じゅんに優しく、

「大丈夫だよ。じゅんくんならきっとダンスも歌も上達するよ。」

頭をクシャクシャと撫でてやると、じゅんは目を細めて嬉しそうに微笑む。



「あのね…。お兄さんの名前を聞いてもいい?」

「俺は…。」
〝櫻井 翔〟と言おうとして、その名前をじゅんに伝えるのはマズイかと思い…。

「〝サクラ〟だよ。」
と、じゅんに伝えた。

「サクラさんって言うんだ。」

「うん、そうだよ。」
頷くと、

「サクラさんかぁ。ふふふ…。サクラさん…。」
独り言なのか俺を呼んでいるのか、じゅんは〝サクラ〟を嬉しそうに呼ぶ。

笑顔のじゅんを見ると、温かい気持ちになる。


ふと自分の持っていた紙袋を思い出し、
「あ、そうだこれ入所記念にじゅんくんにあげるよ。」
潤のために先程買った五つ葉のクローバーのネックレスの入った紙袋をじゅんに渡した。

じゅんは目を見開いて驚いて、
「ボクが貰ってもいいの…?」

「うん、いいんだよ。それはじゅんくんのために買った物だから。」

「ボクのために…?」

「そうだよ。」
本当は未来の君にだけどな…。


開けてもいい?
と言ってじゅんは薄紫の箱から赤いリボンを外し、箱の中から五つ葉のクローバーのネックレスを取り出した。

「うわー、五つ葉のクローバーだー!!赤と紫の石キレイー!!」

嬉しそうにしているじゅんに、ネックレスをつけてあげた。



五つ葉のクローバーの葉の一つ一つ意味は、
「愛」「希望」「健康」「知恵」「財運」
なんだよ。

一方で病気になる言い伝えもあるけど、プレゼントすることで相手も自分も幸せになるという言い伝えもあるから、じゅんくんの未来はきっと幸せが待っているよ。


あのアンティークショップの店主から聞いた話を、じゅんにしてやった。

「これ…、お守りだね…。サクラさんのおかげでダンスも歌も頑張れそうだよ!!」

「そっか。それはよかった。」

首元からぶら下がっている、五つ葉のクローバーを手に取りじゅんは眺めていた。



じゅんが急いでいた事を思い出し、

「そういえば急いでいたんじゃないのか?時間は大丈夫か?」

「あっ!!」

慌ててじゅんは自分のデジタル式の腕時計を見ると、

19:25

「もうこんな時間っ!!帰らなくっちゃー!!」

「気をつけてかえるんだよ。」

「うん。サクラさん、ありがとうー!!」

じゅんはエレベーターの方向に走って行く。


「あ、ネックレス、レッスンの時には外せよー!!」

「はーい!!」


走っていたじゅんの後ろ姿を見送っていると、じゅんがクルリと振り向き、

「サクラさーんっ!!これ、本当にありがとう!!大切にするねー!!」

手をブンブンと振り、再び小さなじゅんは走り去って行った。

じゅんの後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。




⭐to be continued⭐