『フェノミナン』
『フェノミナン』(Phenomenon)は、1996年に公開されたファンタジー恋愛映画。日本でのキャッチコピーは「人生には、説明できない不思議がある」。
ジョン・タートルトーブが監督を務め、主演はジョン・トラボルタ。撮影はサクラメント、ソノマ、トレジャー島などのカリフォルニア州北部で行われた。
特にエリック・クラプトンとベイビーフェイスによって提供された劇中歌「チェンジ・ザ・ワールド」が有名である。
キャスト
役名 | 俳優 | |
---|---|---|
ジョージ・マレー | ジョン・トラボルタ | |
レイス・ペンナミン | キーラ・セジウィック | |
ネイト・ポープ | フォレスト・ウィテカー | |
ブランデー先生 | ロバート・デュヴァル | |
ジョン・リンゴールド博士 | ジェフリー・デマン | |
ウェリン医師 | リチャード・カイリー | |
ボブ医師 | ブレント・スパイナー | |
ジャック・ハッチ捜査官 | ブルース・A・ヤング | |
アル・ペンナミン | デヴィッド・ギャラガー | |
グローリー・ペンナミン | アシュリー・ブチーレ | |
ティト | トニー・ジェナロ | |
ベインズ | ショーン・オブライアン | |
ロジャー | トロイ・エヴァンス | |
ボニー | エレン・ギアー | |
ジミー | マイケル・ミルホーン |
黙読が超能力だと思うので、あらゆる人間力はほとんど超能力だと思う。
だからこの映画は、誰もが超能力者である人間の恋愛、人生映画だ。
主人公ジョージが親友ネイト・ポープのために嘘のポルトガル語を教え込む友情に感動した。
ジョージは、
恋人のいない心優しいネイトのために、
超能力で助けた子どものシングルマザーを
ハウスキーパーとして紹介。
そのポルトガル人女性を見て、ネイトは一目で恋に落ちてしまう。ジョージが嘘で教えたポルトガル語は「あなたの顔に詩情が漂っています」「あなたの美しさは音楽です」などの言葉(それをジョージは「日給はいくらですか?」と訊かれたらこう答えればいいと教え、それを鵜呑みにしたネイトはジョージが録音したそれらを暗記してそのまま女性に言い、女性はネイトに好意を持つ。女性が「また明日」と帰ったあと、ネイトは無線で大ファンの「ダイアナ・ロス」に「聞いてくれ、ダイアナ、今日、目の前に天使が現れたんだ」と告げる(今で言うファンサイトなのだろうと思った)。これはダイアナ・ロスに直接言っているのではない。ダイアナ・ロスというもの、つまり客観視した未来や過去の自分自身、つまり守護天使に言っているのだ。大好きの対象とは、自身の過去や未来のエッセンスなのだ。それにアクセスするということが大好きという気持ちで、その大好きな誰かや何かに向かって言うということは、神社仏閣や教会で祈ることと同じことなのだろう。祈るとは、自身の過去のエッセンスピックアップ、そして良き未来のビジョンのピックアップなのだろう。選んだ未来が現実になるのだ。恐ろしいことが起こりそうと常に思う人はそれを信じているのであり、信じたことがやはり訪れてしまうのだろう。絵を描いたとき、そのビジョンは過去の自身の脳内にあった、ということと同様に。
だから縁起をかつぐという行為は即ち祈りであり、祈ったようなことが起こり続けた人類の気持ちリレーの現在地が今という現象なのだろう。
★ストーリー
小さな田舎町で
暮らす平凡な男・ジョージ。37歳の誕生日を迎えた夜に、謎の閃光を目撃したことで
不思議な力・天才的な頭脳を得る。そしてジョージの生活は、平凡から一変することになる。平凡で優秀さがないと街の人達から評されていたにもかかわらず、何かを発明すれば高評価を得、無線を調整すればFBIが飛んできたり、ずば抜けた能力を発揮して世間に見せつける。
果てはその頭脳を研究材料にしようと国家の機密医療施設にてモルモットとして協力を要請されるに至った。しかし、天才的頭脳は彼の寿命をも縮めるものであった。加速して消えゆく命、消える前に何かを残そうと考えたのは、好きな女性への想いだった。★
ジョージが恋したレイス・ペンナミンのこども二人のうち、女の子はすぐジョージを受け入れる。ジョージがレイスに、摘んだ花をあげようとしていると、花束を見て「それ、ゴミ袋のひも?」。「そう」とジョージが答えると、女の子は自分の髪の毛のリボンをほどき、花束にちょうちょ結びにしてお姉さんのように「はい」とジョージに渡す。ここでぐっとくる。お兄さんの方は始め警戒している。しかしジョージが地震予知をしたりしている姿を見て、何か動物的に本能的に受け入れ態勢に。
母であるレイス・ペンナミンは、この地に、落ち着いた生活をする為にやって来た為自分の生活に誰かを入れたくないのだが、実はジョージが自分が作った椅子を全部買い取っていたことに気付いた辺りから、ジョージに惹かれてゆく。
ジョージに超能力が宿ってから、知り合いはジョージに距離を置く。
ジョージは、教授に呼ばれた地震学会への同行をレイスに求める。
「きみだけが、正しい理由で遠慮なく怒ってくれるから」と。
怒れるとは信頼なのだ。グラグラの地盤の上では不安しかない。怒るとき、人は基本健康だと思う。物凄く怒っている人を見て怖くなることがあるが、それはその人のマグマにビビっているのだ。その人の元気が過ぎることに、同じ動物としてビビっているのだ。
ジョージがFBIの無線の暗号解読をしてその応答を親友のネイトが送信すると、暗号が解読されて暗号システムを破棄することになったFBIが家宅捜査に入る。ネイトは投獄され、ジョージもテストされる。テストスタッフが、ジョージが鉛筆を念力で遠隔操作している現場を目撃。スタッフが「鉛筆に命令しているのか?」と訊くと、「いや協力してるんだ、同じ原子エネルギーで出来た仲間だから」とジョージ。そうだろうなと思う。そのノリで、野菜にモーツァルトを聞かせて育てている人がいる。この世の究極単位は、粒であり波。つまり全てはビットの点存在又は波動なのだから。肥料の一つが音楽であっても不思議ではない。
ただ、カテゴライズ、つまり名づけて認識することが人間の勉強だから、勉強して教育を受ければ受けるほど、カテゴライズ、選別、色付け、つまり意味付けしてしまうのが人間。石と天ぷらが同じものだと誰かが言えば笑うように教育されている。しかし石も天ぷらも同一粒と同一波の集合なのであり、カテゴライズしまくって果てにあまりにも別カテゴリーにマッピングされてしまっているが、元は同じ、材料は同じ、なのだ。
脳内が「妊娠したかのよう」なジョージ。アイデアが次々出てきて、それをみんなで分かち合いたいと思う。これはサヴァン症候群の人達のよう。「正常な人達」とは、実は物凄くスローにしている人たちなのかもしれない。
本当はもっと我々の意識は光速なのかもしれない。天才と言われる人たちは、正常モードにするための障害インストールを外した、または生まれつきその障害モードがインストールされていないのかもしれない。
思い付いたアイデアを次々実行しようとするジョージは、他人には怖いと思われる。
落ち着くとは、遅延、遅刻ということなのかもしれない。
まったりとは、時間というボタンへ、遅くズラしたボタンホールをかけ続ける行為なのかもしれない。
ジョージは孤独になる。
FBIからもマークされ、仲間からも恐れられ、レイスからも「会わないほうがいい」と言われてしまった。
ジョージは自分の畑を耕す。
人は、内面状況を常にアウトプットしているのだろう。ジョージは今脳内を耕しているのだろう。
一心不乱にcultivateしたジョージがランナーズハイを迎えてふっと気を抜き空を見上げ、風に揺れる梢を見つめてから目を閉じ同期して一緒に揺れる姿は詩情に溢れてとても美しい。
ジョージは町中の噂になっている。ジョージはエイリアンに捕まって、エイリアンがジョージの中に入って操作していると噂されている。
レイスの二人のこどもは、ジョージが行きつけのバーで、手を触れずに割った鏡の破片を1ドルで買った。
お母さんのレイスは、こどもに「お父さんがいなくなって人はどうなった?わたしたちと同じ思いを、他の人にさせちゃだめよ」と言う。つまりレイスが離婚したとき、それまで付き合いのあった人たちが手の平を返したように態度を変え、潮が引くように去っていったのだろう。
しかし、人波とは潮なのだ。人間は複数になったら、もう意志など持てず、良くも悪くも潮のような現象でしかない。
みんなが怖がって距離を置いているジョージの家に、レイスが来てくれた。
ジョージは丁度レイスに電話をかけていたのだった。
「来てくれてありがとう。何か飲む?」と訊くジョージに、首を横に振ってから、
「ハサミを」とレイス。
レイスは、引きこもっていて髪も髭も伸びっ放しだったジョージの髪を洗い、切り、ムースを塗って髭を剃る。ここが清潔なラブシーンになっている。
図書館セールの日。「ジョージ・マレーが二か月で読んだ本」という展示もある。
ジョージが来るとみんなが集まる。和やかな雰囲気。
「読んだ本の話をしたい」とジョージが話し始めると、バンでテレビクルーがやって来る。
「どうやって、触らずに鏡を割った?」と訊かれると、市民のメガネを拝借し、テーブルの上で回してみせ、「これは双方のエネルギーのダンスなんだ」とジョージ。
「俺でもできる?」と訊かれると、「集中力や思考をクリアにすれば」とジョージ。
「UFOは?」
「分からない」
「知ってるはずだ」
「その力は空に物体を見た時から?」とテレビクルー。
「光です。世界で一番大きな生物は何だと思う?コロラドのポプラの巨大な森▼だ。それぞれの木は別々と思われているが、同じ根を持つ一つの巨大な生物だ。木は人間と違って……」と話し続けるジョージに、「UFOの話を」「テーブルは動く?」と訊く人々。
「光の話を」「何か隠しているな」
そこへ「息子に手を。死にかけているんだ」と子を抱いた父。
みなが押し寄せ本を載せた机が倒れ、ジョージも倒れた。
仰向けになったジョージは、あの光を見た。
光はジョージに照射された。
次のシーン。
ジョージの目線。
目を開けると天井、そして医者が見える。病院らしい。
「マレーさん、気分は?」ジョージはMRIにかけられていた。
病室の窓外の揺れる木を見つめるジョージ。悲しい気分が伝わってくる。
病室に入ってきた主治医(この大病院の医師ではなく、小さな病院の医師。)は沈んだムード。レイスも親友も見舞いに来てくれた。
涙ぐむレイス。
「実は脳に腫瘍がある。そこから突起が四方に伸びている。ところが不思議なことに、脳の機能を破壊せず、機能を刺激してる。なぜか分からん。それで脳の機能範囲が広がっている。突起のせいでね。この腫瘍は、アストロチトームという。症状としてはめまいがしたり、光の幻想を見る。なぜ脳のあちこちが覚醒するのかは大きな謎だ。そして、」と主治医。
「僕は死ぬ?確実に?」とジョージ。
「このままでは脳内出血のため体が衰弱し、昏睡状態に。」と主治医。
親友の気遣いによりレイスと二人になったジョージ。
「いつまでだと?」と訊くジョージに、
「数日か数週間か、先生にも分からないと」とレイス。
「愛すまいと思ったわ」とレイス。
「大成功?」と訊くジョージに首を横に振るレイス。
「僕が死ぬまで愛してくれるかい?」とジョージ。
「いいえ、私が死ぬまでずっとよ」とレイス。
ワレン博士が病院にやって来て、ジョージとの話し合いを録音する。研究チームで手術をする許可を得るためだという。
「でも手術不能だと」とジョージ。
「成功率は非常に低い。500分の1だ。腫瘍の大部分を取れば延命できる。だがこれは命を救う手術ではない。言わば、探検に等しい。」と博士。
「死ぬまで手術を待ってくれと言ったら?」
「それがきみの希望なら、解剖だけにする。」自動的に強制的に献体なのかと思った。
ジョージは手術を断り、ワレン博士を帰す。
やって来た主治医は、ワレン博士と言い争う。
主治医にとってジョージは息子同然。行きつけのバーでジョージを馬鹿にする常連客とも言い争い。
このまま死ぬのを待つのかと思いきや、ここでジョージは行動に出る。
見舞いに来た男に、隠していた睡眠薬を入れたデザートのプリンを食べさせ、彼が熟睡すると服を交換して帽子を被る。彼をベッドに寝かせて病院を出る。
そうこなくっちゃという所。
パトカーが主治医に「FBIの要請で、脱走したジョージ・マレーを捜しています」と言うと、主治医はパトカーのタイヤの空気を抜く。
大笑いの主治医。
ジョージは親友にメモや本を遺し、逃げる。
家に帰ると愛犬がまず気づく。レイスが家にいる。
レイスの家に行くと、
「ここに死ににきたの?」とレイスの息子。
「ここが好きだし、きみたちが好きだ。リンゴは、落として放っておけば、腐っていつか消えてゆく。でも僕らが齧れば、僕らの一部になる。思い出として永遠に」とジョージ。宇宙のエネルギー保存の法則の話。
三人で一個のリンゴを齧っていると、一台の車。止まった車から出て来たのは、FBIのスタッフ。
レイスはジョージの居所を訊かれ、「知りません」。
車の修理跡でジョージがいると気付いた一人に、
「あなたのファーストネームは?」とレイス。
「ジャックだ」
「ジャック、どんな死に方を望む?」とレイス。これは禅的な質問でもあり、ジョージの気持ちや状況を理解させる誘導でもあり、これ以上ここにいると私があなたを殺しますよという脅迫でもある。
その愛の迫力に気圧され、帰っていくジャック。
ジョージは大自然の中で泰然としている。
「怖い?」とレイス。「怖くない」とジョージ。人は遅かれ早かれ死ぬのだ。誰もが怖いっちゃ怖いし、誰も怖くないっちゃ怖くない。やり残したことがあったのに、が一番怖いことだろう。
二人が愛し合ったあと、そのベッドの中でジョージは他界する。ジョージを胎児として自分の中に取り込むように抱きしめるレイス。
翌日やって来たリンゴールド博士に、レイスはジョージが昨夜亡くなった(passed away)ことを告げ、ジョージの未完成のノートを手渡す。「後はあなたが完成させてください、と」。
自分が作った椅子で号泣したレイスは、梢の揺れを見て、それに同期して、泣くのをやめる。きっと、あらゆる揺れ、揺らぎとは子守歌なのだ。
家から出て来たこども二人を抱きしめ、レイスは一緒に梢の揺れを見つめるのだった。
一年後。
親友は、ジョージが引きあわせてくれた彼女とその息子と農場を車で走る。彼女は妊娠している。
ジョージ・マレーの行きつけだったバーで、ジョージの誕生パーティーが開かれる。
ジョージによって縁が出来た、絆が深まった人達。
BGMはエリック・クラプトンの「チャンジザワールド」。
人類とは根がつながった一つの大きなポプラの森、死ぬとはそれ以外に取り込まれることなんだ、無意識は通底している、集合的無意識ユングエンディング。
ジョン・トラボルタは気さくさの波動が凄い。この人が微笑んでいると、その空間一帯を死神から死守したくなる。
風景には
『バグダッド・カフェ』を想起。
内容には『アルジャーノンに花束を』を想起。