空の色







































窓の外は晴れているのに雨が地面に降り注ぎ、




ザーザーザーッ



という音と、


ドクドクドクッ…



と自分の心臓の音が頭の中に響き渡っていた。





目の前には俺の事を大きな瞳でジッと見つめる川﨑さんが居て…。



「川﨑さん…。
俺…。」




と口を開くと、





ザザザザザーッ…




と雨音が更に大きく鳴り響きはじめたのだった。

















空の色  ⑩

























川﨑さんと別れた後、美術室へと向かう階段を登っていると、



「おっ、翔くん。
丁度よかった。」



と階段から降りてきた智くんと出逢った。


「あれ?
智くん、どこに行くの?」


と聞くと、


「今からスイーツ食べに行くんだ。
鈴木先輩から『美味しいお店があるから一緒に行こう。』ってお誘いの連絡があったんだ。」



と智くんは嬉しそうにそう言った。






「そうなんだ。
美味しいスイーツ屋さんがあるんだ。」


と言うと、


「うん。」

と智くんはふんわりと笑いながら頷いた。






そんなに美味しいスイーツなら俺も食べてみたいな…。


と思い、


「智くん。
俺も一緒に行ってもいいかな?」


と聞くと、


「あー。
それはダメだなー。」


と即答されてしまったのだった。




「えっ!?
何で?」


と聞くと、


「潤が『飲み物を買いに行く』と言って戻って来ないんだ。
だから翔くんには潤が戻ってくるのを、美術準備室で待っていてもらいたいんだ。


じゃないと俺も翔くんもスイーツ食べに行ってしまうと潤が1人になってしまうし。
置いていったらアイツまた怒るしさ。
怒られるのはどうせ俺だけどなー。」



と智くんは申し訳なさそうにそう言った。






「ははっ。
確かに潤を置いていくと、アイツ怒りそうだよな。

じゃあ俺、今から美術室に行くね。」


と言うと、




「翔くん、ありがとう!!

じゃあ、俺スイーツ食べに行ってくるよ。」



と智くんは嬉しそうにフニャッと笑い、


「翔くん。
潤の事をよろしくなっ!!」


と言い右手を上げるとそのまま去って行ったのだった。














智くんと別れた後、



「あっ!!
店の場所聞いておいて、後から潤を連れて行ってやればよかったな…。」



と思い振り向いたが、既に智くんの姿はなく…。



「まあ、いいいか…。」



と呟くと、美術室へと向かったのだった。

















「失礼しまーす。」


と言い、誰も居ない美術室へ入ると奥にある美術準備室へと向かった。




美術準備室の扉は閉まっており、



コンコンッ



とノックをしてから、


「失礼します。
潤、居るー?」


と言いながら扉を開けた。



冷房が効いたままの美術準備室はひんやりと涼しくて…。

「あー。
涼しい…。」


と呟き、中に入るとやはり誰も居なかった。



美術準備室の扉を開けたままにして部屋の中へと入ると、入ってすぐの所にある潤がいつも智くんの絵のモデルをする為に座っている赤いベルベット素材のソファーへと腰掛けた。





チラリとソファーの後ろにある掃き出し窓へと目を向けると、そこから見える空は明るいのに相変わらず雨が降り続いていた。






「天気雨か…。」




と呟き、



ザーザーザーッ


と、外に降り注ぐ雨音を聞きながら、ほんの少し顔を窓の方へと向けて明るい空をボーッと見つめていた。



すると…。





ザーザーザーッ



という雨の音と共に、



…っ…うっ…っ…うう…



という奇妙な音が聞こえてきたのだった。





えっ!?

気のせい…!?



と思い耳を澄ませていると、




ザーザーザーッ

と雨の音と、



うっ…ううっ…う…う〜…



という音がやはり聞こえてくるのだった…。






はぁっ!?



音…?



何の音…?



と思っていると再び、


…っ…うう…っ…うっ…うう…



という音(?)が聞こえてきて…。






いや…これって音というより…。


人の…声…?


それも…啜り泣く…声…だよな…?







と考えるのと同時に、


『…美術室のバルコニーから、女子生後の啜り泣く声と…。』


と話す山葉先生の美術準備室に纏わる例の怪談を思い出したのだった。




でもあの美術準備室の話を山葉先生は『嘘だ。』と言っていたよな…?





でも、今聞こえるこの声は一体…?







「…う…っ…うっ…ひっく…っうっ…」




ほらっ!!

また聞こえたっ!?






そうこれって…。


これって…。



「ひっく…ひっく…う…っ…ううっ…」


まさかの…例の女子生徒の啜り泣く声じゃね…?







 


で…。



その女子生徒が飛び降りたバルコニーっていうのが…。



今、櫻井と松潤が座っているソファーの後ろにある窓の外にある…バルコニーなんだ…。


場所はちょうどお前らの真後ろで…。






って、俺…。


今日もどんぴしゃな場所に座ってるよな…?




ってか山葉先生、あの話は嘘じゃなかったのかよっ!?



と心の中で叫び、恐る恐る振り返り掃き出し窓の外を覗こうとしたその時…。




ソファーと掃き出し窓との間がいつもより開いいる様な気がして…。







ふとそこに目を向けると…。








そこには…。





蹲る人影が…。



って、人影っ!???


どういう事っ!???




「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!
出たぁーーーーーーーっ!!!」




と思わず大声で叫ぶと、蹲っている人影もビクッと震えると、


「ひぃぃぃーーーーーっ!!!」


と叫んだのだった。








































「ってか、何でそんな所に居るんだよっ!?
ビビるだろうっ!!」



ソファーと掃き出し窓の間で蹲って泣いていた人物に向かってそう聞いてみた。






が…。




「うっ…うう…う…ひっく…うう…。」


と泣くだけで答えてくれず…。












「潤…。」




そう…泣いていたのは潤だったのだった。






「何で泣いているんだよ?
しかもこんな狭い所に入り込んで…。
ほら、こっちにおいで。」

と言いながら、ソファーを少し前に出して潤をそこから移動をさせようとするが、





パシッ!!


と潤に手を払われてしまったのだった。



はあ…。


俺…また潤に嫌われたのか…。





「俺…潤に何かしたのかな?
それだったら、ごめん…。
潤…言ってくれないと分からないよ…。」



と困り果てて潤の背中にそっと手を伸ばして、撫でながらそう言うと、潤が急にすくっと立ち上がったのだった。



なんだ?



と思っていると、




「ぜんぱ…い…、さくら…い…ぜんぱ…い…。
彼女さん出来で…おめで…と…ござい…まず…。うっ…。うっう…うう…。」


と潤は相変わらず泣きながら意味不明な事を言い始めたのだった。




俺に『彼女』!?

何の事を潤は言っているんだ…?


と思い、


「はあーっ!?
『彼女』?そんなのいないし…。」



と言うと、潤はますます泣きながら、


「でも、ぎょう…さっぎ…こくはぐ…されで…いだもん…。」



と大粒の涙をこぼしながらそう言ったのだ。




潤の言う『告白』という言葉で、川﨑さんの事を言っているのだと気付いた。





ああ…。

川﨑さんに俺が告白をされるのを潤は見ていたんだ…。


じゃあ、さっき見かけたのはやっぱり潤だったんだ。





ああ…。

そうか…。


自分の好きな人が別の人に告白するのを見るのはショックだよな…。




と思いながら、川﨑さんとは付き合わない事を早く潤に伝えなければと思い、






「断ったし。

それに…俺は他に好きな人がいるし…。」



と言うと潤がガバッと顔を上げて、


「うぞっ!?」


と言った。




あーあー…。


泣いて顔がグチャグチャじゃん…。



拭く物といえばアレしかないな…。



と思い、部活で使っていたタオルを鞄から取り出すと、


「汗臭いと思うけど潤、我慢してくれ。」


と言い、涙でぐちゃぐちゃになっている潤の顔をゴシゴシと拭いてやった。


「いだいっ!!
さぐらいせんぱいっ!!
いだいっ!!」


と言う潤に、


「ふはっ。
ごめん、ごめん、潤…。」


と言い潤の顔を拭いていた手を止め、潤に謝ると、


「俺、川﨑さんとは付き合わないから大丈夫だよ。
潤と川﨑さんの方がお似合いだと思うよ。
だから潤、頑張れ。」



と潤にエールを贈ると、






「えっ!?
何で…そうなるの…?」


と潤は呟いた。





「ふはっ。
潤を見ていたら分かるよ。
はじめは智くんの事が好きなんだと思っていたけど、潤の好みのタイプ聞いてピンときたんだ。
潤が好きなのは…川﨑さんなんだって…。」



と言うと潤は思いっきり首を横にブンブンと振り、

「ちがう…。
ってか川﨑先輩は…櫻井先輩好みの色白さんだよ…?
櫻井先輩と川﨑先輩は両想い…だよね…?」


と首を傾げてそう言ってきた。





「ああ俺の今の好みは色が白い子だよ。

だからといって川﨑さんだと、勝手に決めつけないでくれるかな?」


と言うと、



「…それを言うのなら櫻井先輩だって…。」



とが拗ねた顔をしてそう言った。



が…。


潤が呼ぶ俺の名前が…。

いつもの『しょおくん。』ではなく『櫻井先輩』に戻っていたのが、何だかムカついて…。






「潤…。」


「な…に…?」


「呼び方…。」


「えっ…?」


「呼び方。
『櫻井先輩』になってるんだけど。
どうして?」


イラッとしながら潤にそう聞いたが、




「……。」


潤はギュッと唇を噛んで何も言ってくれない。




「じゅーん。」

と立ち上がり、潤の名前を呼び俯く潤の顔を覗き込むと、


「…だって…。」


と潤は小さく呟いた。




「だって?」


「しょ…櫻井先輩が川﨑先輩と付き合うと思っていたから…。


だから…俺…しょおくんに馴れ馴れしくしてはいけないと思って…。」


と潤は俺から視線を逸らしながらそう言った。





「だから、川﨑さんとは付き合わないしっ!!俺が好きなのは潤だからっ!!」


と思わず自分の想いを口に出してしまっていたのだった。


「えっ?」


と泣いて腫れている目を大きく見開いて潤が驚いた顔をして俺の事をジッと見つめてきたのだった。


自分が言った言葉に気が付き、


「あっ!!
いや…違う…。
いや違わないけど…。」




と言い訳をしようとするが上手く言葉が見つからず…。






「「……。」」







暫くの間沈黙が続き、気まずい雰囲気の中潤が、

「う…そ…だ…。」


と呟いた。



それを聞いて、


「嘘じゃないし。
あーもうっ!!
だから、俺が好きなのは潤…。
君なんだよ。」



潤の両手を掴むと綺麗な瞳を見つめながらそう言うと、潤の瞳からは再び涙が溢れ出していた。



そうなるよな…。


男に好きだと言われて普通は嫌だよな…。


と思い、


「…潤…。
…ごめん…。
気持ち悪いし嫌だよな…。」


ごめん…。



と小さく呟き潤の手から自分の手をそっと離すと、



「ち…がうよ…。
しょおくん…。
おれ…ぐずっ…うっ…うう…っ。
うれしくて…。」


と言いながら潤が俺の手を掴んできたのだった。



どういう意味なのか一瞬理解が出来ず、


「は?」


と間抜けな声を上げると、




「おれも…しょおくんが…すき…。
すきだよ…、しょおくん…。」



と言いながら潤が俺に抱きついてきたのだった。



これ…って夢…。


夢じゃないのか…?


何だか信じられない事が起こっているが、夢だろうが何だろうが俺はこのチャンスを逃してはいけないと思い、潤をそっと自分から離すと潤の両手を掴み…。





潤の涙で潤んだ綺麗な瞳を見つめながら…。




「潤、好きだよ。
俺と付き合ってください。」



と言うと、



「はい。
しょおくん…宜しくお願いします。」



と潤が恥ずかしそうにそう言うと、俺の両手をギュッと握り返してくれたのだった。













「ふふふ。」



と嬉しそうに微笑む君の笑顔を今でも俺は覚えているよ。











ふと君の後ろに太陽の光を感じて掃き出し窓に目を向けると…。






明るい陽の光が差し込んでおり、先程までの雨はウソのように上がっていたのだった。










それはまるで空が君の心を映し出しているかの様に、泣いたり笑ったりしていたみたいだったよね?

















⭐⭐ to becontinued⭐⭐