この頃、私はまたぎフェイントに夢中でした。またぎフェイントは中学生の頃からやっていましたが、最初の出会いはリベリーノです。リベリーノはブラジルの有名な選手ですが、日本の清水エスパルスで監督をした事でご存じの方も多いと思います。

 FC小平監督の永沢さんの家でよくサッカーのビデオを観させてもらっていました。ちょっと古い映像でしたが、ペレ、クライフ、リベリーノのプレーに「おー、すげぇ!」と衝撃を受けていたのです。

 当時、サッカー番組といえば土曜昼間に毎週かかさず観ていた『ダイヤモンドサッカー』だけ。サッカーの映像を観られる機会はとても少なかったのです。永沢さんの家でのビデオ観賞会は貴重でしたねぇ。

 リベリーノのフェイントはインサイドでボールを触るかと見せかけて、空振り。またいだ足のアウトサイドで逆に行きます。私はコーナー近辺で相手を背負っている時、バックパスをすると見せかけてリベリーノのフェイントを使い、ゴールラインギリギリを抜けていくのによく使っていました。

 

シザースは、アウトサイドで触ると見せかけて空振り。逆の足のアウトサイドで逆に行きます。逆の足も空ぶって2回3回またぐパターンもあり、よくカズ選手が使っています。

 これは同じ小学校卒業の1つ年下の男子が練習中にやっていたのを見て、練習中にその子を捕まえ、「今のどうやったの?」と聞いて無理やり教わりました(笑)

 

日産の木村和司選手や金田喜稔選手がよくやっていたまたぎフェイント、テレビで最初見た時は「なんだ?今の?」何をやったのか全くわからない。スロー再生で何回も繰り返し観て覚えました。

 アウトサイドで触ると見せかけるところまではシザースと一緒ですが、反対の足のインサイドで、またいだ方へ行きます。中村俊輔選手もよく使っていますよね。フェイントした方へ行くなんて…と思いますが、タイミングをちょっとずらすととてもよく抜けました。

 

 もうひとつ。これはだいぶ後、元男子日本代表の宮内さんが女子の代表コーチになる前、合宿に遊びに来てくれた時に教わった技。

 話はちょっと脱線しますが、私が小学校の時、サッカーの先生から1979年日本で開催された「ワールドユース世界大会」のパンフレットをいただいた。これも私の宝物の1つ。若きマラドーナが大活躍した大会です。そのパンフレットを見て、「これ観に行きたい!!」と思いましたが、すでに大会は終わった後でした。映像を観る事は出来なかったけど、パンフレットで想像を膨らませました。隅から隅まで、何度も何度も繰り返し見ているためかなりボロボロになってしまっています(もちろん今でも大切に持っています)。

 そのパンフレットに載っているのが日本ワールドユースの一員だった宮内さんなんです。なんであの宮内さんが女子の合宿に来てくれるの?私の興奮ぶりが想像できるでしょ?

 ずーっとチャンスを伺っていて、いまだ!と話しかけたんです。「何か技を教えてください!」そして教えてもらった技は、右足の裏でボールの上をなでるように左に動かす。ボールが動いているうちに左足のインサイドでボールをまたぐ。これだけ。簡単だけどよく抜ける。これはスピードが落ちてしまった時にとても有効でした。

 

 でもこのフェイントを教わったのはだいぶ後。高校生の頃は、他にもまたぎフェイントがないかなぁ…。自分でオリジナルのフェイントを編み出せないかなぁ…などと思うようになってきました。

 そう思い出したらもう、頭の中はその事でいっぱい。学校への行き帰り。授業中。練習の前後、ご飯を食べながら、お風呂に入りながら。もうずっとずっと新しいフェイントが出来ないか考え続けていました。

 そして、頭の中で考えたのがコレ…右足のインサイドでボールをまたぐ。またいだ瞬間、相手は騙されて動くので股が開くのではないだろうか?ボールの後ろにある左足で股の間を狙って押し出せば、見事股抜き!になるのではなかろうか?

 

 そうひらめいたらジッとしていられません。家の前の道路で早速実際にボールを使って動いてみました。左足は最初インステップに当ててやっていましたが、インサイドの方がいいかも。とかいろいろ試してみました。

 何日も練習して、どうにか敵がいなければスムーズに動けるようになっていました。さぁ、次は相手が本当に抜けるかやってみなくてはなりません。練習中に1対1があったらやってみようと思っていました。ところが私は負けず嫌い。たとえ練習でも負けるのはイヤなんです。そんな今までやったこともないフェイントを使ったら失敗する可能性の方が高いでしょ。試してみたいけど、なかなかやれない。でも、試してみたい欲求が負けず嫌いを上回りました。何度も試して、何度も負けた。でも、やる度に少しずつ修正することが出来て、とうとう頭で考えた通りに相手の股を抜くことが出来た時。なんとも言えない達成感!!嬉しかったなぁ。

 

 『失敗しなくては新しい物は生み出せない』というのがこの時学んだ事です。試合でも使ったことがあるし、イタリアの選手もこのフェイントで抜いたことがあるんですよ~♪

 

 ところが、それから何年も経って1994年5月の男子のキリンカップ。日本代表にオランダ帰りの小倉隆史選手が彗星のごとく現れた、と思ったらなんと、私が考え出したフェイントを使って相手の股を見事に抜いたじゃありませんか!!あれには驚いた。まぁ、私ごときが考え付く事、他にも同じことを考える人がいるのは当然かぁ…。

 でもきっと、考え出したのは私が先だったに違いない。と秘かに思っているのです(笑)