映画三昧 #1965 ⭐︎⭐️☆ 心と体と(17) | juntana325 趣味三昧

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長編デビュー作「私の20世紀」でカンヌ国際映画祭カメラドール(最優秀新人監督賞)を受賞したハンガリーの鬼才イルディコー・エニェディが18年ぶりに長編映画のメガホンをとり、「鹿の夢」によって結びつけられた孤独な男女の恋を描いたラブストーリー。ブダペスト郊外の食肉処理場で代理職員として働く若い女性マーリアは、コミュニケーションが苦手で職場になじめずにいた。片手が不自由な上司の中年男性エンドレはマーリアのことを何かと気にかけていたが、うまく噛み合わない。そんな不器用な2人が、偶然にも同じ夢を見たことから急接近していく。2017年・第67回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞をはじめ4部門に輝いた。




北欧映画を思わせる透明感のある映像に、最初から釘付けになる。どこか、先日観た「聖なる鹿殺し」の澄んだ映像とおどろおどろしいストーリーを思い出させる。



冒頭の二頭の鹿の映像が美しい。まるで、演技をしているような趣で、森の中に立つ。その後も、二頭は、つがいというより、どう声を掛けていいかわからない男女のような、気まずい雰囲気を漂わせる。




そして、同じような関係の男女、エンドレとマーリアが、同じ職場で働いている。二頭の鹿の映像は、二人がみていた同じ夢だった。二人は、知らず知らずのうちに、鹿になってデートを重ねていた。それを知ったら、自分たちの出会いが偶然ではなく、ソウルメイトとしか思えないだろう。当然、現実の二人の仲は親密になるはずだが、マーリアの極度の対人恐怖症で、話は思うように進まない。マーリア役のアレクサンドラ・ボルベーイは、エキセントリックで女神のように美しく、非の打ち所がない。(「1001グラム」のアーネ・ダール・トルプとキャラクターがかぶる)  それにひきかえ、親子ほども年が離れたエンドレは、体裁の上がらない初老の男だ。その彼を、マーリアは、美しいと評する。エンドレにすっかり入り込んだ自分は、その言葉に胸が熱くなる。



透けるような白い肌が印象的


実は、エンドレよりも何倍もマーリアの方が彼を愛していたのだ。フラれたと勘違いした彼女は、浴室でリストカットする。それは、何の戸惑いもなく、スパッとやる。杓子定規な彼女は、やるときはやるのだ。死ぬ間際に、エンドレから、デートの誘いがある。急いで手首を応急処置して、彼に会いに行く。愛する男に会うために、いつもなら恐ろしいほど几帳面な彼女が、血を滴らせながら、そそくさと出て行く様は、乙女の純愛ファンタスティックな気分を堪能できる。ただの恋愛ドラマなら、こんな感情は湧いてこないだろう。




ラスト、二人のベットシーン。彼女の顔は、多幸感極まったような、恍惚の表情。本当に演技なのか?今日は、この笑顔を観るために、この劇場に来たような気持ちになる。翌朝二人は、朝食を取りながら、夢の話をする。二人とも、もう鹿の夢は見なかった。ここまでくると、羨ましくなるような大人のメルヘンだ。