【400文字作文】車窓にて

「列車」と「電車」の違いなんてわからない
し、知りたくもないが、「列車」に乗ったの
は、緑や青を眺めながら自分をどこかへ運ん
でもらいたい。と思ったからだ。
だが、車窓から見える畑の緑、空の青、時
折現れる遮断機の赤に見飽きた私は、黒い電
線を目で追っていた。
真っ黒な電線を目で追いながら私は、葉脈
が好きなの、と言った女を思い出した。
列車はそれまで子守唄のように優しく揺れ
ていたが、橋の上を通過しようとする時、ま
るでベェトォベンのように大袈裟にわめき、
揺れたが、私の頭の中から「葉脈」という言
葉と漢字は離れなかった。
私は橋を渡りながら、自分の手の甲に這う
血管を眺め、次の駅で降りようと決めた。
気付いたのだ。緑や青を眺めていたいと思
ったのは、それが思い出の象徴だと。
私は黒い電線を見た。青空にまっすぐ引か
れた黒い電線は、快楽の象徴のようだった。