僕は中学の三年間寮に入っていました。
中高一貫だったので、その寮では中学、高校の先輩と生活しなくてはいけないのです。
まぁ何っつーか、イカ臭い男子寮ですよ。
そんな体内バイアグラ大量生産中の中学二年生の頃、二個上の先輩〔高1〕にイワイダって言う男がおりました。
そいつがどんな奴だったかと言うと、
見た目は手足が細く、そこら辺の田舎から出てきたスポーツ刈の凡人青年って感じで 、
先輩風を吹かせちゃあ、後輩の部屋にわざわざ来て、居座って人の漫画読んだり、カード盗んだり、ゲームボーイをしてみたり、ゲームボーイが壊れると壁に立てかけてお祈りを始めたり 、まぁ2ちゃんとかそこらへんで叩かれてそうな同学年に友達のいない工房なんですよ。
イワイダがこれない様に部屋の鍵を閉めると、3階にも関わらず隣の部屋の窓から壁伝いにやって来て「おい!開けろ!」と窓をドンドン叩くから、しょうがないので窓をいきなり開けると掴むものがなくなって3階から下の繁みに落ちるような事もあり、
ある時は点呼〔朝6時くらいに寮生が全員集まって人数確認〕の際、立ったまま寝ててそのまま誰も気づかずに丸一日学校に来なかった事があるという伝説も残してます。
悪い人ではないんですが、一応先輩だし、空気の読めないイタイ奴だけど、何も害はないしほっとけばいいかっていう、まぁデカいハエみたいな認識で僕らは接してたんです。
そんな僕は中学三年間バスケ部でした。
今現在のような邪念の塊からは想像もつかない、毎日のように個人的に朝から晩まで走りこんじゃ練習をしていて、スラムダンクの流川を意識して1対1には自信があるスポーツ少年って感じでしたよ。
とある日、
その日も放課後、シュート練習をしようと思って、体育館に急ぎました。
今日は一番乗りかなと思ってコートに出ると、
二面あるコートの向こう側で制服で変なシュートを打ってる奴がいたんですよ。
「誰だよ、高等部の仮入部の奴かな?」
と思ってよーく顔を見てみると
イワイダです。
イワイダがフェイダウェイシュートの練習をしてました。
こっちに気が付くと近寄って第一声
「俺と1on1…しないか?」
ハァハァ息を切らしながら不敵な笑みをうかべながらボールを渡してきました。
ポカーンです。
こいつがバスケなんてしてるとこ見た事ないんでビックリしました。漫画とゲームばかりしか取り柄のないのび太みたいな奴なのに。
呆気に取られてる僕からボールを奪い取りまた変なドリブルを始めました。
「来い、お前の力量見てやる」
とムカつくくらい完全に何かになりきってる様子だったので、
とりあえずこいつコテンパンにしてやろうと思いその挑戦に応じました。
力の差は一目瞭然、スティールしてボールを奪ってシュートを決める毎に彼は興奮して
ふんふんディフェンス
とか
ダブルクラッチ
とかゼェゼェ赤い顔になりながら最近漫画で覚えた覚えたような動きで反則してくるようになりました。
年下ながら何かもう可哀相になってきたので、とりあえず守らないようにしてとにかくノーガードで一点彼に取らせてあげようとしました。すると彼は
「一つ忘れてるぜ?」
と言って一歩下がって3ポイントを打ってきました。
予想の斜め上を行く戦術に度肝を抜かれましたが、腕力がなかったらしくリングにかすりもしませんでした。
「油断するな、俺はいつでもゴールを狙ってるからな」
打った後のこの一言に腹筋が崩壊しそうでした。
やばい、こいつ本物のバカだ…と。
シュートが駄目だったその後も、「 ドリブルこそチビの生きる道なんだよっ!!」とマリ突きのようなボールさばきで挑戦してくるイワイダのドリブルをことごとく封じ、最後に完膚無きまでに叩きのめしました。
14歳ながら、練習を邪魔されないように、もうバスケに手を出せないようにしなくちゃと言う使命感が沸いてました。
そして1対1の試合は終わり、イワイダは膝を屈して敗者の余韻に浸ってました。
この光景もどこかで見たことがあります。
うつむいたままこっちに来て、
「負けたよ…」
といいました。もうこれで開放される、やっと安心して練習できると思って背を向けると
「お前がここのエースだ!勝ちに貪欲になれ!!」
と言ってボールを投げてきました。
いたって自分で考えた言葉のように実力にそぐわない名台詞を吐いていくんです。
ぐぅの音も出ないまま呆然としてると
「じゃ、俺帰宅部だから帰るぜ!アバヨっ!!」
と、言って靴下の彼はツルツルのコートに二度ほど滑りながら出口の方に走っていきました。
もう駄目。その日は思い出し笑いで練習に集中できませんでした。
なかなかこんなアフォはいません。
イワイダの頭の中では「バスケ部のエースと死闘を繰り広げて接戦だった」と消化されたんでしょうか。
部活を終え、疲れて寮に戻るとイワイダは僕らの部屋で「キャプテン翼」を読んでいました。
後で聞くと野球部やサッカー部の前でも似たような事をして迷惑をかけていたようです。
みなさん漫画の読みすぎには注意しましょう