アンティークショップ~紫の石~
俺の心配とは裏腹に翌日には、
「翔ちゃん。
昨日のピアノの件、カズくんから許可が出たから、ピアノが届き次第演奏会をしてねっ!!」
満面の笑みを浮かべたまーくんからそう言われたのだった。
その横で潤もニコニコと微笑みながら、
「僕もしょおさんのピアノの演奏会、楽しみですっ!!」
なんて言うから、
「ふはっ。
潤は週末もウチの実家で聞いているじゃないか。」
と笑いながら言うと潤は、
「それとこれとは別です。
しょおさんが奏でるピアノの音色なら、僕は毎日でも聞いていたいんですから。」
と真剣な顔をしてそう言ってきたのだった。
「じゃあ、そのうちピアノを置けるような家に引っ越しをするか。」
と冗談のつもりでそう言ったのだが…。
「「えっ!?」」
と、期待のこもったキラキラと輝く紫色の瞳と黒目がちな瞳が俺をジッと見つめてきて、
「よかったね、ジュンちゃんっ!!
そのうち毎日翔ちゃんの生演奏が聞けるんだねっ!!」
とニコニコとしながら言うまーくんと、
「はいっ!!
僕、嬉しいですっ!!」
と背中の白くて小さな羽根パタパタと羽ばたかせながらほんの少し浮いて、両手を広げて喜ぶ潤の姿があり…。
期待に満ちた2人のキラキラとした瞳を見てしまうと、もう…この状況は…。
冗談とは言えねーよな…。
と軽く言った言葉を後悔しつつ、
「えっと…あの…。
あくまでもそういう予定であって、決定ではないからな…。」
と苦し紛れにそう言うと、
「それでも大丈夫ですっ!!」
と潤は右手の親指を立ててニッコリと微笑んでそう言うので…。
このままだとマズイな…。
と思い、話題を変える為に、
「しかしカズがピアノの事をよく許可したよな。」
と言うと、
「カズくんも翔ちゃんのピアノの演奏を聞いてみたかったんだってっ!!」
とまーくんは嬉しそうにそう言ったのだった。
「カズくんもきっと気に入ってくれますよっ!!」
と潤がそう言うとまーくんは、
「あー。
早く翔ちゃんの生演奏聞きたいなー。
ねー、潤ちゃん。」
と潤にそう言うと潤はニコニコとしながら、
「はいっ!!
楽しみですっ!!」
と嬉しそうにそう答えたのだった。
アンティークショップ 〜紫の石〜 ㊺
週末になり…。
俺の実家へと行きピアノを奏でていると、その曲に合わせて潤がいつものように指揮を楽しそうに振り始めたのだった。
その潤の指揮に合わせてピアノを奏でると、潤の背中には隠していた筈の白くて小さな羽根ピョコッと姿を表したのだった。
最近分かった事なのだが、潤の背中に白くて小さな羽根が現れるという事は、潤が俺の演奏を充分楽しんでくれているという事であってそんな潤を可愛く思い、
「ふはっ。」
と思わず笑いながら演奏を続けたのだった。
潤の指揮が終わるのと同時に、
♩♪♫♪♩♪♫♪♩♪♫♪♩♪♫♪♩♪♫♪♩…。
とピアノを奏でる手を止めるとすかさず、
パチパチパチパチパチパチパチッ!!
と拍手が聞こえたのだった。
紫色の綺麗な瞳をキラキラとさせながら手を叩きながら潤が、
「しょおさんっ!!
今日の演奏も素敵でしたっ!!」
と頬を赤らめて興奮気味にそう言ってきたのだった。
「ふはっ!!
潤、褒めてくれてありがとう。」
と言い潤の頭を撫でてやると、潤はギュッと俺に抱きついてきたのだった。
そんな潤を愛おしく思いながら俺も潤をギュッと抱きしめ返すと潤が、
「あっ。」
と声を上げたかと思うと俺の腕の中からするりと抜け出すと、背中の白くて小さな羽根をパタパタと羽ばたかせながらトテテテテテテテッと窓へと向かったのだった。
何があったのかと思い、
「潤、どうした?」
と聞くと潤は窓の外を眺めながら、
「しょおさんのパパさんとママさんのお家の近くにもあるんですね。」
と嬉しそうな声でそう言ってきたのだった。
一体何があるのだろうか?
と思い、
「一体、何があるんだい?」
と潤に問うと潤は窓の外を指差し、
「大きな木があるんです。」
と楽しそうに目を細めながらそう言ったのだった。
大きな木がどうしたのだろうか?
何か特別な木なのかな?
と思い、
「大きな木がどうかしたのかい?」
と聞くと、潤は俺の方を振り向いたかと思うと背中の白くて小さな羽根をパタパタパタパタパタッと羽ばたかせるとふわりと浮き、
「あのね、しょおさんのお家の近くにも大きな木があって…。
僕、この羽根で飛ぶ事が出来るのがこの間分かったから、いつかしょおさんと一緒に飛んで大きな木の上に登ってみたいと思っているんです。」
と言うとそのまま、ふわふわと浮いて俺の元へとやって来たのだった。
そうして、
「ほら、こんな風に。」
と言うのと同時に、
「ね、しょおさん。」
と言いながら俺にギュッと抱きついてきたかと思うと潤はそのまま、背中の白くて小さな羽根を、
パタパタパタパタパタパタッ…
と力一杯羽ばたかせたのだった。
それと同時に床についていた俺の足元が床から浮いた感覚があり、視界も少しずつ上へ上へと移動していたのだった。
はあっ!?
どういう事っ!?
もしかして…浮いているっ!?
そう、潤に抱きかかえられている状態で俺は浮いていたのだった。
部屋の中をフワフワと浮きながら移動する潤は、
「やったーっ!!
成功ですっ!!
これでしょおさんと一緒に、お外を飛ぶ事が出来ますねっ!!」
と潤は嬉しそうにそう言うと、
「しょおさん。
あの大きな木の所まで行ってみましょうっ!!」
と、とんでもない事を言い出したのだった。
ちょっと待てっ!!
このまま潤と一緒に飛んで大きな木の上に行くだとっ!?
ってか…。
それは絶対に無理だな…。
なぜなら…。
俺は高い所が苦手だからだ…。
慌てて潤に、
「潤っ!!
また今度にしようっ!!
そうだ、そうしょうっ!!」
と言ったのだが、潤は紫色の綺麗な瞳をキラキラと輝かせて俺の顔を覗き込み込むと、
「しょおさん。
今日はお天気もいいので、きっと木の上から眺める景色も綺麗ですよっ!!
せっかくなので、行きましょうっ!!」
と言いながらフワフワと浮いて窓へと移動すると、
カラカラカラッ
と窓を開けると窓から外へと飛び立ったのだった。
「うわっ!!」
と目を瞑り思わず声を上げてしまうと、
「しょおさん、大丈夫ですか?」
と心配そうに俺を抱きしめながら潤はそう言ったのだった。
2階の窓から飛び立った潤は、背中の白くて小さな羽根を一生懸命に、
パタパタパタパタパタパタッ…
と羽ばたかせている音が聞こえ、ふわりと風を感じながらフワフワと宙を浮いている感触があり…。
そっと薄目を開けて潤の向こう側に見える景色を見つめると、少しずつ空へ空へと向かっていたのだった。
嘘だろうっ!?
と思い、足元を見ると…。
足元を支える地面はなく、足はブラブラとぶら下がっている状態だったのだ。
マジでっ!?
う、浮いているっ!?
実家の庭が少しずつ少しずつ遠のいていき小さくなっていくのを呆然と眺めていたのだった。
「しょおさん。
空の上は気持ちいいですね。」
と楽しそうに言う潤の声で我に返り、
「ちょっ!!
潤っ!!
無理、無理、無理、無理、無理、無理っ!!
無理だってっ!!」
と叫ぶと、
「しょおさん。
無理じゃないですよ。
僕、絶対に手を離さないししょおさんを落っことす事は無いから大丈夫ですよっ!!」
と潤はそう答えるのだが…。
「潤っ!!
そうじゃなくてっ!!」
と言っても潤はクスクスと笑いながら、
「しょおさん、大袈裟ですね。
大丈夫ですよ。」
と俺の背中を抱きしめながらそう言うのだが、もうこれ以上は限界で…。
「潤っ!!
頼むから戻ってくれっ!!
俺っ、高い所が苦手なんだよっ!!」
俺を抱きかかえている潤にギューーーーッ!!と抱きつきながら目を思いっきり瞑ると、潤にそう訴えたのだった。
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