イタリアに来て、3か月も経つと、日常会話は困らないようになり、辞書を持ち歩かなくなりました。

チームの事務所へ行くと、

「日本に国際電話を掛けていいよ」

と会長が言ってくれるので、毎週月曜日は日本に電話する日になっていました。

夕方4時くらいにかけると、日本の朝8時か9時(時差が夏時間だと7時間になる)。

その電話が唯一日本語を話す機会なのですが、

段々イタリア語に慣れてくるにつれ、日本語の単語が出てこなくなってくるんです。

会話の途中途中で、

「えーっと、何だっけ?」

ってなる(笑)

 

 

私がイタリアに慣れてくると、最初は何かと気遣ってくれていた周りの人たちが、あまり気にしなくなり、

私は一人になる時間が増えていきました。

しょっちゅうピッポ達の家で過ごしていたので、平日はまだ良かったのですが、

練習も試合も無い日曜日は、誰もいなくなってしまいます。

日曜日はお店も全て閉まります。

 

最初こそ、チームメートが代わるがわる私を連れ出してくれていました。

カルタと出かけた時は、一番きつかったなぁ。

リミニ(リゾート地)に行くって言うから、てっきり海でも見れるのかと思って行ったのに、

サルデーニャ島の仲間が集まる家に行き、

何話しているかわからない会話に付き合い、1日中屋内で座りっぱなし。

立ち歩いたのはトイレに行く時だけだったからね。

後日、ピッポにその話をすると、

「私たちイタリア人だって、サルデーニャ弁は理解できないよ(笑)」

なんだって。

 

 

レジオエミリアの山にある実家に帰る度、

私を誘ってくれていたのが控えゴールキーパーのエメジーでした。

控えと言っても、正ゴールキーパーは、現イタリア代表のレギュラー選手で、

エメジーだって代表に選ばれたこともあるらしいのです。

 

ただ、外見はアスリートっぽくない。

銀行員に見えます(笑)

 

山と言っても日本の山とはイメージが違います。

何が違うのかなぁ…。

と考えながら助手席に乗っていましたが、

あぁ、木が無いんだ!

と気が付きました。

日本の山の様にうっそうと茂った木が無い。

所々に木が立っているだけだったのです。

だから流れる川も、岩場がまる見えで、見晴らしがいい。

 

そんな素晴らしい景色を眺めながら小一時間ドライブすると、

山道の脇に3軒並んだ家があり、

手前がエメジーのお兄さん家族の家、

真ん中が両親とエメジーの弟が住んでいる家、

そして一番奥がエメジーのお姉さん家族の家でした。

その更に先には教会が見えていましたが、

その他に見える家はなし。

最後に見かけた家はどれだけ離れていたかしら?

 

いつも日曜の昼食は全員が集まって、エメジーのお母さんが作ったパスタ料理を食べます。

粉を練って、パスタから作るんです!

そりゃ、美味しくない訳がない!

 

「これ、何の肉?」

と聞くと、

「ウサギだよ」

だって。

ウゥ…私、日本にはポンちゃんっていう名前のウサギも飼っている。

そう言ったら、皆、揃って

「今度来るときはポンちゃん連れてこい」

だって。

 

ポンちゃん食べる気だ~!

 

エメジーのお兄さん家族には、ファッビオという名のちっちゃい男の子がいて、

いつも

「カオリ、カオリ」

と私と一緒に遊んでいた。

 

その子のお母さんやエメジーのお母さんは、

「ファッビオ、カオリを解放してあげなさい!」

ってよく言っていたけど、

「ノン・ファ・ニエンテ(ご心配なく)」

私はとっても楽しんでいた。

 

「カオリ!こっち来て!」

「カオリ、あっちに行くよ!」

私はどこまでもついていく。

ファッビオが隊長で、私が部下って感じ(笑)

 

冒険はなかなか楽しい。

家の外の山の斜面は、全てエメジー一家の敷地っぽい。

アヒルが放し飼いされているし、

犬だけでなく、ヤギや羊もいる。

 

ある時、アヒルがいなくなっていた。

エメジーに

「たくさんいたアヒルがいなくなっちゃったね。」

と言ったら

「いるよ」って。

 

地下の物置に置いてある巨大な冷凍庫の中に、丸裸になった鳥が一杯詰まってた!

 

 

それから20年後、

イケメンになったファッビオに、日本で再会できたんです。

ファッビオはアメリカで航空会社に勤めているので、安く日本に来られるらしい。

日本らしい所で、日本らしいものが食べたいというリクエストに、

色々調べて、『戦国武勇伝』っていう新宿にある居酒屋で、すき焼きを食べました。

 

あの頃のファッビオと同じくらいの歳の、戦国大好きな息子を連れてね。

 

お店の入口に鎧兜を付けた人形が立ってお出迎え。

店員さんも戦国時代の恰好をしています。

廊下には軍旗がずらっと掲げられていて、

店員が

「いざ、出陣じゃー」

みたいな、時の声を上げ、

列になって、部屋へと案内されます。

 

直江兼続の部屋に通されて、ファッビオも息子も大喜び。

すき焼きも、すごく喜んでくれましたよ~。