読売ベレーザとの練習試合で骨折した翌日、一人で読売ランド近くの病院に再診を受けに行き、「大きい病院で診てもらった方がよい」と言われたので、その翌日には慈恵医大に行きました。

 慈恵医大では、いつも遠征に帯同していた河野先生に診てもらいます。どうも骨が斜めに折れてしまったらしく、そのままではズレて骨がくっついてしまう可能性があるので、骨を固定する手術が必要という事を言われました。いつ手術をするのかと思えば、今日これからすると言うんです。

「たまたま今日の午後、北品川病院が空いているから、このままその足でその病院に向かって」ですって!

「今日手術して、今日家に帰れるんですか?」

「1泊はすることになると思う。」

「着替えも何も持ってきていないんですけど…」

「おうちの人に持ってきてもらいなさい」ですって!!慌てて家に電話をしました。

 それから私は電車に乗って紹介された北品川病院に向かいました。

病院に着いて、診察の時、一番気になっていた事を聞きました。

「来週、大事なサッカーの大会があるのですが、出場できますか?」

 答えは…「それは無理だよ。」です。

 ガーン!とハンマーで頭を殴られたようなショックでした。ギブスをはめてしまうので、試合には出られないとの事でした。手の怪我なら、サッカーは出来るのでは?と期待を抱いていましたが、あっけなく打ち砕かれました。

 診察後は病室に案内されました。

 もうお昼をとっくに過ぎていたので、売店へ行ってパンとお茶を買って病室で食べていると、部屋に入ってきた看護士さんがいきなり「何をしているの!」と叫びました。突然の叱責に私もビクン。「何?何?」何を言われているのかわからなかったのですが、手術前には胃を空っぽにするために何も食べてはいけなかったのです。お茶もダメなんですって。そんなこと言ってくれなきゃわからないよ~(涙)。

それとも、試合に出られないショックで、先生の話は右の耳から左の耳に全て抜けてしまっていたのか…?とりあえず、1口2口食べてしまったパンとお茶をしまいました。

 

「これ、着替えておいてね。下はT字帯だけにしてね。」手術着を渡されたのですが、何の説明もせずに出て行ってしまいました。T字帯って知っていますか?私、この時初めて聞きました。着替えを開いてみると、ガウンみたいなのは羽織れば良いとわかるのですが、T字帯って、布にひもがついていて、Tの字の様な形になっています。どうやって身に着ければ良いのかさっぱり分かりません。

看護士さんが戻って来るまで、ああでもない、こうでもない、とT字帯と格闘していました。T字帯って、フンドシだったんですねぇ。フンドシだって、着けたことないから、どうやるかわからない。教えてもらってやっと着用できました。

 初めての手術ですから、何が何やら分からないことだらけ。話しかける人もいなくて、心細くって、どうなってしまうのかとても不安でした。

 

 手術室に歩いて移動して、手術台に横になります。

 仰向けになると、天井にはテレビの手術のシーンで見るような、たくさん電球のついた丸い照明があって、「あぁ、いよいよだと」まな板の上の鯉になった心境です。

 麻酔には全身麻酔と局所麻酔というのがあるのですが、この時は局所麻酔で、すごくすご~く痛い注射を脇のあたりに打たれました。そして、伸ばしている左手が見えないように肩のあたりにカーテンを引きます。意識もしっかりしているし、何をしているのか、だいたいは見当がつきます。それはかなり怖い事でした。

 手の甲を切って、「痛い?」と聞かれました。「痛い!」と答えると、「麻酔が効いてきて痛くなくなるから」と言われ、手術続行。鋭い痛みではないにしても、かなりの痛みは感じていて、ずっと耐えていました。(もうちょっと優しくできないもんかね~)全身が揺れるようなすごい振動なんです。

 そのうち気持ち悪く吐き気がしてきました。「ヤバい…どうしよう…ゲロしそう…」なかなか言えるタイミングがなかったのですが、看護士さんに「気持ちが悪くて、戻しそうなんですけど…」とやっと言う事が出来た時には、これで助けてもらえると思っていました。

「ちょっと待ってて」と言われ、てっきり痛み止めでも打ってもらって楽になれるかと思いきや、口元に洗面器を置かれただけだったのには…失望しました。

 辛い時間が続きましたが、何事にも終わりが来ます。

 

 病室に戻ると母が着替えを持って来てくれていました。まず「全国大会に出れないんだって」と伝えました。涙が止まらなくなりました。

母はすぐに帰って行ってしまいました。自宅から片道1時間半はかかったでしょう。突然の呼び出しに、よく来てくれたなぁ。きっと晩御飯のしたくもこれからしなくちゃならないだろうに…。あぁ、母親ってありがたいなぁと思いました。

病院のベッドに一人残され。今まで全国大会出場を目指して毎日練習してきたのに…3年ぶりにやっと出られると思ったのに…。あと1週間だったのに…。悔しさ、無念さで眠れない長い長い夜でした。