本田圭佑のミラノ行きが没になったニュースが出ている。
 本人は、「ネガティブに考えてもしゃあないし」だって。普通なら精神的に影響されるものだけど、試合になるとちゃんと活躍するのだからすごい集中力だ。世界レベルといわれる所以はそこかもしれない。普通ここでオーナーの悪口でも言いたくなるところだろう。

 古い話だが、かつて小錦が強くてどうしようもないときがあった。
 とにかく強かった。なぜか安芸乃島には相性が悪く、安芸乃島に勝った場所は全勝の勢いだった。それがある時突然勝てなくなった。あんなに強かったのに。彼は日本の社会の中で、彼が愛した日本に裏切られたのかもしれない。
 外人が横綱になるには大きな壁がある。
 確かに、言動は大きな問題だった。勝っているのにどうして横綱になれないのか。いらいらが素行に出てしまった。彼が横綱になれたかどうかは紙一重だった。横綱の条件は心技体だから。
 実力者でも普通、集中力が続かない。ましてや文化の違う国なのだから。
 事情は知らないが横綱になって親方になった曙でさえ、廃業を願い出たのだからこの世界の文化の壁はよほど大きいのだろう。

 私がスポーツ選手の発言で一番印象に残った言葉がある。それは柔道の篠原選手の言葉。
 これも古い話になってしまったが、シドニーオリンピックの100kg超級の決勝戦で、見事な内股すかしの一本勝ちを決めた、はずだったが、逆に相手の有効とされてしまった。明らかな誤審で篠原は金メダルを逃してしまった。
 審判や協会に大きな批判が及ぶ中、彼の一言。
「審判もドゥイエも悪くない。全て自分が弱いから負けたんです」
「誤審」以上に衝撃的な発言だった。私はこの潔さに「言葉として」感動した。

 今になってこの言葉に思うところがある。
 弱いから負けたのです。 孤独な戦いに臨まなければ言えない言葉だ。
 私などは、まだまだその域ではないが、今ほとほとまいっている。それは本当に実力がないからなのだ。弱いから愚痴が思わず出てしまう。文句の一言も出てしまう。

 私はこれまでは日本の一流会社の看板があったから何となく生きてこられたのだ。
 周りの人もみんなが実力者で、みんなで技術を厚く固めていた。だから各個人に能力が少しくらい抜けていても、足りないところがあっても、知らぬ間に補い合って気にせずやってこれたのだ。

 これが一度、命綱を切って一人で勝負するとなると、そういう訳にはいかない。何となく知っているということは許されない。実は知っているつもりが、説明もできない。もちろん設備や情報のせいにすることはできない。
 苦しいけれど、日本人一人、専門家扱いされてしまうと、逃げ道はない。
 今の実力で戦うしかない。小手先でごまかしたり、助けられてもいるが、孤独な戦いだ。

 私なぞ全くもって篠原選手の足元にも及ばないが、 今の立場になって、彼の言った「ことの意味」がほんの少しだけ分かってきた気がする。