゆる分野に通じると熱弁する。エディは平手打ちし、我に返させるとベアードを褒めて煽ってスタジオへ向かわせる。エディは秘書からディアナがジョーと結婚することになったと報告を受け、さらにソーラに対する口止めも成功する。
エディは27時間ぶりに懺悔するが、結局いらだってしまう。そして、いつもと同様に、エディの一日は始まるのだった。
エンドロールでは、初めにソ連の軍歌が流れる。
キャスト
- エディ・マニックス - ジョシュ・ブローリン
- ベアード・ウィットロック - ジョージ・クルーニー
- ホビー・ドイル - オールデン・エアエンライク
- ローレンス・ローレンツ - レイフ・ファインズ
- ジョー・シルヴァーマン - ジョナ・ヒル
- ディアナ・モラン - スカーレット・ヨハンソン
- C・C・カルフーン - フランシス・マクドーマンド
- ソーラ・サッカー - ティルダ・スウィントン
- セサリー・サッカー - ティルダ・スウィントン
- バート・ガーニー - チャニング・テイタム
- コニー・マニックス - アリソン・ピル
- エキストラ - ウェイン・ナイト
- アーン・セスラム - クリストファー・ランバート
- ナタリー - ヘザー・ゴールデンハーシュ
- ジョン・ハワード(共産主義者の脚本家のリーダー)- マックス・ベーカー
- ベネディクト(共産主義者の脚本家)- パトリック・フィッシュラー
- フレッド(共産主義者の脚本家)- フレッド・メラメッド
- 共産主義者の脚本家 - デヴィッド・クラムホルツ
- 共産主義者の脚本家 - フィッシャー・スティーヴンス
- 共産主義者の脚本家 - アレックス・カルポフスキ
- 共産主義者の脚本家 - グレッグ・ボールドウィン
- ヘルベルト・マルクーゼ:ジョン・ブラサル
- 「ヘイル、シーザー!」の出演者 - クランシー・ブラウン
- ラビ - ロバート・ピカード
- アシスタント・ディレクター - カイル・ボーンハイマー
- 「ヘイル、シーザー!」のプロデューサー:ロバート・トレバー
- ソ連潜水艦の艦長 - ドルフ・ラングレン
- ナレーター - マイケル・ガンボン
受賞
年 | 映画賞 | 賞 | 対象 | 結果 | 出典 |
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2017 | 第21回美術監督組合(ADC賞) | 時代映画部門 | 未決定 | [5] |
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