映画三昧 #2627 ⭐️⭐️☆ ノマドランド(20) | juntana325 趣味三昧

juntana325 趣味三昧

自分の興味のあることを、自分本位に勝手に解釈するブログです。


アメリカの荒野は、ノマド生活を送るに相応しい寂寥感がある。日本で、遊牧民的な生活を送っても、アメリカほど人気のない場所はないから、この雰囲気は醸し出せないだろう。こういう風景を見ると、すぐに「イージーライダー」が頭に浮かぶ。我ながら昭和が抜け切らずに、ほとほと呆れてしまう。


この作品は、従来のロードムービーとは少し違う。ロードムービーといえば、大概何か目的があって旅を続ける。ところが、この作品のファーンは、自分の思い出を反芻するかのように、果てしない旅を続ける。終点がない。どこまでも続く荒寥とした風景は、彼女の心象風景を映し出すようだ。ストレスもなければ、モチベーションもない、ピュアな感情だけが支配しているように感じられる。




経済状況の変化で、半ば追い出されて旅立ったファーンは、帰るところを失った渡鳥のようで、スクリーンに虚しく映る。それが彼女だけかと思っていると、中高年を中心に、そういった人々がRVを改造して、車中生活者として社会を形成している事に、驚く。彼らの人生はそれぞれだが、車で各地を転々としながら生計を立てている。日本で言えば、車で寝泊まりする季節労働者と言ったところだろうか。映像は、ドキュメンタリータッチで、少なからずリアリティが伝わってくる。




ついついその境遇を、自分の身に置き換えてしまう。プレッシャーもなく自適に時間を過ごすことは羨ましくもあるが、その代償として、信用できる家族もいなければ、社会的な補償もない。それに耐えるには、自分の中で何か突き抜けたエモーションがなければ、容易にはいかないだろう。劇中で、アラスカの大自然を見たいと、一人でRVで旅をする末期癌の女性が出てくる。このノマド生活をするには、それなりの理由が必要だと思う。




彼女の生活は、経済的に豊かなものではないが、決して、犯罪に手を染めたり、人に頼ったりせず、孤高の誇りを感じる。話が進むと、孤独と向き合うというより、孤独に身を置いて人生を楽しんでいるかに見えてくる。車中生活は、そんな彼女にはうってつけなのだろう。ノマド生活の仲間たちが心配するが、彼女にとっては、自ら選んだノマドであり、それを捨てる気はない。そんな頑なな生き方が、「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドには板についている。彼女だからこそ、こういう雰囲気を醸し出せる。




しかし、ラストで、追い出された街に預けていた私物を、全て処分する。彼女の中で、何かが終わった。それまで彼女は、各地を転々としたが、いつも亡夫と過ごしたこの街と繋がっていた。そこは、すでに地図にはない廃墟だったが、彼女にとって、帰るべき唯一の場所だったに違いない。彼女はこの後どうするのだろう。アメリカの広大な大自然は、こういう時には、人に考えさせる間を持たせてくれる。ちっぽけな人間の存在に、気づかせてくれる。ノマド仲間の家に転がり込むのか、それとも旅を続けるのか、アメリカの荒野を見ていると、そんなことは、どうでもよくなってくる。




解説

「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。2020年・第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得。第78回ゴールデングローブ賞でも作品賞や監督賞を受賞。第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など6部門でノミネートされる。