空の色











































一通り智くんの作品を見終わった潤が、智くんの元へと駆け寄り、


「智、ありがとう。
高校時代も思っていたけど、やっぱり智の絵は凄いよね。
俺、智の絵って大好きだよ。
あとね、あそこにあった虹の絵とか色使いが綺麗でそれでいて…。」



と大きな瞳をキラキラとさせて、智くんに絵の感想を伝えていると、



「潤…。
上でゆっくり聞かせて貰ってもいいか?」


と智くんがそう言いながら潤の持っている袋を指差すと、


「それ、酒だろう?
いい絵が描けたから、早く一杯やりたいんだよな。」


と言いながら、手にコップを持って酒を呑む仕草をした。



そんな智くんを見て潤は「ふふふ、」と微笑むと、

「そうだね。
一杯やりますか?」


と言いながら潤は酒の入った袋を右手で持ち上げながら、そう言った。






「さてと、移動するか。
こっちだ。」


と智くんはふんわり笑いながらそう言うと、玄関の近くにあった2階へと続く階段へと俺達を案内した。







2階に上がる階段の壁には丸や三角、四角など大小色々な形をしたガラスをはめ込んだ窓があり、そこから見える空は夜の色に染まっていて細い三日月がほんのりと微笑んで見え、



「空を眺めながら2階に上がれるなんて、なんだか素敵だね。」


と潤は窓の外を楽しそうに眺めながらそう言った。













空の色  ⑫  last
























2階に上がると扉が2つあり、その1つを智くんがガチャッと開けて、



「こっちだ。」


と言い俺と潤を招き入れてくれた。





部屋の中は入ってすぐにリビングがあり、大きなテレビが置かれていた。

左手側には畳の部屋、そして奥にはキッチンとダイニングがあり、智くんはダイニングまでスタスタと歩いてダイニングの中央に置かれているテーブルまで歩いて行くと、




「まあ、適当に座ってくれよ。」


とふんわりと笑うとそう言うと、キッチンへと向かった。





「智、一緒に準備をするよ。
しょおくんは座って待っててよ。」


と言うと、潤はスーパーで買った惣菜やアルコール類の入った袋を持ってキッチンに向かった。




潤に言われた通り俺は座って待つ事にした。


キッチンは対面式になっているので、智くんや潤の様子を見る事ができ、2人のやり取りを微笑ましく眺めていたのだった。







「あ、潤。
冷蔵庫の中に料理の入った皿があると思うから、それも出してくれ。」



と言うと潤が、


「はーい。」



と返事をしキッチンからは美味しそうな香りが漂ってきて…。



暫くすると、



「「お待たせっ!!」」


と智くんと潤が料理を運んできてくれた。




テーブルには料理や酒が用意され、



「それじゃあ、食おうかっ!!」


と智くんがそう言うと、3人でビールの入ったグラスを持ち、


「「「カンパーイッ!!」」」


と言うとグラス同士をカチンと合わせ、ビールを喉に流し込んだ。







食事をしながら潤が


「それにしても智、凄いよねっ!!
今じゃあ世界でも有名だし。」


と言うと智くんは酒を美味しそうに呑みながら、

「そんな有名じゃないさ。」


と興味がなさそうに答えていた。




「智くん、何言ってるんだよっ!!
日本に帰って来てからテレビで連日智くんの特集組まれているし。」


「雑誌でも智の事たくさん取り上げられてるよっ!!」



と俺と潤がそう言っても、智くんは自分の事ではないかの様な反応で、


「ふーん。
俺、そいういの興味ないし、全部ウチのスタッフに任せてるからよく分からないんだ。

おっ。
翔くん、潤、この肉美味いぞ。
食ってみろっ!!」


と興味があるのは目の前にある料理だけの様だった。





智くんにすすめられた肉料理を食べると、とても美味しくて、



「んまっ!!」


「何?コレ?
智、めちゃめちゃ美味しいよっ!!」


「だろう?」


と智くんはニコニコとしてそう言った。





「これって冷蔵庫に入っていたお料理だよね?
智が作ったの?」


と潤が聞くと、


「いいや、それはウチのスタッフが作ってくれたんだり
元シェフがいて、いつも美味しい料理を作ってくれるんだ。」


と智くんは肉を頬張りながらそう言った。


「ふふふ。
智の所のスタッフは優秀だね。
智、放っておくと食事せずに絵を描き続けそうだもんね。」


と潤が笑いながらそう言った。














酒も食事もすすみ、潤の頬がほんのりと赤くなってきており…。


潤の奴、ほろ酔いだな…。



と思って見ていると、



「そういえばさ、智。
俺はどの絵を貰えるの?」


潤がニッ笑うと悪戯っ子の様な顔をして智くんにそう聞くと…。






「おう。
潤と翔くんへのプレゼントの絵はあれだ。」


と言うと、智くんは部屋の片隅を指差した。



そこには白い布が見えた。




潤は冗談で言ったつもりだったし、智くんからそんな返事が返ってくるとは思っていなかった潤と俺は、

「へ?」

「えっ?」


と間抜けな声を出してしまったのだった。





「今日は翔くんと潤の記念日だろう?
だから俺からのプレゼントだ。」



と智くんは楽しそうに炭酸で割ったハイポールを飲みながらそう言った。





「えっ?
えっ?
どういう事っ!?」


と目をまん丸にした潤が、智くんの顔を見ながら驚いたそう言うと、          



「んふふふふふ。
サプライズ最高だな。」



と智くんは嬉しそうに微笑むと、



「なんで?
記念日?」

と聞く潤に智くんが、


「15年前の5月17日は翔くんと潤が初めて出逢った日だろう?
だから初めて出逢った記念日だろう?」


と答えているのを聞いて…。







うん、そうなんだよな。


15年前の…俺が高校2年生の5月17日…。

放課後の美術室で潤と初めて逢ったんだ…。





ってか、その話…。

身に覚えがあり過ぎて思わず、


「ああっ!!」


と声を上げてしまったのだった。





ちょ…ちょっと!?

智くんっ!?

もしかしてこの間俺が電話で話した事を言ってるのっ!?


と思っていると、



「ふふふ。
この間翔くんと電話で話した時に、翔くんが言ってたんだ。
『潤は気付いていないと思うけど、毎年潤と出逢った5月17日には食事に出掛けて勝手に記念日を祝ってるんだ。』って。」


と智くんが俺が話した内容をまんま喋ってしまうもんだから、


「ちょっと!!
智くんっ!?
流石にそれは引かれるから言わないって約束だったじゃんっ!!」





ああー…。


と頭を抱えて、


ああ…。

これは絶対に潤に引かれてしまう案件じゃん…。



と項垂れていると…。  








「へ…?
5月17日…?」


と言うと、潤は顔を赤らめながら、



「しょおくんと初めて話しができた日だ…。」


と呟いた。








そんな潤を見た智くんがニコニコとしながら、


「んふふふ。
潤はそれよりももっと早くから翔くんの事を見て…ごふっ!!」


と言っている途中に潤が素早く立ち上がると智くんの後ろに回り、両手で智くんの口を思いっきり塞いでいたのだった。




「智っ!!
喋りすぎっ!!」


と潤はムッしながらそう言うと、



「ん〜、ん〜、ん〜…!!」


と智くんはバシバシッと潤の手を叩きながらもがいていたのだった。





あれ…?

潤…、智くんの口と…鼻まで塞いでるっ!?


と気付き、


「じゅ、潤っ!!
智くんが苦しそうだから手を離してあげてっ!!」

と慌ててそう言うと、


「へ…?
あっ!!」


潤は急いて智くんから手を離したのだった。




「はぁー、はぁー、はぁー…。

潤、お前相変わらずバカだろうっ!!
息が出来ないじゃないかっ!!」


と智くんは潤に向かって文句を言った。





「智が余計な事を言おうとするからじゃんっ!!

その事は2人の秘密にしておく代わりに、智の絵のモデルをやる約束だったじゃんっ!!」



「違うぞ。
絵のモデルの条件は翔くんに…グッフッ!!」


とまたもや潤が智くんの口を塞ぎ、


「だからそれは言わない約束じゃんっ!!」



と潤が智くんを睨みながらそう言った。




学生時代の2人のやり取りを見ている様で微笑ましかったが、こうも『2人だけの秘密』感が強すぎると面白くないよ…な…?




「えっ?
なにっ?
2人の秘密なのっ?

何か焼けるなー。」


とわざとそう言いながらチラリと潤を見ると、潤は慌てて、



「しょおくんっ!!
そういうんじゃないからっ!!」


と言いながら俺の方へと駆け寄ってきた。




「んふふふふふ。」



と智くんはニコニコと笑っていて…。





潤は気まずそうな顔をした後、



「そ、そうだっ!!
智の絵ってどんなのか見てみようっ!!」




と言い潤が白い布のある場所まで行った。






「翔くんも一緒に見てくれよ。」


と智くんに言われて、


「ああ。
そうだね。」


と返事をし、潤の元へと行くと潤は嬉しそうな顔をして、




「しょおくん、一緒に開けようよ。」


と言った。





俺は頷き、



「「せーのっ!!」」




と言い、潤と一緒に白い布を外すと…。
















そこにはイーゼルに立てかけられた1枚のキャンバスが現れた。





そのキャンバスの中央には赤い鳥と紫の鳥が翼を広げて、今にも飛び立とうとしている姿が描かれていた。



その周りには夕焼けの空、青々と晴れ渡った空、雨の日のグレー、お天気雨の空…などなど…。


色とりどりな空が描かれていた。







「すっげ…。」

「綺麗…。」


2人で息を呑んでそう呟くと、



「気に入って貰えたらいいんだけどな。」



といつの間にか俺達の後ろに来ていた智くんがそう言った。





「「すっごく良いよっ!!
ありがとうっ!!」」


「智くんっ!!」


「智っ!!」



と2人でお礼を言うと智くんは満面の笑みを浮かべていた。






「なんか…イメージ的に空を描きたくなったんだよなー。
あの頃よく2人で美術準備室の窓から空を見てだろう?」




と智くんは相変わらず優しい笑顔でふんわりと微笑むと、そう言ったのだった。




















智くんの家からの帰り道、潤は嬉しそうに智くんから贈られた絵を抱きかかえて、




「しょおくん。
智からのこの絵、大切に飾ろうね。

俺、智の描く空の絵や色が大好きなんだ…。」



と嬉しそうに微笑みながらそう言い…、








「…でも…。
しょおくんと一緒に見る空の色が1番好き…。」



と照れながら小さな声でそんな可愛い事を言うもんだから、



「俺も潤と一緒に見る空の色が好きだよ。」



と言い、






「でも、1番好きなのは…。」




と言いながら潤の耳元へと顔を近付けて…。






「俺が1番好きなのは潤…。
…君だよ。」



と囁くと、君はあの頃と変わらず綺麗な大きな瞳を大きく見開いて…。



そして照れて恥ずかしそうに俯くんだよな…。




何年経っても変わらず、照れ屋で可愛い君が俺は大好きだよ…。



「ふはっ。
潤、照れるなよ。」



と言うと君は、



「ち、違うし…。

恥ずかしいだけだもん…。」

と顔を赤らめて言う姿がこれまた堪らないんだよな。




「照れてるじゃん。」


と言いながら、潤の顔をわざと覗き込むと、

「……。」



潤は恥ずかしそうにぷいっと背けるんだよな。


あの頃の俺は、潤のこういう態度が俺を嫌っているからだと思っていたんだけど、本当は恥ずかしかったからだと後から知ったんだよな。



なんて思いながら、潤の抱えている絵をそっと、



「潤、持ってあげるよ。」


と言い受け取ろうとすると潤は、




「いいよ、しょおくん。
俺が持つよ。」



と言うから、



「俺、潤とこうして歩きたいから持たせて。」



と潤の右手をギュッと握りしながらそう言うと、



「えっ…。
あっ…。」



と焦って潤の絵を持つ手から力が抜けた隙に、潤から智くんの絵の入った大きめのトートバッグを受け取り肩にかけ、



「夜の空も綺麗だね。」



と、夜を迎えた黒と青を混ぜた様な深みのある色の空を見つめながらそう言った。




夜の空に浮かぶ雲と細長い三日月もとても綺麗で、



「ふふふ。
本当、綺麗だね。」



と潤も空を見上げてそう言ったのだった。

















君と出逢ったあの頃も、色んな空の色を一緒に眺めていたよね…?






潤…君と一緒に眺めながら、笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったりと、今も…そしてこれからも一緒に色んな空を眺めながら、君と過ごしていく事を俺は誓うよ。









永遠に…。





















⭐⭐空の色⭐⭐
 end
















いつもお話を読んでくださってありがとうございます照れ


ゆるゆるペースの〝空の色〟を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございましたキラキラ


このあと番外編を書く予定ですので、そちらもよかったら読んでくださいねおねがい