映画の小部屋☆『グッバイ・クリストファー・ロビン』☆☆☆☆☆

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今夜は『グッバイ・クリストファー・ロビン』

をお迎えしました

『グッバイ・クリストファー・ロビン』9.5先行デジタル配信/10.3ブルーレイ＆DVDリリース

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青年になったクリストファー役の役者が凄い。

思春期の男の子の、特に同性の父に対する拒絶を青白い顔と愛を漏らさぬ唇と全身の硬さで表現している。

ウィニー・ザ・プー狂騒曲で有名になり過ぎたクリストファーは、自分を誰も知らないところはどこ、そこに行きたい、と乳母のヌーに言う。ヌーは地図で南アフリカを指さす。するとクリストファーは南アフリカに憧れる。

それくらい、いわゆるプライバシーが侵害されていた。

この映画では、社交好きなお母さんはこの騒動を楽しんでいたという描き方。

クリストファーは乳母のヌーにだけ心を許す。

しかしそのヌーも、プーの挿絵を描いていた人と結婚してしまう。

孤独で、世間からは身を隠したいクリストファーは、士官学校に入ることに。

そこでクリストファーは有名人故にいじめられ続ける。

そして世の中は、第二次世界大戦に。

お父さんのアラン・ミルンは、第一次世界大戦に出兵した。

その戦争は、戦争を終わらせるための戦争のはずだった。

帰還したお父さんアラン・ミルンはPTSDになっている。

物音で爆撃が甦る。

蜂の音も、戦地の太った蝿だと思う。

「蜂だよ、お父さん」

とクリストファー。

「蝿じゃないのか？」

「蜂だよ。蜂の近くには蜂蜜がある。蜂蜜があると熊がくるかもね」

「こんな都会に近い森に熊がいるはずがないわよ」

とお母さんは笑う。

笑いながらこの一家と乳母のヌー、お父さんの仕事仲間の画家のやり取りのなかで、後に「ウィニー・ザ・プー」となる世界が育まれてゆく。

戦争から帰って落ち込んで仕事ができないアラン・ミルンのために、妻はロンドンから郊外へ引っ越す決断をして、命懸けで出産してクリストファーを産んだのだった。

そのクリストファーが、戦地に行くと言う。

行かなくても済む方法があると言うお父さんアラン・ミルンに、クリストファーは

自分は兵士ミルンになることで、自分そのものになれる、良かった、と言って出征する。

これはアイデンティティーの獲得のことだろう。

みんなが知っている「あのクリストファー・ロビン」からの卒業宣言だ。

乳母のヌー▼はそういうラインでの一番の理解者だった。立場として感情が一歩引いているからだろう。

よって少年クリストファー・ロビンから「ボクと結婚してよ」と言われる初恋の相手役を担うことになるのだが（夏目漱石の『坊ちゃん』で、ラストに出てきて主人公を坊ちゃんと呼ぶ下女の老婆 清、を想起した。）。

ヌーは、「こどもをいつまでも幼さに縛り付けてはいけません。自尊心を育ませないと」と両親に進言していた。

このような外と内の流れに流されるようにして、クリストファーは出征する。

そして、父親アラン・ミルンのもとに一通の通知が。

そこには「クリストファーが行方不明。死亡と推定」、と書かれてある。

観客はそこで絶望的に泣くしかない。

あの「クマのプーさん」まで憎くなってしまいそうになっていたところへ、

クリストファーは戻ってくる。▼

もう、嬉しくて、号泣してしまう。

クリストファーは出征前の無表情ではない。

生きて帰れて良かったという安堵に満ち、驚き喜ぶお父さんお母さんと抱き合う。

観客もほっと胸を撫でおろす。

クリストファーは、戦地で、仲間がプーの歌を歌っていたとお父さんに話す。

あれはぼくだけの歌のはずだったのに、と言うクリストファーに

「ごめんよ、おまえだけの宝物を売ってしまって」とお父さん。

「違うんだ」

とクリストファー。

「あの歌を歌うと、戦地で暖かな暖炉が浮かぶんだ。それでぼく以外の人も安心できたんだ。良かったんだ」

と言うクリストファーに、お父さんも笑顔。やっとやっと、父と息子の確執が解けたかのようなシーン。

映像は、お父さんがふっと振り返ると幼いクリストファーに戻っていたりする。

親にとってこどもは、何歳になってもこどもだ。

そういう親感情の映像化。

字幕翻訳、翻訳協力に石井桃子さんのお名前がある。

「ウィ二―・ザ・プー」を「クマのプーさん」と石井さんが訳していなかったら、日本人にここまで親しまれていなかっただろう。

また今回、アラン・ミルン自身も「ウィ二―・ザ・プー」というタイトルを、変だがその変な感じがいい、と正しさよりフィーリング、音感で決めていたのだと分かり納得がいった。

▼ウィ二―・ザ・プーの名前の元となった、熊のウィ二―と、飼い主のコルバーン中尉。プーというのはアラン・ミルンとクリストファーが、呼んで振り返ってくれなくても恥ずかしくない名前として白鳥につけた名前。

▼作中登場キャラクターのモデルとなった、ぬいぐるみのカンガ、プー、イーヨー、ティガー、ピグレット。

nameとは並べ替えると意味（mean）になる名前にはそのものの全てがある

九螺ささら

（精神科の医者の仕事の9割は、その混乱に病名を付けることだと思う。

名付けたとたん、その混乱を、当事者に俯瞰視させられる。

当事者が混乱しているのは、自分のそれに混乱や渦というタグが付いていないからで、前後不覚で何が何だか五里霧中だからで、それが上から見れば渦という現象で、岸からどれだけ離れているかが分かれば（イメージングできれば）、あとは渦の停止の待機と岸への接近を目的にすればよい。

大体の混乱や不幸は、目的を見失っているからで、人は目的が定まればそこに行こうと努力するだけの集中に入れる。

「夢破れた」場合は、その夢が遠すぎるからで、刻んで小さいゴールを定めてあげれば集中に入れる（ただしその夢に年齢制限などのタイムリミットがある場合は例外。別の夢レーンに変更すべき）。

混乱や不幸とは、集中に入れないが為の、膨大な散漫の異名だと思う。）

出征するクリストファー・ロビンを演じたアレックス・ロウザーは、『９人の翻訳家　囚われたベストセラー』で天才肌の翻訳家を演じた英国俳優

クリストファー・ロビンの母を演じたマーゴット・ロビーには、シャネルがよく似合う