岡山合宿の最終日に、プレーでも精神的にも文字通り中心だった木岡さんが、骨折で戦線離脱してしまった代表チーム。岡山で解散後、3日後福岡に集合です。

 

 私は移動時間がもったいなくて、母の実家、佐賀県唐津の祖母の家に滞在させてもらいました。

呼子で船に乗ったり、髪を切りに行ったり、映画観で『プリティウーマン』を観たりと、思いっ切り、3日間リフレッシュして過ごしました。

 

 1週間ほど練習した後、第8回アジアカップ、第一回ワールドカップのアジア予選が始まります。

第一戦は北朝鮮でした。

どんな大会も初戦が大事と言いますが、この試合にすべてがかかっていると言っても過言ではない、そんな試合でした。

 

 この日はあいにく土砂降りの雨。パスを繋ぐ日本にとっては不利な条件だったのかもしれません。

 メンバーはGKちゃー坊さん。DF右サイド本田さん、中央にあっけと加治さん、左サイドくろちゃん。中盤底に松田さん、前に2枚てるぼうとたまき、FWが右に水間、真ん中私、左に半田さんでした。

木岡さんの代わりにキャプテンマークをまいたのがあっけです。

 

 前半立ち上がり、日本チームは全員気合がすごく入って良い出だしでした。

グラウンドの状態もまだ良かったうちに、水間が相手GKと1対1になったり、半田さんがフリーでシュートを打ったり。結構チャンスがあったのです。

 グラウンド状態が悪くなってからは、ただ前に蹴りこんで走るだけのサッカーしかできなくなってしまいます。

蹴るのだって大変です。そのまま蹴っても1mも飛ばないから、すくってボールを浮かしてから蹴る。

フィジカルが北朝鮮の方が強い分、ずっと防戦一方、押し込まれてしまいます。

とにかくこの試合、日本のDF陣はすごかった。身体をはって、気迫で守ります。

「木岡さんをワールドカップに連れていく!」

強い思いがありました。

松葉づえの木岡さんがスタンドから応援してくれていました。

日本チームの白いユニフォームは泥で真っ黒になっていました。

耐えに耐えていた後半、チャンスが訪れます。

スペースに蹴りこまれたボールがコーナーキックに繋がります。

左サイド半田さんの蹴ったボールは弾丸ライナー。

この日ニアに走りこんだ水間をスルーし、ゴール中央にいた私のところへ。

相手と混戦の中、ボールは私の頭に当たった!

ゴール!!

ヤッター!

負け試合の様な内容でしたが、ワンチャンスをものにして強敵北朝鮮に勝利することができたのです。

 

 2試合目は香港に4-1で勝利。3試合目マレーシアに12-0、4試合目シンガポールに10-0。

そして迎えた5試合目の相手が台湾です。実力的に中国がズバ抜けていたので、あと2つの枠を日本、北朝鮮、台湾の3チームで争っていました。

 北朝鮮を破った日本は、台湾に勝って出場権を獲得したいところでした。

もちろん、試合はそう簡単ではありません。

中2日の試合を4試合戦ってきた後の5試合目、疲労もピークに達していました。

台湾のプレッシャーも強く、思うようにパスが回りません。

一進一退の攻防、どちらも決め手なく試合はPK戦にもつれこみました。

 

グラウンド脇に集まり、PKのキッカーがたもつさんから発表されます。

「1番まっちゃん」

「2番たまき」

「3番たかっぺ」

「4番長峯」

ん?

ながみね?

わたし?

わたし蹴るの~?

やめてよ~ダメだよ~

やめてよ~。

そりゃダメだよ~

 

「5番加治」

のたもつさんの声は私の耳にはもう届いていませんでした。

 

あー、どうしよう。

こんな場面で蹴るのって地獄だよ。

澤ちゃんはW杯決勝のPKを「私はムリです」って断ったらしいけど…

誰だって断れるものなら断りたい。

フツー断れないよ。

澤ちゃんだから許されたんだね。

 

私の頭の中には、明日の新聞の見出しが浮かんできました

『長峯がPKはずし、ワールドカップ出場逃す』

なんて。

 

足がガクガク震えてきちゃった。

これはダメなパターンでしょ。

到底、外すパターンだよね。

それで、私、自力で入れる事をあきらめちゃった。

「神様、仏様、アラーの神様お願いだから私にPKを決めさせて下さい。」

もう誰でもいいっ。すがれるものには全てすがった。

なんでもするから入れさせて~って蹴る直前まで祈っていました。※ 普段私なんの信仰も持ってはいません(笑)

 

 先行は台湾。1人目、相手が決めた後の松田さん、右に蹴って決めました!

1-1。

 2人目、相手が決めた後のたまき、右に蹴って決めました。

2-2。

3人目、相手が入れた後のたかっぺ、またもや右に蹴って決めました。

3-3。

いよいよ4人目、相手が入れて、私の番。

 この時の私は、とにかく神様がきめさせてくれると信じ切っていました。

おめでたいでしょ(笑)

右に蹴るか、左に蹴るか、右に蹴るならギリギリまで身体を開かずにインサイドキック。

左に蹴るならギリギリまでインサイドっぽく行って、インステップで蹴っていました。

少しでも強いキックの方が良いと思い、インステップで左に蹴ることを選択。

 蹴る直前にも「神様がいるから大丈夫」と自分に言い聞かせました。

 

 審判のホイッスルが鳴り、助走に入ります。なるべく右に蹴るとみせかけて左にキック!

ヤバイ!

キーパー、フェイントには全くかからず、右に山を張っていたのか、読みがドンピシャ!

ボールが飛んだ方へセービングするじゃありませんか!

もう、絶体絶命!

肝を冷やし、寿命が縮まった。

 

 でもこれが神の力なのでしょう(笑)

キーパーの手をすり抜け、ボールはゴールへ!

あー、良かった。

腰が抜ける感じ?

喜びよりもドッと安堵。

 

ありがとう神様。

ん?

仏様か?

アラーの神様か?

 とにかく、こんな私の願いを聞き入れてくれたのですから、なんて優しい神様たちなのかしら。

 

 5人目、相手はゴールキーパーが蹴り、ちゃー坊さんが見事に止めた!

すごい!!

 

 あとは加治さんが決めるだけ。

「かじさん決めて~」

全員で祈りました。

加治さんが右に蹴ったボールは、危なげなくゴールに吸い込まれ、

「ヤッター!」

みんな一斉に加治さんに向かって駆け寄りました。

私は涙でグチャグチャ。

その後、みんなでスタンドの木岡さんの元へ。

「木岡さ~ん!やったよ~」

「ふたば~、ワールドカップに間に合うように、ケガを早く治さんと~」

 

 

 こうして第1回ワールドカップの出場権を勝ち取る事が出来たのでした。

 

 書きたくないけど…まだもう1試合残ってました。

中国戦。

0-5で負け。

中国つよすぎる…。