17.[ω-1]【詳細情報】「日本人の祖先 その1」 | 司法書士試験受験生の奮闘記&世の快刀乱麻を断つの巻

17.[ω-1]【詳細情報】「日本人の祖先 その1」

注意:こちらを最初に見た方は、「日本人の祖先 その1」を先にご覧になってから読み進めることを強くおすすめします。

「日本人の祖先 その1」→ http://ameblo.jp/junya1981/entry-10420012733.html


【詳細情報】

ミトコンドリアDNA分析による系統樹

以下、ミトコンドリアDNAによる人類集団の系統分析を系統樹にしたものを参考に記す。


人類集団の遺伝的系統-1

$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-多型マイクロサテライトによる人類の進化系統樹
多型マイクロサテライトによる人類の進化系統樹
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この系統樹図によれば、最初にアフリカ人とその他の集団が分岐し、次にヨーロッパ人とその他の集団が分岐したこと、その次に東・東南アジア人とオーストラリア人が分岐し、最後の大きな分岐として東・東南アジア人とアメリカ先住民が分岐したということである。この系統樹で見られた主要な特徴は、従来のタンパク質多型や最近の核DNAの多型によって明らかにされた人類集団間の系統関係と大筋において一致する。


人類集団の遺伝的系統-2

$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-近隣結合法による遺伝的近縁図
近隣結合法による遺伝的近縁図
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この図によれば、アフリカン(ネグロイド)からコーカソイド(白人)が分岐し、コーカソイドからオセアニアン(オーストラロイド)・東アジア人(モンゴロイド)が分岐、そして東アジア人からネイティブアメリカ人が分岐した。この人類集団の近縁関係は上記の遺伝的系統樹と現在の人類集団の地理的配置に一致する。


塩基多様度のネット値(DA)分析による系統関係

ミトコンドリアDNAの塩基配列の多様性の度合いを比較分析することによっても系統関係を計測できる。塩基多様度のネット値(DA)分析によって求められた集団間の遺伝距離をもとにした系統樹では、まずアフリカ人より西ユーラシア人(ヨーロッパ人)と東ユーラシア人(東アジア人)とが分岐し、次いで東ユーラシア人からアメリカ先住民が分岐し、次いでアイヌ人と東アジア人クラスターが分岐、次いで中国人と東アジア人が分岐、次いで琉球人と朝鮮人・本土日本人とが分岐する。
 【参考書籍】
DNA人類進化学 (岩波科学ライブラリー (52))/宝来 聡

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Y染色体による系統分析

「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-Y染色体系統図
Y染色体系統図。日本人は他の東アジア人には見られないD系統を多く保有する事が分かる。
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$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-Y染色体亜型の分布
Y染色体亜型の分布
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母系をたどるミトコンドリアDNAに対して、父系をたどるY染色体は長期間の追跡に適しており、1990年代後半から研究が急速に進展した。


ヒトのY染色体のDNA型はAからRの18系統があり、これらはアフリカ限定のA系統とB系統、出アフリカのC系統、DE系統、FR系統に分けられる。

$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-Y染色体の亜類分類
Y染色体の亜類分類
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$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-Y染色体の亜類分類(詳細)結合
Y染色体の亜類分類(詳細)
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崎谷満の分析によりY染色体のDNA型の比率を示す。複数の研究成果をまとめたものなので、合計が100%にならない。空欄は資料なしで、必ずしも0%の意味ではない。
$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-D2(YAP、D55)の分布
D2(YAP、D55)の分布(左)と日本人のY染色体DNAの構成(%)(右)
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【参考書籍】

DNAが解き明かす日本人の系譜/崎谷 満

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DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?/崎谷 満

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D系統分析からのシナリオ

上記の分析から日本人はD2系統とO2b系統を中心としている事が判明した。D系統はYAP型(YAPハプロタイプ)ともいわれ、アジア人種よりも地中海沿岸や中東に広く分布するE系統の仲間であり、Y染色体の中でも非常に古い系統である。

この系統はアイヌ人・本土日本人・沖縄人の日本3集団に固有に見られるタイプで、朝鮮半島や中国人にはほとんど見られない事も判明した。これは縄文人の血を色濃く残すとされるアイヌ人88%に見られる事から、D系統は縄文人(古モンゴロイド)特有の形質だとされる。

アリゾナ大学のマイケル・F・ハマー (Michael F. Hammer) のY染色体 分析でもYAPハプロタイプ(D系統)が扱われ、さらにチベット人も沖縄人同様50%の頻度でこのYAPハプロタイプを持っていることを根拠に、縄文人の祖先は約5万年前に中央アジアにいた集団が東進を続けた結果、約3万年前に北方ルートで北海道に到着したとするシナリオを提出した。

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(9) Y染色体多型からみた日本人の成立
Michael F. Hammer1, 宝来 聰(1アリゾナ大学)
http://www.nig.ac.jp/labs/AnnualRp/nenpo-95j/E/E-a.html#9

 Y染色体上の非組み換え領域にある4つの遺伝子座に関して,日本人3集団(沖縄,静岡,青森)と台湾の中国人で遺伝子型を決定した.Y染色体上のAlu 配列の挿入多型であるYAP因子は,日本人では 42%に存在したが,中国人には見られなかった.このことによりYAP因子がアジアにおいて不規則な分布をしていることが明らかとなった.Y染色体上の4つの遺伝子座で得られたデータより,集団間の遺伝的距離の推定,Y染色体のハプロタイプの構築により集団内の遺伝的多様度および各ハプロタイプ間の多様度を検討した.Y染色体ハプロタイプの進化学的解析により,YAP (DYS287) 座とDXYS5Y座の多型はただ1回の起源を持つのに対し,DYS1座の多型およびDYS19座におけるマイクロサテライトの対立遺伝子群は1回以上の起源を持つことが示唆された.遺伝的距離の解析により,沖縄の人は本土の日本人とは遺伝的に離れていることが明らかとなった.このことは,現代日本人が縄文人および韓国あるいは中国本土からの移入民である弥生人からの異なる遺伝的寄与を受けた結果であり,また沖縄の人は弥生人とはほとんど混合することはなかった,という仮説を支持する.YAP(+)染色体は縄文人によりもたらされ,YAP(-)染色体の流入は弥生人の移住によりもたらされたと考えられる.



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現在世界でD系統は極めて稀な系統になっており、日本人が最大集積地点としてその希少な血を高頻度で受け継いでいる。それを最大とし、その他では遠く西に離れたチベット人等に存続するだけである。これは後に両者を分ける広大な地域に、アジア系O系統が広く流入し、島国の日本や山岳のチベットにのみD系統が残ったと考えられている。奇しくも大陸で駆逐されたD系統は、日本人として現在まで長く繁栄する事になった。

なお東西に引き離されたD系統は、長い年月により東(日本)がD2、西(チベット等)がD1、D3となった。D2系統はアイヌ人・本土日本人・沖縄人の日本人集団固有であり、他地域には見られない。


崎谷満のシナリオ

以下、前掲崎谷の分析に依拠して説明する。最初に日本列島に到達し、後期旧石器時代を担ったのはシベリアの狩猟民であるC3系統である(2-3万年前)。バイカル湖周辺からアムール川流域およびサハリンを経由して、最終氷期の海面低下により地続きとなっていた北海道に達した。また、一部はさらに南下し、北部九州に達した。細石刃石器を用い、ナウマンゾウを狩っていたと考えられる。

その後、1万数千年前に、大陸からD2系統が入ってきた。これが縄文人である。D2は日本だけで見られる系統であり、アイヌ88%、沖縄県56%、本州42-56%で、朝鮮半島では0%である。近縁のD1,D3がチベットで見られるD系統は華北で東西に分かれ、東がD2、西がD1,D3になったと考えられる。

同じ頃、経路は不明であるが、インドに起源を持つC1系統が南方から入ってきた。貝文土器を用い、縄文人とは異なる文化を南九州に築いた

O1系統は台湾が起源であり、オーストロネシア語族との関連が想定されている。台湾と近いにも関わらず、日本列島ではO1はごく少数に過ぎない。

O2a/O2b系統は長江文明の担い手だと考えられている。O2b系統が移動を開始したのは2800年前である。長江文明の衰退に伴い、O2aおよび一部のO2bは南下し、百越と呼ばれた。残りのO2bは北上し、山東省、朝鮮半島、日本列島に達したと考えられる※1。長江文明の稲作を持ち込んだと考えられる※2。

※1・・・水稲の伝播とあわせて考えると、稲作の伝播が従来の半島経由なら北上した後日本に到達、新説の場合は大陸からの直接ルート。
※2・・・O2a/O2bは現在のタイ・ベトナムに住む人たちに当たり、長江文明を築いた現在のタイ系などに当たる人々が黄河文明の担い手であった漢民族(03系統)に駆逐され、南方・北方に散ったということ。日本人とタイ人が遠縁ともいえ、この時代は日本の弥生時代に相当する。


O3系統は黄河中上流を起源とし、漢民族に典型的に見られる他、周辺の諸民族にも広く見られる。歴史的にO3は一貫して拡大しており、このためにD系統およびO2系統が駆逐され、D系統は島国の日本や山岳のチベットにのみ残ったと考えられる。



一方、ミトコンドリアのハプログループに注目すると、日本には世界で(主に)日本人にしか見られないM7aというグループがある[42]。これは台湾付近で発生したと考えられ、沖縄・アイヌに多く本州で少ないという特徴的な分布をしている(Mグループについて、M7aは台湾沖縄から朝鮮半島中国北東部への北上。M7b,cは南方及び中国沿岸へ)。


$「彼ら」は神をも超える存在なのか、それとも悪魔なのか-一般的なY染色体DNAの移動経路
一般的なY染色体DNAの移動経路
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モンゴル各地域集団と日本人集団との遺伝的差異の比較研究

研究課題番号:17590578

http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/17590578


研究概要(最新報告)

平成17年8月にモンゴルウランバートルオラーゴン及びダランザドガドにおいて、平成18年6月にはウンドゥクハーン及びチョイバルサンにおいて、健常モンゴル人各200名から、インフォームド・コンセントを取り、口腔内粘膜を採取した。計1000名の粘膜細胞試料からDNAを抽出・定量した。 AmpF1STR Identifilerキットを用いて、15STRローカスの型判定を行った。また、ウランバートル97名、オラーゴン95名、ダランザドガド100名、チョイバルサン117名、ウンドゥクハーン84名の計493名の男性のDNA試料については、AmpF1STR Yfilerキットを用いて、17Y-STRローカスの型判定を行った。各地域集団の各STRローカスについて、アレル頻度を算出し、バーディ・ワインベルグ平衡の検定を3つの検定方法により行ったところ、3つのテスト全てで乖離が見られたローカスはどの地域集団にもなかったこれらの集団と日本人及び東・東南アジアの近隣諸国のヒト集団におけるデータベースを用いて、遺伝距離DAに基づくNJ法による系統樹、並びに多次元分析により、遺伝的関係を調べた結果、モンゴル人五地域集団は、一つのヒト集団群を形成し、その分布は地理的分布と非常によく一致していた。また、Y-STRsのハプロタイプ解析の結果から、日本人のハプロタイプの中に、日本人独自のクラスターを形成するハプロタイプ群が2つ観察された。本研究により、モンゴルの各地域ヒト集団と日本人集団との遺伝的差異は、モンゴル周辺のヒト集団に比較して小さくはなく、これまで提唱されていた「日本人の起源」がモンゴルのブリヤート族であるという一つの仮説に対して、そうではない可能性もありえることが示唆された。これらの結果の一部は、日本DNA多型学会第15回学術集会(平成18年11月:福山)において発表された。