映画三昧 #2588 ⭐️⭐️➕ テルアビブ・オン・ファイア(18) | juntana325 趣味三昧

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エルサレムが舞台だから、観る前からきな臭さが漂ってくる。もちろん、知っているエルサレムは、行った事がないわけだから、想像の産物に過ぎない。エルサレムは、一つの街の名に過ぎないが、中はパレスチナ、イスラエルに分断されているし、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地でもあり複雑怪奇と言わざるを得ない。そんな中で暮らす日常は、想像以上に不便極まりないが、市民には、それが日常で、馴れっこだ。




冒頭はそんな日常から始まる。話は劇中劇のスタイル。現代と1967年のエルサレムを舞台にしたテレビの連ドラが、交錯する。主人公サラムをはじめ、登場人物の思惑が、ドラマの中に投影されていく件は、エルサレムという過酷な世界を忘れさせる。




サラムが、特にドラマの脚本家として才能があるかというと、とんでもない。ただ職を得て、金を稼ぎたい青年の一人だ。そんな彼を救ったのは、宿敵イスラエル将校アッシ。この不思議な関係が、彼を成功へと導いてくれる。かなり皮肉な話だが、若い世代にとって、傍目でみるほど今の中東情勢に抵抗を感じていないのかもしれない。むしろ、業界的にスポンサーや視聴率の方に目がいく。その辺は、コメディとはいえ、意外だった。




最後の方になると、アッシが検問所の仕事にうんざりしていたり、劇中劇のアラブの女スパイタラとイスラエルの将校イェフダが結婚するというラストが検討されたり、和平への融和的ムードが漂い始める。政治的レベルはさておき、民間レベルでは、長い紛争への嫌悪感が芽生えているのではないか、そんな気風を感じる。しかし、一方でアラブ女とイスラエル男が結ばれるなんて許せないという年長者の反感も根強い。




サラムとマリアムの恋の行方も気になるが、最大の山場は、劇中劇のラストだ。結婚するのか、結婚式でタラが自爆するのか。自爆する結末に、ありきたりだとい意見が出るのは、ユーモアなのか現実なのか。さすが中東だ。しかし、ラストは予想外の結末。軍を辞めたがっていたアッシが、まさかの俳優転向で結婚式に乱入する。連続テレビドラマ的に、すべてが丸く収まった雰囲気の結末に、何となく物足りなさを感じる。


それにしても、映画のアイコンの一つ「フムス」という食べ物は何だろう。アッシはこれが大好物で、サラムは幼少の空襲を思い出すから、それがトラウマだという。最後は、二人でフムスを食する。これも和平の暗喩なのだろうか。過去を精算したサラムが、新しい一歩を踏み出すシーンだったが、結末は、その布石と少し違っていた気がした。




解説

パレスチナ系イスラエル人のサメフ・ゾアビ監督が、複雑なパレスチナ情勢を皮肉とユーモアに包んで描いたコメディドラマ。1960年代の第3次中東戦争前夜を舞台にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」。その制作現場でインターンとして働くパレスチナ人の青年サラムは、撮影所へ通うため毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、妻がドラマの大ファンだという検問所の主任アッシから脚本のアイデアをもらったサラムは、制作現場でそのアイデアを認められて脚本家へと出世するが……。主人公サラム役に「パラダイス・ナウ」のカイス・ナシェフ。2018年・第31回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。