【400文字作文】回 鍋 人
妻の指示で、朝から宝くじ売り場の長い列
に並んでいる。出勤時間と同じ時間に家を出
た私はファストフード店でホコリのような朝
食を食べ本を読みながら、街に人が増えるの
を待った。人が少ない都会の街は、人が多い
美術館と同じくらい落ち着かない。
妻は宝くじを買うのが目的なのか、当てる
のが目的なのか。そんなことを考えながら右
側にある中華屋を見てみると小さな厨房で、
肩幅の広い男が中華鍋を振っているのが見え
た。獲物を待つ動物みたいに油が沸騰する音
がし、そこに何かが放たれ油がその何かに襲
いかかる音が聞こえた。厨房の男は窮屈そう
に脇を締め、中華鍋を回しながら何度か上下
に振り、今度は油が逃げ惑うような情けない
音がした。そして甜麵醬の香りがその厨房か
ら溢れてきた。
私は何故この列に並んでいるのかわからな
くなった。甜麵醬の香りは私を誘惑していた
が、私は列を離れることができなかった。