『明日に向かって笑え!』
明日に向かって笑え! : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
面白過ぎて泣いてしまった。アルゼンチン版『荒野の七人』にも見えた。
「勇敢なバカには人生を切り拓く力がある」。ネバーギブアップ。
それぞれにそれぞれの立場と事情。
そんな人たちが、悪に正義を思い知らせる。
知力体力時の運とはアメリカ横断ウルトラクイズのコピーだが、熱くそれを思った。
親子の葛藤もリアル。
ラストで、強い母のもとで自分を発揮できずにいた息子が金の一部を持ち逃げして帰ってこない。そこが良かった。そこがリアルの肝だった。スープの塩味として効いた。
こういう人、いる、だらけ。映画とは、こういう人、いる、を描く動画なのかもしれない。
古今東西人生における問題というものの本質はあまり変わらない、と思った。
アルゼンチンの、洗練され過ぎていないパワーがかっこいい。
人々の素朴さが愛しい。
夫婦、親子、友人、同志、の絆の強さ。
強いがゆえ、時に別行動せねばならぬジレンマ。
主人公は妻を事故死させてしまい、そのことで引きこもる。
銀行に預けていた、町おこしの為に集めた金を、支店長と弁護士のグルに盗まれたことで計画が狂ったことが発端。
町の人々は、弁護士がその金を地下金庫に隠したことを人脈ネットワークからつかんだ。
町の人々は、その金を取り返そう、と一致団結。
その金は、農協を作るために、みんなのなけなしの金を集めたものだった。
アイデアや人脈や知識や大胆さや体力や自然や相手の錯覚や勘違いやタイミングや自身の持てる物を使って、地下金庫から金を取り返そうとする過程がハラハラ。
いい人たちなのだが、ゆえに抜けているところや怒り過ぎて空回りしたり、見ていられない。しかし見守らずにはいられない。成功しない訳がないと思いきや、いや、こんなに応援すると好事魔多しでどんでん返しが来るのかもしれない、がっかりしたくないから控えめに応援しようと思ったり。観客の感情も葛藤。こっち側の全メンバーに感情移入してしまう。そんな理不尽なことがあってはならないと、義憤。しかしアルゼンチンという国の政情の不安定ぶりには、無政府主義スピリットで個人として生き抜かねばならぬのだろう。どこでどうサバイバルするのかが生き物の運命。
しかし、場所はどこでも前進するしかないという意味では同じことなのだろう。正義のために戦う、という良心が宗教。
進取の気質の二人組がほほえましかった。
彼等は映画の舞台設定である2001年時における、流行も知っている地元の相棒二人役で、携帯を持っていて、「金持ちは二つ折を持っている」などと言う。大それた野心はなく、このまま楽しくやっていこうよ、というノリ。気のいい二人で、この地元でビデオショップを開こうとして、「若者がいないから」と年長者に止められる。そして、農家の拠り所となる農協設立になけなしの金を出資する。その軽いノリがクラウドファンディングっぽい。
アルゼンチンというとマドンナが主演した『エビータ』を想起するが、この映画は小市民目線。そこがアルゼンチンの山田洋次映画っぽくて面白い。俳優全員が大変リアルで親しみが湧き、魅力的。全員のファンになってしまった。
「奴は、正義の制裁だと気付くのか?」「自分と同じようなクズがやったと思うだろう。」「クズは自分がクズだとは気づかないのさ、俺たちと違って」など、セリフの細部に納得感がある。ただ取り返しただけでは気が済まないのだ。こっちはこんなに嫌な思いをした、ということを、奴に分からせたいのだ。観客も同じ気持ちになるから、悪役には、観客が納得する最後を迎えてもらわないと不完全燃焼。ただ消せばいいというものではない。それでは奴は楽過ぎる。それに死んだら、主人公同様観客も罪を感じてしまう。願ったから死んだのか?という呪い因果関係に。主人公が、銀行員夫婦が死んだときに、銀行員の死を願った自分を責めているこの映画では、悪役のとっちめかたは重要。後味が悪くなく、良かった。
このような政情では、庶民こそがヒーロー・ヒロインになる。
悪役のハイカロリーな金の亡者ぶりが凄い。この悪役が本気でないと、締まらない。すぐカッとして激情のまま車を滅茶滅茶に走らせるシーンなど、発火した後のしつこい狂気がリアル。狂気とはしつこさの異名なのかと思った。さっぱりした人は狂人にはなれない、すぐにさっぱりと諦めるから。つまり芸術家とはしつこさの権化、とも思った。
亡き妻が観ていたヘプバーンの映画がヒントになるのも、妻からの声という感じで泣けた。
この事件は、関わった人全ての人生を変えた革命だった。人生には時機・チャンスというものがあって、しかるべき時機に自分を投資して回収を図るのが、大人の冒険ということなのだろう。
タイトルが『明日に向かって撃て!』ではないところが、21世紀映画だと思った。
絶望のどん底で嘆いていたって始まらない!というメッセージが、小気味よく愉快に伝わってきた。さあ、〇〇しよう、と観客も自身の人生に革命を起こしたくなる。
「駄目な子」とは、親の言う事を聞く優しい子、とも思った。親のプログラミングは、子のサバイバルには古いのだ。けれど優しい子は、心も親を裏切らずに言う通りに生きようとして、親のプログラミングで心身実行、そして玉砕挫折、後の引きこもり。映画の中の二人の息子に、そういう自分と決別する転機が訪れ、良かったと思った。
原題は " Heroic Losers " 。 直訳は「勇敢な敗者たち」だろうか。
宣伝文句にある「アルゼンチン版『オーシャンズ11』」に納得。
★ Amazon商品ページより
【ストーリー】
2001年、アルゼンチン。隣人達との温かな繋がりが残る寂れた小さな田舎町。
放置されていた農業施設を共同で復活させるために貯金を出し合う住民達。
ところが、現金を銀行に預けた翌日、金融危機で預金は凍結。
しかも、この状況を悪用した銀行と弁護士に騙し取られて無一文となり、絶望のどん底へ。
だが、嘆いていたって始まらない!盗まれた財産を奪還して暮らしと夢を勝ち獲るべく、庶民軍団の奇想天外なリベンジ作戦が始まった!
★
史上最も元気にさせてくれる、無謀にして最高の大逆転痛快リベンジ劇!
【キャスト】リカルド・ダリンルイス・ブランドーニチノ・ダリン
ベロニカ・ジナス
アンドレス・パラ
リタ・コルテセ
【スタッフ】
監督・脚本:セバスティアン・ボレンステイン
『明日に向かって笑え!』オフィシャル・インタビュー|シネマファクトリー[シネマファクトリー] (cinema-factory.net)
原作・脚本:エドゥアルド・サチェリ
製作:ウーゴ・シグマン
撮影:ロドリゴ・プルペイロ
衣裳デザイン:フリオ・スアレス
プロダクションデザイン:ダニエル・ヒメルベルグ
オリジナル楽曲:フェデリコ・フシド
編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ
内容(「Oricon」データベースより)
2001年、アルゼンチン。隣人達との温かな繋がりが残る寂れた小さな田舎町。放置されていた農業施設を共同で復活させるために貯金を出し合う住民達。だが現金を銀行に預けた翌日、金融危機で預金は凍結。しかも、この状況を悪用した銀行と弁護士に騙し取られて無一文となり、絶望のどん底へ。だが嘆いていたって始まらない!盗まれた財産を奪還して暮らしと夢を勝ち獲るべく、庶民軍団の奇想天外なリベンジ作戦が始まった!★