大会の会場になるベネチアのJESOLOイェゾロ(私たちはジェソロとその時呼んでいた)は、リド島とブラーノ島のちょうど真ん中にあります。飛行機からバス、船にも乗り継ぎ、たどり着いた記憶があります。

 水の都ベネチアのイメージとは違い、ロングビーチのある素敵なリゾート地でした。まさか、そんな所とは知らず…「水着を持ってくれば良かったぁ」とみんな悔やんでいましたよ。空気が乾燥しているためか、日本よりも景色がくっきりしていて、海の青、空の青が鮮やかです。ビーチ沿いにたくさんのホテルやバールと呼ばれるイタリアの喫茶店ぽい店や、オープンカフェが並び、水着姿の観光客も多くみられる賑やかな開放感のある街並みでした。

 日本チームもビーチからすぐ近くの小さなホテルに滞在しました。毎回の食事をとるホテル内のレストランにはウェイトレスさんが2人いて、2人とも金髪で若い、とびきりの美人でした。いつもニコニコしていて、すぐに皆と仲良くなりました。昼食にピザが出たことがありました。金髪お姉さんがニコニコしながら大きなお皿からはみ出すくらい大きなピザを運んできました。「オー!」原宿のピザ食べ放題にみんなで一緒に行ったこともあるくらい、ピザは大好き。当然小皿にシェアして食べるものだと思っていたら、次から次にピザが運ばれてきて、人数分のピザが来た。「ひとり1枚?!」あれは嬉しい驚きでしたねぇ。

 

 他のチームもそれぞれ近くのホテルに居るらしく、道を歩いているとどこかの国の女子サッカー選手に出会える感じでした。チームの移動はバスでしたが、偶然イタリアチームと便乗する事がありました。日本チームが乗っているバスにイタリアチームが後から乗車してきたのです。1年半前の西安での大会(第26話)で出会って以来の再会です。

 いつもピンクを着ていたベアはいなかったけど、ビニョット選手やジャコはいました。私と半田さんが座っている後の席に、ジャコが嬉しそうにオーだかアーだか言いなから乗り込んできました。私が持参したイタリア語会話の小冊子を使って、「お会いできて嬉しいです。」という文を指して見せると、お互い大笑い。今度は、ジャコが私の辞書を貸せという感じに手に取り、辞書をめくっています。まだかな、まだかなとしばらく待った後に見せられたのは、anche(~も)それからまた辞書をめくりだし、まだかな、まだかなと待つと、io(私)を指します。「わたしもお会いできて嬉しい」という意味だと分かって、またお互い大笑い。こんな感じでコミュニケーションをとっていたのです。

 

 

 バスを降りて、ちょっとイタリアチームの数人と日本チームの数人と一緒に散歩をしました。歩きながらお互いに自己紹介をします。まず、イタリアチームの人達が一人ずつ名前を言って、言ってくれた名前を私たちが確認する感じでリピートしていました。イタリアの人達が終わると、次は日本チームが一人ずつ名前を言っていきます。

「きおか」「キオーカ」「はんだ」「ハンダー」「やまだ」「ヤマーダ」「たかくら」「タカクーラ」「ながみね」「ン?」ながみねだけ、どうも聞き取れないらしく、みんなリピートできずに「ん?」となります。何度も繰り返してやっと「ナガミニィ」と言われた時にはみんな大笑い。ジャコが「ナガでいいんだよ」と言ってくれていました。しばらく日本チーム内で私の呼び名は「ナガミニィ」になりました(笑)

 ジャコが時計を指さして、どうも翌朝ここに来いと言っている。半信半疑で朝食前の指定された時間に半田さんと一緒に行ってみると、ジャコが仲間2人くらい連れて来ていました。毎朝時間を決めてビーチで落ち合い、ビーチを一緒に散歩しました。バールに寄って、コーヒーをおごってもらうこともありました。言葉が通じないのに理解しあえる事が、面白かったし、毎朝の散歩が楽しみで、嬉しくて仕方がなかったですね。

 

 この大会の参加チームは、イタリア、メキシコ、ブラジル、中国、日本の6チーム。予選リーグ、イタリア戦は、立ち上がりに立て続けに3点取られましたが、前半終了間際にゴール前に上がったボールを私がGKと競りあってこぼれたところを、てる坊が決め1点挙げました。後半2点止めを刺され1―5。ビニョット選手にはハットトリックを決められました。メキシコ戦では、立ち上がりに私がドリブルで持ち込み、GKも抜いてシュート。2点目は木岡さんのロングシュート。3点目はこぼれ球を私が押し込んで3―0で勝ち、準決勝に進出。準決勝のアメリカ戦、木岡さんのFKで1―0とリードして前半を終えましたが、後半3点取られて1―3で敗れ決勝進出はなりませんでした。3決中国戦は、私が相手の反則を誘い、PKを松田さんが決め、前半はリードしていましたが、またもや後半2点立て続けにヘディングを決められ、1―2で敗れ4位に終わりました。スタミナ不足と高いボールで攻められると弱い、そんな課題が浮き彫りになりました。

 

 そーそー、負けた試合の後、ロッカールームで落ち込んでいるところに、突然ベアが会いに来てくれたのです。ロッカールームの入口から顔を出して、「ナガ!」と呼んでいます。急いで会いにロッカールームの外に出ました。とっても嬉しいけれど、喜べる雰囲気でない。しかも辞書も手元にないので、コミュニケーションもとれない。早々に帰って行ってしまいました。ロッカールームに戻ると、てるぼうが「さっき来てたのベアじゃない?」と聞いてきました。「そうだけど、試合に負けた直後で私が落ち込んでいたから、すぐ帰っちゃった」2人で走って追いかけましたが、もう姿は見つかりませんでした。「いつまでもメソメソしてんじゃないわよ」と、てるぼうにおこられちゃった。本当、せっかくフィレンツェから会いに来てくれたのに、ベアには悪い事をしちゃったなぁ…。

 

 大会が終わって最終日は屋外でパーティーがありました。表彰式も行われ、イタリア優勝で、キャプテンだったビニョット選手が優勝カップを高々と掲げました。眩しい、かっこいい、憧れました。彼氏も同伴していたんですよ~。

 パーティーの最中も日本チームとイタリアチームはお互い行ったり来たり仲良く交流していました。パーティーも終わり、いよいよお別れの時には、悲しくて号泣してしまったほどです。もう2度と会えないかもしれないと思ったんですもの。