9月から始まったイギリスでの修士生活は、12月第二週にまるまる5日間かけて行われたコンサルタントプロジェクトを以て1学期を終了し、3週間のクリスマス休暇に入った。欧米のMBAコースでは実在する企業を相手にコンサルティングを行うことがよくあるが、1学期の集大成として行われたこのプロジェクトは、戦略、マーケティング、そしてファイナンスの成績に関わる、学生にとっては重要なものであった。
一日の平均睡眠時間が3時間程度だった過酷な5日間が終了して、本来であれば数日ベッドで寝転ぶ時間が欲しかったところだが、実際には息つく暇もなく旅の準備をして、60時間後にはヒースロー行きのバスに乗っていた。
今回の旅の目的地にグリーンランドを選んだ目的は、大きく分けて3つである。
1、 宿題に集中すること。
2、 オーロラを見ること。
3、 後述。
冬休みとはいえ、年始提出の課題がたくさん出されている。しかし旅にも出たい。そうなった時、移動が続く旅ではなく、どこかにとどまってゆっくりできる旅が良かった。
また、せっかく欧州に居られる貴重な期間なのだから、かねてから興味があったオーロラを見てみたい。日本からオーロラを観測できる場所に行くのとは、値段もかかる時間もまるで違う。
自ずと行先は北欧に絞られたが、今度はその中での候補地選定が迷いの多いものになった。まず有名なノルウェー、スウェーデン、フィンランドは知識が乏しく、調査に時間を多く割かないといけなかった。しかし、学期中にはそんな余裕はまるでない。次はアイスランド。こちらは一度行ったことがあるので勝手はわかっているが、12月のアイスランドは天候が悪い日があまりに多く、オーロラを見られる確率が低い。
いや、アイスランドに限らず、そもそも北欧はどこも天気が悪いのである。これはオーロラを目的とした旅行者にはよく知られた話だが、オーロラだけに目的を絞るのであれば、カナダのイエローナイフや、アラスカのアンカレッジなどの方が見られる確率が高くて人気である。それらの場所と比較しての北欧のメリットは、気温が氷点下を少し下回る程度の暖かさであるということ、曇天でも他に観光できる場所があるということである(尤も、そんな北欧の温暖な気候をもたらしている暖流こそが、曇天をもたらす原因となっているのだが)。
北欧は魅力的ではある。ただし、こと短期滞在者がオーロラを狙うとなると、北欧はやはり候補としての順位を下げざるを得なかった。
そんな中浮かび上がってきた候補地がグリーンランドのカンゲルルススアークである。グリーンランドのハブ空港が所在するこの街は、年間の300日程度が晴天であると言われている。1900年代から冷戦の終わりにかけてアメリカの基地が設置されていたのは、この高い晴天率があってのことであった。ここであれば、5泊もいれば晴れてくれる日はあるだろう。
街の作りも良い。宿から少し歩けば明りの少ないところに出られる。宿は空港直結のホテルか、徒歩1分のホステルがあり、この二つのいずれかであれば極寒の中ほとんど移動しなくても良い。これらの宿から徒歩2分の場所にはスーパーマーケットもあり便利だ。まさにゆっくり滞在しながら課題をやりつつ、夜に外に出てオーロラを待つにはもってこいの場所なのであった。
ただし、-30℃を下回る過酷な寒さ、そして有料のインターネットには対策が必要だった。航空券と宿を予約した後は、防寒着の準備と撮影機材の寒冷地対策、そしてインターネットで課題に必要な資料をラップトップに落としておく、という作業を進めることになった。
続きます。