とりあえず、びしょ濡れの相葉さんをそのまま放置する事は出来ないので、お風呂に入ってもらう事にした。
「にのちゃん、濡れていないけど傘持ってたの?」
と、相葉さんに言われて、雨が降ってた中傘をささずに帰ってきたのにもかかわらず、濡れていない自分に気付いた。
濡れない雨…。
子供の頃もそんな事があったような…?
「それよりも、相葉さんは何で傘を持っていたのに、そんなにびしょ濡れになってるのよ?」
「あー。傘持ってなかったんだけど、バイト終わってから一回家に帰って、食料調達して来たからねー。」
相葉さんの家は近所の中華屋さんだ。
一人暮らしで放っておくとご飯を食べない俺に、こうやって差し入れを持ってきてくれるんだ。
「だから、着替えはちゃんと持ってきてるよー。うひゃひゃひゃひゃ。」
と、目を細めて楽しそうに笑う。
「だったらちゃんと着替えて来てよ…。」
濡れたキッチンの床をタオルで拭きながら、相葉さんに苦情を言うと、
「少しでも早くにのちゃんに会いたかったしね。」
と言って、バタンとお風呂場の扉の向こうに、相葉さんは消えた。
一瞬手が止まってしまう。
相葉さんの言葉が、なんだか恥ずかしくなってしまい、その気持ちを誤魔化すために必死で床を拭いた。
蹲っていた人は、俺の部屋にちょこんと正座をして座ってテレビを観ている。
何を話せばいいのか分からず、相葉さんには早くお風呂から上がってきて欲しい。
部屋には入らず、キッチンで相葉さんが出てくるのをひたすら待った。
「ええーっ!??にのちゃんのお友達じゃなかったのー!??」
お風呂上がりの相葉さんを捕まえて、事情を説明すると驚いていた。
だから人の話をちゃんと聞いてよね…。
部屋に入り、相葉さんが蹲っていた人に、
「ごめんね。俺、早とちりしちゃって。にのちゃんのお友達じゃなかったんだよね…?」
と、頭を下げる。
首を傾げた後、フルフルと首を横に振る。
「「えっ!??」」
「にのちゃんの知り合いなの…?」
コクコクッと頷く。
えっ?
どういう事よ…。
「か…ず…。お…とも…だ…ち…。」
「いや…。俺はあなたの事、知らないハズなんだけど…。」
「にのちゃん、忘れちゃってるとかはないの?名前はなんて言うの?」
「な…まえ…?」
「そう名前。」
「…?」
首を傾げてしばらく考えてから、フルフルフル、と首を横に振る。
「ええーっ!?名前わからないの?」
コクコクッと頷く。
テーブルの上に置かれた左手の薬指にはめられている、ごつめのシルバーリングが目に留まった。
相葉さんも同じだったようで、2人で目が合って、
「ごめんね。その指輪見せてもらってもいいかな?」
相葉さんが優しく言う。
サッと左手を隠して怯えた目で見る。
「指輪、左手の薬指にしているから、エンゲージリングとかペアリングで、特別な物だと思うんだけど…。」
「指輪の裏に名前とかイニシャルとか彫ってある事があるから、君の名前の手がかりになるかな…?と思ったんだ。」
ジッと俺たちを交互に見たあと、左手の指輪を外しソッと俺に渡してくれた。
この指輪…。
俺、見覚えがある…。
アラベスクモチーフに赤い石が1つ入っており、石の両横には星の模様があるその指輪の裏には、
〝 6.25 StoJ Con Todo Me Amore〟
と彫ってあった。
⭐to be continued⭐