おおみ屋工房に到着し、和也と相葉くんが、
「「ただいまー。」」
と言いながら玄関の引き戸を開けると、智くんと花浅葱が客間から出てきて、
「おう。戻ってきたか。」
「和也さん、相葉さん、おかえりなさいませ。」
と迎え入れていた。
「智くん、花浅葱、こんばんは。
お邪魔するよ。」
と言いながら玄関に入り、俺の後ろにいた潤が、
「智ぃー。花浅葱ぃー。
ただいまー。」
と言いながら入ってくると、智くんは珍しく目を見開いて驚いた顔をし、そして潤に、
「潤…。お前、記憶が戻ったのか…?」
と問いかけていた。
潤は満面の笑みで、
「うん。しょおくんのおかげで、記憶が戻ったんだよ。」
と答えると、
「潤様、おかえりなさいませっ!!」
花浅葱も嬉しそうな顔をして、潤の記憶が戻った事を喜んでくれているようだった。
「そうか…。翔ちゃん…、よかったなー。」
と、智くんは潤の記憶が戻った事を自分の事の様に喜んでくれて、俺の肩をポンポンッと叩きながら、いつものふんわりした優しい笑顔でニコニコとしていた。
客間に入ると、花浅葱がお茶の用意をしてくれており、ちゃぶ台を囲んで座り皆んなでお茶を飲んで、ほっと一息ついていたところで相葉くんが、
「そういえば智さんは、翔ちゃんの従兄弟さんなんですよね?」
と、智くんに聞いていた。
一体相葉くんが何を言い出すのかと思いながら、二人の会話に耳を傾けていると、
「おう。そうだ。」
智くんが答えると、
「じゃあ…。
智さんと花浅葱さんも、天狗なんですか?」
好奇心旺盛な相葉くんが黒目がちな綺麗な瞳を輝かせながら、智くんと花浅葱に聞いていた。
「俺は天狗だけど、花浅葱は違うんだ。」
と智くんが答えると、花浅葱が
「僕は智さんの〝使い魔〟なんですよ。」
と言うと相葉くんが
「〝使い魔〟って…?」
と聞き返していた。
すると人のよい花浅葱が、
「僕の本当の姿は、妖鳥なんですよ。
天狗族の智さんと契約をして、智さんの〝使い魔〟としてこの姿で一緒にいるんですよ。」
相葉くんに説明をしてあげているのだが、花浅葱それ以上喋ると智くんがあまりいい顔しないぞ…。
智くんは花浅葱の正体を、天狗族…というより妖族にはわかってしまうので仕方ないと思っているようなのだが、それ以外の者にはわざわざ自分から言って知らせる気はない…というより知られたくないみたいなんだよな…。
だから花浅葱が自分から、〝使い魔〟とか〝妖鳥〟という言葉をを口にするのも実はあまり快く思っていないくて…。
滅多に口にする事はないのだが、今回は和也も相葉くんも潤の大切な友人という事で話してくれているのだろうが…。
と思っていると、案の定智くんが、
「まあ、この話はその辺にしといて、花浅葱、例のアレを潤に渡さなくてもいいのか?」
と言いその話を逸らして、花浅葱に席を立たせるように促していた。
智くんの言葉に、
「ああ、そうだった。
ちょっと待っていてくださいね。」
と言いながら花浅葱は立ち上がり、襖をスッと開けて一旦部屋から出て行った。
相葉くんだったら花浅葱に、『妖鳥の姿を見せてくださいっ!!』とか言い兼ねないもんな…、そうなるとまた色々面倒な事になる事間違いなしだ…。
暫くして、花浅葱が一冊の見覚えのある書物を手にして戻って来た。
「潤様、これ…お返ししておきますね。」
と、花浅葱がその書物を潤に手渡すのを見て、思わず「あっ!!」と声が出そうになったがそれよりも早く和也が、
「あっ!!その本、書斎の本棚から消えた本っ!!」
と言った。
背表紙に紫色の印の書物…。
間違いない、あれは屋根裏部屋の書物棚から消えていた潤の〝星使いの妖術編〟の書物だっ!!
どうして智くんの所の書斎に…?
と思っていると、花浅葱が肩を竦めて、
「潤様が記憶を無くされる前に、ご自分で隠さ
れていたんですけど…。
まさか、地図が描かれた襖がある書斎に隠し
ているとは思っていなくて…。」
と言うと、智くんが、
「潤が持って来ようとしていたから、俺達も焦
ってたんだけど、和也が止めてくれたんで助か
ったよ。」
と言うと、智くんの隣にいた花浅葱も、うんうん、と頷いていた。
「皆さんが客間に戻って来られてる間に、台所
側からも書斎に行けるので、そちらから回って
すぐに本を取りに行った後、僕の部屋に隠して
おいたんです…。」
と花浅葱が説明をすると、和也が、
「それで俺が地図をもう一度見に行った時に、
その本が消えていたんだ。」
と言い納得した様子だった。
「そうなんです…。」
と言いながら、花浅葱が申し訳無さそうな顔をしていた。
よりによって地図のある部屋にあの書物を隠すなんて潤らしいな、と思いながら話を聞いていると、書物を花浅葱から受け取った潤は、
「花浅葱、ありがとう。」
と言いながら〝星使い 妖術編〟と書かれた書物を受け取り、ふふふ、と笑い俺に見せてくれた。
「潤のその書物がないと思ったら、智くんの所にに隠していたとはな…。」
と言うと潤は、
「ここなら翔くんには見つからないでしょ?」
と得意げに言った。
「おっしゃる通り…。」
と言うと潤は悪戯っ子の様な顔をして、やったーっ!!、と喜んでいた。
隣にいる潤を見つめながら、ああ…、本当に潤が戻って来てくれたんだ、と幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
早く館に帰って潤を抱きたい気持ちを抑えながら、この穏やかに流れて行く時間を過ごしていた。
⭐to be continued⭐