『地球ジグザグ』というテレビ番組でアルゼンチンにサッカー修行という名目で来ていました。

練習もない日に、通訳さんが、

「何か買い物とかしたい?」

と聞いてきました。

「買い物行きたい!」

「何を買いたい?」

と聞かれたので

「スポーツ店を見たい」

と答えました。

 日本で、南米のメーカーのおしゃれなサッカーユニフォームやジャージが売っていました。

私も普段ジャージはブラジルのメーカーのものを着ていましたが、カラフルでとても気に入っていました。

日本には売っていないデザインの物があれば、シャツかジャージを買いたいと思っていたんです。

買い物には通訳さんは同行出来ないと言う事で、アマーリアや数人のチームメートと一緒に行きました。

 

 電車に乗ると、スリが多いからと私を中心に、皆が壁の様に私の周りを囲ってくれていました。

「リュックは背中にしょっちゃダメ。危険。」

と、言葉が通じなくてもそれは解り、リュックをお腹の方へ回しました。

 

 繁華街に着き、スポーツ店に行きました。

買いたいと思っていたメーカーはありましたが、置いてある品はくすんだ単色の地味な物ばかり。

生地も洗濯したらシワだらけになってしまいそうな物なんです。

もっとおしゃれな物を期待していた私はがっかり。

「特に欲しいものは見つからないので、もう帰ってもいい。」

と言いたいのですが、上手く伝わりません。

 

 帰るのかと思っていたら、電車を乗り継いで別のお店に来てしまいました。

しかしここも同じような品揃えです。

 

 さぁ、今度こそ帰るぞ、と思ったら、また別のお店に連れて行ってくれます。

私は、みんなの買い物に付き合って、欲しいものがあったら買おう、くらいの気持ちだったのですが、誰ひとり買い物しない。

みんな、私の買い物に付き合ってくれているのだ。

あぁ、こりゃ帰れない。

私もみんなも、疲れ切ってしまいました。

いくら言っても上手く伝わっていない様子。

そうだ、何か買えばいいんだ!

と気づき、運動靴を1足買いました。

みんな嬉しそう♪

めでたく無事帰ってくることができました。

 

 それにしても、チームメートの優しさには感動しました。

アルゼンチンのいろいろなお店を見てみたかったけど、行ったのはスポーツ店のみ。

それも何軒も。

言葉が通じないって大変です。

 

 その晩は、練習にも買い物にも、いつも付き合ってくれたカリーナの家に泊まりました。

何故かチームメートも大勢集まっていました。

ワイワイ騒いで、いつ、この人たちは帰るのかしら?と思っていましたが、一向に帰る気配がありません。

皆ここに泊まれるのかしら?

 

 すると、信じられないことに、大きめのベッドを2つくっつけた所に、10人程がギュウギュウに横になったのです。(マ、マジか…日本だったら床に雑魚寝出来るのに…)

隣と重なり合うくらいなんです。

全く身動き取れません。

あまりにおかしくって、皆クスクスクスクス笑いっぱなしの夜でした。

寝られる訳がない(笑)

 

 

 最終日は対外試合でした。

私もFWでフル出場。

結果は圧勝。私3点くらい決めたかな?

アマーリアとの特訓の成果か、左足で決めたシュートもありました。

 

 そしてとうとう皆とお別れです。

チームメート全員が空港まで見送りに来てくれました。

 

 もうテレビカメラは付いていません。

カメラが付いていないのって快適♪解放感?ホッとします。

1週間密着って、気が抜ける時がなくって本当に疲れます。

だって、トイレ入って

「あ、マイク外すの忘れちゃったぁっ」

なんて事もあり(笑)

音だって全部拾われちゃうんだから…怖い怖い。

 

 空港では、皆次から次へとプレゼントを渡してくれます。

カリーナなんか、ちょっとこっちに来て、と手招きして、わざわざ物陰へ誘います。

皆から見えないところへ来てから、嬉しそうに手紙を手渡されました。

封筒の中を開けようとすると、

「ノーノー」

と今はダメ、後で見ろって言うんです。

どうせ見たところで何を書いてあるか読めないのにね(笑)

 

 アルゼンチンの人達は貧しいと聞いていたのに、ボカジュニアーズの新品のユニフォームや、わざわざ買ったんだろうと思われる素敵な物をプレゼントしてくれる人もいました。

 シャニーニャというひとりだけ小学生くらいの女の子がいました。

その子は1本のビデオテープをくれました。

日本とフォーマットが違うので、そのままでは見る事が出来ません。

日本でも見られる様に変換して、何が映っているんだろうって見てみると、シャニーニャの練習風景(笑)

この頃から上手だったんだ。

シャニーニャとは後日談があります。

また後ほど。

 

 10代の若いアリーシアという子は、腰の高さにもなる大きなトロフィーを持ってきました。

さすがにこれは断ろうと思いました。

帰りもテレビカメラを持たされて、手荷物がいっぱい。

とても持って帰れません。

しかもその子が空手でもらったトロフィーだというのです。

そんな物、貰える訳がない。

アリーシアが

「カオリ」

と言って指差したところには『KAORI』とナイフで傷つけたような私の名前がすでに彫ってあるじゃないですか!

これはもう断れないでしょ。

「グラーシャス」

とお礼を言って受け取りました。

本当に、皆自分の一番大切なものを持ってきてくれたんだ。

 

 カリーナが涙を流しながら

「また戻って来てね」

と言い、皆も涙目でウンウンとうなずきます。

私は(うーん、アルゼンチンは遠すぎる…)

「みんなが日本に来てよ」

と言うと、みんなは悲しそうな目をして、

「私たちが行ける訳ない」

と言います。(私だって、そんな機会あるかなぁ?)と思いながらも、(いや、いつか、どうにかして戻ってこよう!)

覚悟を決めて

「シー(はい)」

と答えました。(未だに約束を果たせていないのが心残り…)

 

時計を見ながら、

「あと3分」

「もう行かなくちゃ」

皆が

「まだ3分居て」

というので、

「あと1分、あと30秒」

とギリギリまでハグしまくって、皆涙グショグショになって、別れを最後の1秒まで惜しみました。

泣くとは思っていなかった今回の撮影で、最後は泣きまくり。

一人泣きじゃくりながら空港の手荷物検査を通り抜け、アルゼンチンを後にしました。

帰りはまた大変でしたよ~。

大きな荷物を一人で抱え、長い長い旅路です。

 

 すれ違う人すれ違う人、

「コングラジュレーション(おめでとう)」

と声をかけてくれます。

「何のスポーツ?」

と聞かれ

「サッカー」

と軽く蹴るマネを加えて答えていましたが、抱えているトロフィーの上には空手をしている人形が乗っているのでした(笑)