順調にスタートした2年目のシーズンでしたが、

10月の移籍の締切ギリギリのタイミングで、レッジアーナに新しい選手が2人入ってきました。

2人共イタリア代表選手です。

ますますレギュラー争いが熾烈になり、ベンチにさえ入れない選手が2人出てきます。

新加入の選手が来てから2試合は今まで通りのメンバーでプレーしました。

私も先発出場です。

 

試合の方は連戦連勝。

昨年なかなか勝てなかったラツィオとのローマでの試合に完勝したことで、

一気にカナテッロ監督の評価が高まりました。

試合内容が昨年とは比較にならないくらい良くなっているのを、

プレーしている選手たちは肌で感じていましたから、

誰もが監督の手腕を認め、

もうこの辺りから文句を言わず練習に取り組むようになっていました。

 

 

ところが、この評価が高まった次の試合から、

とうとう試合前のミーティングのスタメン発表の時に、私の名前が呼ばれなくなりました。

調子が良かっただけにショックです。

私のポジションに入ったのはチャルディという選手ですが、

これがめちゃくちゃ上手い!

身長は高いし、視野が広くロングキックは正確。

観ていてホレボレしちゃうんですから、

こりゃ勝てないわ、

と観念してしまいました。

 

フォワードの時と違って、ハーフの選手は途中交代がしづらく、

スタメンに入らないと全く出番が来ないのです。

何試合もベンチを温め続けると、気持ちを維持していくのがとても難しくなります。

ベンチ外の方がむしろ楽かもしれません。

いつ呼ばれるかわからない状態で、

常に100%の力が発揮出来るよう、

心と身体の両方を準備万端にしておかなくてはなりません。

そして結局出番がなく試合が終わる。

 

 

何試合も連続でそんな事を繰り返していると、心が折れそうになります。

どんなに練習で良いプレーをしたって、試合に出してなんてもらえない。

何をしたって、どうせ出られないんだ…

と腐りそうでした。

 

ここで諦めるのか?!

何のためにイタリアまで来ているんだ!?

とにかく練習を手を抜かず常に100パ−セント力を出し切ろう!

たとえ試合に出られないとしても、

このレベルで毎日練習出来ているだけでも私のレベルアップにはなるに違いない。

きっとここでの経験が今後必ず役に立つ時が来る。

 

そう自問自答していました。

 

腐ったら全てが無駄になる。

 

ここに来たことを決してムダにしてはいけない!

と必死でした。

 

そんな日々を過ごし、ミラノでのミランとの試合、

日本から知り合いが来て、私は出場出来ませんでしたが、

せっかく応援に来てくれた人と会うために、

帰りはチームと別行動にして、一人で電車で帰ってきました。

 

家に着き、鍵を開けようとバッグの中を探しますが、

鍵が見つかりません。

 

あー、チームのバスに積んだ大きな荷物の方に鍵を入れちゃったんだ(汗)

 

とりあえずピッポたちの家に行ってみますが、

誰もまだ帰ってきていません。

 

どうしよう…。

 

途方に暮れて佇んでいるところに、カナテッロ監督が現れました。

「カオリ!どうした?」

「鍵をチームのバスに積んだ荷物に入れちゃって、

皆まだ帰ってきていないので家に入れなくなっちゃいました。

監督はどうしてここに?」

「俺は自分の車で行っていたからチームとは別行動だったんだ。

この2階に住んでいるから、すぐに大家さんに電話してやるよ。

しばらく、うちにあがっていな。」

と言ってくれたので、

「ありがとうございます」

と言って、外の階段を上がって監督の家に入れてもらいました。

 

ピッポ達の家の2階に、監督が住んでいたなんて、この時初めて知りました。

電話をすぐにしてくれて、

「すぐここに合鍵を持ってきてくれるそうだ。」

リビングのテーブルを挟んで2人向かい合って座り、

「カオリは皆と一緒じゃなかったのか?」

「今日は日本から友達が来ていたので別行動させてもらいました。」

友達ではなかったけど、説明が難しいので友達にしておきました。

「そうか、わざわざ日本から友達が来てくれているのを知っていたら、今日の試合に出してやったのになぁ。」

と、そう監督は私に言ったのです。

 

エー!

試合に出してもらいたくて、

ほんの数分でも良いから、

とにかく試合に出たくって、

私がどんな思いで毎日毎日練習に取り組んでいる事か、

全くわかっていない~!

友達がいようといまいと、

出せるものならさっさと使ってくれ~!

 

この人にとっては、

私を試合に出すという事は、こんなにも簡単な事なのだ!

あまりに軽い監督の言葉に深く傷つきました。

 

 

テーブルの上に置いてあったイタリア語の新聞を読めもしないのに読むフリをして、

溢れてくる涙を監督に気付かれないよう必死にこらえていたのでした。