『ふしぎの国のアリス』
アリスは森の中で、チョッキを着た慌てて走るウサキ゛を追いかけているうちに、木の根に掘られた深い穴に落ちてしまいます。そこはまさにトンチンカンでミョウチクリンでアヘ゛コヘ゛で・・・奇妙な世界。船乗りのト゛ート゛やおかしい双子のテ゛ィーとタ゛ム、ハ゜ンとハ゛タフライや馬ハ゛エ、水タハ゛コを吸ういも虫やニヤニヤ笑いのチェシャ猫などで一杯です。しかも身体が縮んだり伸びたり、スミレやユリたちが歌ったり、イカレ親父らとんでもない日を祝ったり・・・。ハートの女王のもとでは、首をはねられそうになり、トランフ゜の兵士たちに追いかけ回される始末。道に迷い心細くなるアリスは家に帰ることが出来るのでしょうか・・・?
『ふしぎの国のアリス』(原題:Alice in Wonderland)は、ウォルト・ディズニー・プロダクションが製作し、ルイス・キャロルの小説を原作とした1951年のアメリカのミュージカル・ファンタジー・コメディ・アニメーション映画である。
あらすじ
ある日の昼下がり。静かな川辺の野原で、アリスは姉ロリーナと一緒に歴史の本を読んでいたが、すっかり退屈しており、ロリーナの目を盗んで飼い猫のダイナと一緒に川のほとりでくつろいでいた。その時、アリスはチョッキを着ている白いうさぎが大きな懐中時計を持って走り去るのを見て、必死で白ウサギを追いかけた。彼女は白ウサギを追ううちに大きなトンネルまで入ったが、その先にあった大きな穴に落ちた。一番下まで落ちると、白ウサギが走っているのを見つけて、アリスは追いかけ、奇妙な空間の部屋にたどり着く。そこには小さいドアがあったので、開けようとしたが、取っ手が喋って「大きすぎて入れないから無理」と言われた。アリスがどうしようかと悩んでいたところ、不意にガラスのテーブルが出てきた。テーブルの上には瓶があって、そこには一切れの紙に「私を飲んで」と書いてあった。アリスがそれを飲むと、身長が約3cmに縮んだ。そこでアリスはドアを開けようとしたが、肝心な鍵をテーブル上に忘れていたのでまた入れなかった。アリスがまた悩んだところ、今度はクッキーがたくさん入った箱が不意に出てきた。そのクッキーには「私を食べて」と書いてあり、アリスがそれを食べると部屋につっかえる程大きくなった。困ったアリスは泣き出し、部屋は涙で水浸しになり、彼女はとっさにさっきの瓶の中身の残りを飲んだ。そして、瓶の中に入り込み、喋った取っ手の鍵穴を通り抜ける。
流れ着いた海岸では、ドードー鳥達がコーカス・レースをしていた。アリスはそれに加わったが、白うさぎを見てまた追いかける。その途中で、アリスはトゥイードルディーとトゥイードルダムに出会い、遊びに誘われるが1度は断る。しかし諦めない2人は粘って「セイウチと大工さんの話」を聞かせることに成功した。2人で遊びだしたのを機にその場を離れたアリスはその後、白ウサギの家にたどり着く。そこでアリスは「手袋を持って来い」と白ウサギに言われ、家の中に入った。手袋を見つけたアリスが、2階にあったクッキーを食べてしまうと、彼女は家につっかえてしまう程大きくなり、白ウサギは驚いて逃げ出してしまう。そこへ白ウサギと共にドードーが現れて、「魔物を退治する」という名目で通りかかった煙突掃除のトカゲ、ビルを家に送り込むが、アリスが煤にむせたため、煙突から飛び出し行方不明になってしまう。それを見たドードーは「家を焼き払おう」とアリスが大きくなった際に蹴り出した家具を壊し、マッチで火をつけてしまう。しかしドードーが火を大きくしようと躍起になっている間にアリスはにんじん畑に気づき、そのうちの1本を食べて、以前より縮んだ。
逃げた白ウサギを追いかける途中で見失い、アリスはしゃべるお花達に出会い、その歌を聴く。しかし、お花達はアリスを雑草だと誤解し、アリスはお花達に追い出された。その後イモムシに出会い、不思議な詩を聞かされたアリス。「せめて身長を7cmくらいにしたい」と言った事がきっかけでイモムシを怒らせてしまうも、その怒りでちょうちょへ変貌した彼から大きくなるアドバイスを聞く。それを受けて、大きくなりすぎたりしたものの、アドバイス通りにマッシュルームを交互に食べながら、無事望んだ大きさになったアリス。その後アリスはチェシャ猫に出会い、彼に言われてマッドハッター、三月ウサギとヤマネの所に行った。そこでは“誕生日じゃない日(なんでもない日)”をお祝いするというおかしなお茶会をしていた。アリスは白ウサギの行方を聞くべくそのお茶会に加わるが、なかなか話が通じない。そこへ乱入してきた白ウサギがマッドハッターに時計を壊され、失意を顕わにしながらも「遅刻遅刻」と走り出したのを追いかけるも、途中で道に迷ってしまい、アリスはとうとう白ウサギを追いかけるのを諦めた。そこへ突然チェシャ猫が現れ、「この辺りの道は女王のもの」だとアリスに教える。アリスがハートの女王と会ったことがないと知ると、チェシャ猫は「ハートの女王に会うなら、オレは近道を通る」と言って、アリスをトランプの国に誘い込む。
庭の生け垣の迷路で、アリスは白いバラに赤いペンキを塗っている3人のトランプ兵たちに会う。そして、そこへやってきたハートの女王に出会い、クローケーゲームに招待された。それは、フラミンゴをクローケー代わりに、そして、針鼠をボール代わりに使うというおかしなゲームだった。どうにかうまくいくも、途中で不意に出くわしたチェシャ猫のせいで、ハートの女王といざござを起こしてしまい、アリスは裁判にかけられる(なお、提案したのは王様である)。アリスはお茶会の3人を証人として呼んだおかしな裁判のやりとりに苛々し、騒動の元凶ともいえるチェシャ猫の存在を告げた際に暴れだしたヤマネがきっかけで更に騒ぎが大きくなってしまう。そこで持っていたマッシュルームを両方食べて大きくなり、ハートの女王に向かって「デブで、わがままで、底意地の悪い暴君」と主張するも、結局追い回される。途中でもう一方のマッシュルームが影響したのか小さくなってしまうが、その直後に女王が言った「今、何と言ったんだい?」という質問に対しチェシャ猫が女王にその言葉を繰り返したのも原因である。
しかし喋る取っ手にたどり着いたアリスは、自分が眠っているだけなのだと知ると「起きるのよ」と呼びかける。うなされている自分を呼ぶロリーナの声で目が覚めたアリスは、「目を覚まして詩の暗唱をしなさい」と言われた際、イモムシが教えてくれた詩を暗唱したことでロリーナに「あなたは夢を見たのね」と言われ、お茶の時間に誘われるのだった。
登場キャラクター
- アリス・リデル(Alice Liddell)
- 本作のヒロイン。夢の中で大冒険をする。一人称は「私」。
- 白ウサギ(White Rabbit)
- アリスの友達のうさぎ。言葉をしゃべることができる。いつも急いでいる。チョッキを着て、懐中時計を持っているが実は壊れている。穴に入る前と後では服装が違い、入る前はスーツで、入った後に家で着替えた時はエリザベスカラースタイル。一人称は「わし」または「私」。
- イモムシ(Caterpillar)
- 水たばこをふかし、煙を吐きながら不思議な歌を歌っているイモムシ。一人称は「わし」。毛虫と呼ばれても本人は気にしていない。アリスにキノコの秘密を教える。そしてちょうちょに変身する。
- ハートの女王(Queen of Hearts)
- 本作のディズニー・ヴィランズ。大柄でわがままで怒りっぽい帝政国家の元首。「首をはねよ!」が口癖。下着のパンツの柄もハート。一人称は「私」。
- ハートの王(King of Hearts)
- ハートの女王よりも身長と立場はだいぶ下。女王とは逆に小柄で気弱で、女王には逆らえない。
- トランプ兵(Card Soldiers)
- トランプ兵。ハートの女王に処刑されっぱなし。
- チェシャ猫(Cheshire Cat)
- 紫とピンクの縞模様で、消えたり現れたりする、神出鬼没のネコ。アリスに不思議の国では誰もがいかれていることを話す。チェシャ州との関連は諸説ある一方、チシャ(=野菜のレタスの意)との関係は不明。一人称は「おれ」または「私」。
- トゥイードルダムとトゥイードルディー(Tweedledum and Tweedledee)
- 二人の違いは襟の刺繍部分の名前。アリスに無理やりセイウチと大工の話をする。
- セイウチ(Walrus)
- セイウチ。カキを食べてしまったことで大工の怒りを買い、逃げ回った。一人称は「オレ」。
- 大工(Carpenter)
- セイウチの友人。料理の腕もお手の物。カキを勝手に食べたセイウチに対し立腹していた。
- カキ(Oysters)
- 海に住む牡蠣たち。セイウチに食べられた。
- 年老いたカキ(Mother Oyster)
- 老婆のカキ。セイウチに気絶させられた。
- マッドハッター、三月うさぎとヤマネ(Mad Hatter, March Hare and Dormouse)
- マッドハッターと三月ウサギの二人で「お誕生日じゃない日(吹き替え:なんでもない日)の歌」を歌いながらお茶会をしている。この2人が「2日遅れてる」と言って、白ウサギの大切な懐中時計を壊してしまう。たくさん並んでいるポットの中の一つにヤマネが入っており、「ねこ」という言葉を聞くと驚いて錯乱するが、ジャムを鼻に塗られるとおとなしくなる。
- 歌うお花たち(Singing Flowers)
- アリスたちに「きらめく昼下がり」を唄うが、どこから来た生き物なのかの質問に対するアリスの答えに対し、雑草だと誤解して追放する。犬や猫、ライオンのタイプもいる。
- ビル・トカゲ(Bill the Lizard)
- 煙突掃除屋のトカゲ。空の彼方に飛んでいった。
- ロリーナ・リデル(Lorina Liddell)
- アリスの姉。年齢はアリスより16歳年上。夢では歴史の勉強を教えており、カンタベリーの大司教の時代のことを語っていた。アリスが奇妙な夢を見たので驚く。
キャスト
役名 | 声優 | ||
---|---|---|---|
原語版 | 日本語吹替版 | ||
TBS版 | |||
アリス | キャサリン・ボーモント | キャロライン洋子 | |
白ウサギ | ビル・トンプソン | 鈴木ヤスシ | |
ドードー鳥 | 富田耕生 | ||
ハートの女王 | ヴェルナ・フェルトン | ペギー葉山 | |
マッドハッター | エド・ウィン | 熊倉一雄 | |
三月ウサギ | ジェリー・コロンナ | 山崎唯 | |
チェシャ猫 | スターリング・ホロウェイ | 大塚周夫 | |
大工 | J・パット・オマリー | 立壁和也 | |
年老いたカキ | |||
トゥイードルディー | 滝口順平 | ||
トゥイードルダム | |||
セイウチ | 増岡弘 | ||
ロリーナ | ヘザー・エンジェル | ||
イモムシ | リチャード・ヘイデン | 滝口順平 | |
ドアノブ | ジョゼフ・ケーンズ | 八奈見乗児 | |
ビル・トカゲ | ラリー・グレー | 立壁和也 | |
赤いバラ | ドリス・ロイド | ||
カトレア虹彩 | クイーニー・レナード | ||
デージー | ルシール・ブレス | ||
チューリップ | |||
ハートの王 | ディンク・トラウト | ||
ヤマネ | ジム・マクドナルド | ||
トランプ兵 | ドン・バークレー |
原作者のルイス・キャロル。
アリスが呼んだ不思議の国。
アリスは、政治や権力の歴史話が嫌い。
ナンセンスな物が大好き。あり得ないことがあるのが大好き。
そういうアリスが自ら呼んだ不思議の国。
しかし人生も、自分で呼んでいるのだ。
今とは、過去の自分が呼んだ未来なのだ。
水たまりの水紋に白ウサギが映って、そこから観客の目を白ウサギ=異世界に持っていくのが鮮やか。
そこからはもう、アリス・イン・ワンダーランド。
へんてこなことが起こり続ける。それをアリス=ルイス・キャロルが望むから。
この手さばきというのは、数学者のそれなのだ。形而上的ワンダーランド。
観念、概念がこども向けの絵に、イメージになっている。
出鱈目を下手に扱おうとすると酔いのある悪夢になってしまう。
ここで、酔わない、船酔いしない世界にするには、数学者の整合性、つまり筋通し力、串刺し力、まとめ力が必要で、ルイス・キャロルは数学者だから容易に、楽しみながらそれが出来たのだろう。
時空の歪み曲線。
あんな底無しの穴に落ちたら、たいていの子は泣くだろう。
しかし、ドレスが落下傘になると分かったとたん、ああ良かった、と余裕を持ち(笑)、辺りを眺めて楽しみ、
地図の勉強まで始める余裕ぶり(笑)。この余裕というのは、つまり集中力のことなのだろう。パッと集中すると、五秒を五分に出来るのだ。集中できないと、慌てるだけで、時間は決して自分のものにならない。時間を自分のものにできなければ、何かをなすことは出来ない。何にでも興味を持ち、楽しみ、既に獲得した既存のものを繰り返すだけでは満足できない。そういうアリスは、ナンセンス(=まだ誰にも手が付けられていない、まだ誰の道も出来ていない新雪のようなカオス)から新たな詩や音楽や数式を取り出せる。ナンセンス・意味なしの逆の意味とは、つまり先人によって作られ十分に使用された道。ああこの道を行くと○○に着くんですねと誰もが知っている国道。一方ナンセンス・無意味とは、草ぼうぼうのはらっぱ。中にはバッタがぴょんぴょん跳ね、草の青い匂いが甘く爽やかに漂う。アリスはそのはらっぱに、空色に雲色のエプロンドレスで分け入ってゆく女の子。
アリスには、ルイス・キャロルには、偏見や差別のフィルターがない。まあ面白そう!それは何?あれは何かしら。新しい出会いへの興味しかない。オール受け入れ。全アクセプト。
アリスの行動の動線は、「チョッキを着た、慌てて走る白ウサキ゛がどこに行くのかを知りたい」。この白ウサギを追いかけているうちに、副次的に色々な体験をする。
アリスは、穴の底のドアの鍵穴から向こうを覗く。すると白ウサギが見える。
アリスは向こうに行こうとする。しかし体が大き過ぎて無理。
するとドアノブが、ヒントをくれる。
ドアノブがヒントをくれるというのが、非常に暗示的。
アリスはドアノブの言うことを聞く。アリスは、大人の言う事を鵜呑みにはしないが、必要とあらばその道のオーソリティー、スペシャリストの言う事を素直に聞く。この自尊心と柔軟性が、アリスの魅力。
そしてドリンク・ミーと書かれた瓶の中のものを飲み、小さくなる、しかし、鍵はテーブルの上。テーブルの脚をよじ登ろうとすると滑って箱を見つける。
その中には、イート・ミーと書かれたお菓子。食べると巨大に。
アリスが「これじゃあ帰れない」と泣き出すと、涙はたまって川のように。その川に浮かんださっきの瓶の中のものを飲むと、小さくなった瓶の中にすぽっと入る、という流れ。手順が証明問題の模範解答のように鮮やか。
つまり順番とは、数学なのだ。順番が、数学なのだ。
1の次が2、2の次が3という約束、それが数学。
はじめに、そして、つぎに、それから、そして、ところが、さいごに、おしまい。という順序。つまりストーリーも数学なのだ。
アリスは、瓶の中に入って、自分の涙の川に乗って移動する。そして開いたドアの向こうへ。
泣いた涙も無駄にはならない。アリスの世界はポジティブシンキング。
向こうでも、同じ物を食べて大きくなり、同じ物を飲んで小さくなる。
蝶のバタフライが飛ぶバターになったりする自由な世界。「ただの言葉遊び」だからこそ、存在の本質に触れてしまう、揺らぎの先の垣間見の景色。
「馬ハエさんね。あら、だれの声かしら。
まさかね。花は話せないわ」
「もちろん話せるわ。」
アリスにも、思い込みがある。まさかね、花は話せないわ。これは、花というものが属する植物の定義が、「動物とは違って鳴かない、話さない」だからで、これも植物に対する偏見・差別、捉え方・把握の狭さ、と言えば言える。
「相手は選ぶけどね」「歌も歌える」「本当?」アリスはすぐ馴染む。
「どこの花園から?」
「どこからでもないわ」
「じゃあ野生の花かしら」
あっちのカテゴリーから見るとそうなる。
「あなたの種類を教えて」
「強いて言うならヒト科。名前はアリスよ。」
「アリス属ってこと?」「聞いたことのない花ね」「変わった花びらね」「色も変わってる」
「わたしは花じゃないの」
「例の野蛮で卑しい連中よ」
「何のこと?」
「雑草よ」
「わたしは雑草(weed)じゃないわ」
「雑草は出てって」
「何てひどい仕打ちを。体を元に戻して摘んでやるわ」
と言うと、花にためていた水をかけられ流されてしまう。
「花なんて大嫌い」
とスカートの水を絞っていると、少し先に、アルファベットの形の煙が上がるのが見える。
近づくと、青芋虫。
「きみは誰なのかな?」
「自分でも分からなくて。今朝から何回も大きさが変わって」
「説明してくれ」
「混乱しているの」説明とは、混乱を仕分けして順番に述べることだ。
青芋虫は羽化して飛びながら、ヒントを教えてくれる。
「片方を食べると大きくなる。もう片方を食べると小さくなる」
「何の?」
「キノコの!」人は怒った勢いで真実を吐くことがある。
アリスはちょうどキノコの上に座っている。
アリスは、両側のキノコをちぎる。
アリスは二つのベクトルを手に入れた。
+と-。
その二極のコントロールキーを使い、ちょうどいい、にアジャストしてゆく。
そして残しておこう、とちぎった両方のかけらを左右のポケットに入れる。
保存、貯蔵して、備える。それが持続可能な生き残る方法。
道に迷うと、木の上にチェシャ猫。
「道を訊きたいの」「どこに行くかによるな」「どこでもいいけど」「だったら好きな方へ行けばいい。ところで、捜してる彼ならあっちに行った」「誰?」「白ウサギさ」一見とぼけている人の、的を射たアドバイス。
「本当に白ウサギを捜したいのなら、イカれた帽子屋(マッドハッター)に訊け」
「帽子屋?」
「あと、3月ウサギもあっちにいる。そいつもイカレてる」
「イカレている人は嫌よ」
「仕方ないだろ、みんなイカレてる。オレもまともじゃない」
しばらく行くと、変わった家が見える。入っていくと、庭で、マッドハッターと3月ウサギが、自分たちの誕生日じゃない日を祝ってティーパーティーをしている。「誕生日じゃない日、おめでとう!」
「席は空いてない」
「たくさん空いてるわ」
「招待してない」
「でも歌は楽しんだわ」
「楽しんだ?褒めてもらえるなんて珍しい。お礼に一杯お茶を飲んでいってくれ」
アリスの動きがジェントリー。いつまでも見ていたくなる。
粘りがある動きというか、滑らかで引っ張る動きなのだ。現実より、少し粘って引く感じの、余韻のある動き。それがアリスの優しさのように感じられ、見ていれば見ているほど好きになっていってしまう。声質もぴったり合っている。鈴を転がすような声という言い方があるが、金属の鈴というより、もっとしっとりした、花のスズランを鳴らすような声。滑らか過ぎて、聞き続けていたら、あまりに正統派に美し過ぎ、その分こっちがエラーを請け負うことになって死ぬという理不尽な目に遭うファム・ファタール的声。カレン・カーペンターの声の少女版。聞き続けるなら心中する覚悟が必要(笑)。
声はキャサリン・ボーモント▼。ピーター・パンのウェンディの声もこの人。気品に溢れ過ぎる、余韻しかないような、意味など伝えていないような、それでいてしっかり意味を相手の脳内に染みこませてしまう、スイート策士(笑)。
日本で言うと、オードリー・ヘップバーンの吹き替えやメーテルの声の池田昌子さんだ。
★キャサリン・ボーモント(Kathryn Beaumont、1938年6月27日 - )は、イギリスのロンドン出身の女優、声優、学校教師である。
ウォルト・ディズニーのアニメーション映画『ふしぎの国のアリス』の主人公アリス役と、『ピーター・パン』のウェンディ役の声優として知られる。★
★DVD ふしぎの国のアリス(特典映像のインタビューに実写出演)★
訳の分からないお茶会に呆れたアリスは、「早く家に帰りたい」となる。
しかし分かれ道の看板を見て、「行ったことのない道ね」と歩き出す。
けれど暗い森。
「早くこの森を抜けたいわ」
と行くと、モメラスの群れが矢印を作って道の在り処を教えてくれた。
しかし向こうから、せっせと道を掃きながらやってくる箒犬が(笑)。
箒犬は、アリスの後ろの道も掃いてゆく。
「どうしよう。道に迷ったときは、下手に動かずじっとしているのが一番ね。誰かが助けにくるまで」と石に座るアリス。
「でも誰が助けに来るの?自業自得ね。忠告を聞いておけば、こんなことには。私の悪い所だわ。心の中ではよく分かっているのに。いつもいう事を聞かず、だから面倒にばかり巻き込まれてしまう。『我慢強く』本当にその通りだわ。いつも好奇心に負けてしまう。何か起きると、夢中になって何も見えなくなるの。楽しさだけを求めてるからね。だから行動する前に考えない。後悔したって後の祭りよ。いつかは私も、落ち着いた子になれるのかしら。本当にしょうがない子なの。こんな私でも、いい子になれるかしら」
と泣くアリスの所に、森の生き物たちが集まってきて、もらい泣き。まるでトットちゃん(笑)
泣き続けていると生き物たちは家に帰った。空には三日月。かと思いきや、それはチェシャ猫の口だった(笑)。
「ウサギだと思ったかい?」
「ウサギはもういいの。家に帰りたい。でも迷子なの」
「そりゃそうだ。きみの道はない。すべてが女王の道だから」とここで別の世界線が提示される。
「でも私、女王になんて会ったことがないわ」But I 've never met any queen.
「本当に?まだ会ってない?」
「待って。どこに行けば会えるの?」
「ここが近道だよ」
とチェシャ猫は書き割りのような木に穴を開ける。
するとそこは、お城の庭。生垣の迷路を歩いていくと、
トランプたちが白い薔薇を赤く塗っている。
「なんで赤く塗っているの?」と訊くと、
「女王様は赤がお好きなのに、間違えて白を植えてしまった。白いのを植えたら、首をハネられる」
「怖いわ」
「まだ死にたくないんだ。だから塗ろう」
「手伝わせて」とアリス。アリスはすぐ参加する。
そこへ「女王様だ!」と声がして、兵士たちがやって来た。
「カード、止まれ!」と声がして、そこで、あの白ウサギが!ラッパを吹きながら走ってきた。なんとなんと……あの白ウサギはここで、女王様のお出ましの合図のラッパを鳴らすために急いでいたのだ。納得がいく。仕事をし損ねると首がハネられるから急いでいたのだ。
「壮麗なるハートの女王」と白ウサギは息も絶え絶えで言う。すると女王が気取ってやって来る。
「そして王様も」と白ウサギが言うと、女王のスカートの陰から小さな王様が(笑)。
女王に、赤のペンキが取れてしまった白のバラが見える。
「誰が私のバラにペンキを塗った?塗った者の首をハネる」
罪をなすりつけあう3人のカードたち。
「3人の首をハネろ!」
女王は、「王家の花を汚したら許さないよ」と言って怒ったのだが、3人の罪状はとなると、「白バラを植えたこと」らしい。何が法に触れるかと言うとその件なのだろう。3人を連れ去るトランプが、「首がハネられる、白バラを植えた罪で」と歌っている。
「彼らは必死に……」とアリスが弁解をすると、
「お前は誰だ?ハートでもクラブでもないようだな……」
「私は家に帰る道を知りたくて」
「道は全部私のもんだ!」と女王。
「クリケットはするか?」
「はい、できます」と言うとクリケットが始まった。
しかし女王の機嫌を損ねたアリス。「首をハネろ!」と女王。
しかし人道的な王様が、「裁判を開いては?とても短いものを」と時間稼ぎの案でアリスに助け舟を出す。「んんん……裁判を始めよ!」と女王。盛り上がるカードたち。
裁判の議長はウサギ。被告はアリス。「首を……」と判決を出そうとする女王に、またも王様が「証人を呼んでみては?一人か二人でも」と時間稼ぎの助け舟。
そして呼ばれた最初の証人は、3月ウサギ(笑)。
「知ってることを話せ」
「何にも」
「何にも?!」
次の証人は、ポットの中のヤマネズミ。「キラキラ……」と言うとそれが重大証言として記録される。次の証人はマッドハッター。「帽子を脱げ!」と言われて帽子を取ると、中にポットが積まれている。
「犯罪発生時刻、どこにいた?」と訊かれて「お茶を飲んでた。誕生日じゃない日なので」とマッドハッター。「女王も今日は誕生日じゃない日だ」と王様が言うと「本当?」と女王は嬉しそう(笑)。「ならばお目出度い!」と盛り上がったマッドハッターと3月ウサギは、そこにテーブルクロスを広げてお茶会を始めてしまう。うまい平和外交だと思う。皇室の人たちはこのお茶会をし続けているのだ。
チェシャ猫が出てきてヤマネズミが逃げて大混乱。
怒った女王は「娘の首をハネろ!!」
それを女王が言い終わる前に、アリスはエプロンのポケットのキノコに気づき、食べると巨大に。
トランプの兵士も怖くない。「ただのカードよ」
「第42か条。身長が1000m以上の者は、法廷に入るのを禁ず」と王様。
「悪いけど、出ていかないわ」とアリス。
「でも法律違反よ」とビビりながら言う女王。
「何が女王よ。あなたはふとっちょの短気な暴君よ」と言っているうちに、アリスは小さくなってゆく。
「首をハネろ!」と女王。
逃げるアリス。
カップの紅茶に飛び込むと、紅茶の海に。
そこには青芋虫がいた。
「助けて」と言うと
「お前は誰だ」
逃げ続けるとあのドアノブが。
鍵穴を覗くと、向こうには自分が木にもたれて眠っている。
ここで、「アリス、目を覚まして!」とアリスは向こうのアリスに言う。これが凄い。
すると、混然一体となった一人のアリスが、混乱の夢から覚めて木にもたれている。
「アリス、暗誦の時間よ」と姉のロリーナ。
飛び起きたアリスは、「ワニのこどもは輝くシッポを……」。
「何を言っているの?」とロリーナ。歴史の本を読んでいたのだった。退屈なアリスは、途中で居眠りしてしまったのだった。
「アリス、」と叱ろうとしたロリーナは、
気を取り直して「お茶の時間よ」と歩き出す。アリスは愛猫のダイナを抱いて、お姉さんのあとをついていくのだった、という誕生日じゃない日のお茶会エンディング。
「不思議の国のアリス、すぐ近くにある世界だけど誰にも分からない場所」と最後に歌い上げられるが、それはつまり、脳内だ。
とにかく、ディズ二ーアリスの柔らかく愛らしい造形が人類遺産だ。何て可愛いんだろう、としか思えない。つまりディズ二ーアリスは、平和の戦士