「…ん。」
「しょ…く…ん。」
「翔くん…!!」
潤の呼ぶ声にハッとして周りを見渡すと、そこは宿泊しているホテルの廊下だった。
目の前には潤がいて、俺を呼んでいた。
「目が覚めたら、翔くんがいなくてビックリしたよ。」
で、探しに行こうかと思ったら、廊下でボーーーッとしてる翔くんがいたんだよね。
クスッと笑いながら、
大丈夫?
と、瞬きする時にバサッとまつ毛の音が聞こえそうな距離で、潤が俺の顔を覗いてくる。
「翔くん疲れているんじゃないの?とりあえず部屋に入ってゆっくりしようよ。」
と、潤は俺の手を引いた。
部屋に入り、潤の首元にふと目をやると…。
赤と紫の小さな石の付いた五つ葉のクローバーが、潤の胸元で揺れていた。
「それ…。」
五つ葉のクローバーを指差すと、
「ああ…、これ?僕が入所した日に、サクラさんって人から貰ったんだ。」
入所してすぐの頃は付けたりしていたんだけど、サクラさんがレッスンの時には外すように、って言われたから、お守りとして持ち歩く事が多かったんだけどね。
と、五つ葉のクローバーを手に取り眺める。
それであのアンティークショップで見かけた時に、見覚えがあったのか…。
潤がこちら向き、俺の目をジッと見て、
「ねえ…。」
「〝サクラ〟さん…?」
潤が首を傾げて俺に呼びかける。
「えっ?」
「〝サクラ〟さん、でしょ?」
「…。」
「翔くんが、〝サクラ〟さんだったんだね…。」
「何で…?」
ずっと前から翔くんと、〝サクラ〟さんが似ているな…、とは思っていたんだよね…。
だけどかなり昔の出来事だったから、〝サクラ〟さんの顔をハッキリと思い出せなかったんだよねー。
今朝、このネックレスを〝サクラ〟さんから貰った時の夢を見て、あの日の事をハッキリ思い出したんだ。
今日の翔の服と夢の中の〝サクラ〟さんの服が同じだし…。
「あのね、あの時、大丈夫だよ、って言ってくれてありがとう。」
僕、〝サクラ〟さんのあの言葉と、このお守りのネックレスのおかげで頑張れたよ。
本当に、ありがとう。
潤が俺をギュッと、抱きしめてくる。
潤の背中に手を回し、俺も潤をギュッと抱きしめ返す。
「五つ葉のクローバーを、プレゼントすることで相手も自分も幸せになると言っていたけど、僕は翔くんと出逢えて、あの時〝サクラ〟さんと出逢えて、そして今も幸せだよ。」
「俺も潤に出逢えて幸せだよ。」
その言葉で抱きしめていた潤が少し体を離して、首を傾げて俺の顔を覗き込む。
大きな綺麗な瞳で俺を見つめる。
潤の頬に手を添えると、潤が瞼を閉じた。
俺は潤にそっと、口付けをする。
ずっと一緒に幸せでいような、潤…。
5月17日の金曜日…。
潤の入所したその日はやっぱり特別な日で、1996年と2019年の時空を繋いだ不思議な日。
五つ葉のクローバー。
それは100万分の1の確率でしか見つからないと言われる、幸せの奇跡。
プレゼントすることで相手も自分も幸せになるという言い伝えは…。
本当だったな。
⭐end⭐