出版社の辞書編集部を舞台に、新しい辞書づくりに取り組む人々の姿を描き、2012年本屋大賞で第1位を獲得した三浦しをんの同名小説を映画化。馬締役で松田龍平、香具矢役で宮崎あおいが出演。監督は「川の底からこんにちは」「ハラがコレなんで」の俊英・石井裕也。
原作を読んだ後に映画化されたものは、いつも観るのを避けてしまう。活字も、映像もごちゃ混ぜになって、自分の中で、いいイメージが残らない。大概、本を読んだら映画は観ないし、映画を観ると本を読まない。しかし、この作品は、昨年原作を読んだ。
人生を賭するような仕事に巡り合えた主人公と、その仕事を通じて結びついた人々との人間ドラマ。長い間に培われる人間関係を描くのに、辞書の編纂という仕事は、もってこいだ。辞書作りという作業は、膨大な時間とお金がかかり、その中で、人も熟成されて行く。薄っぺらになりがちな仕事での人間関係が、濃密な関係で描かれるのは、気持ちが良い。
人にとって、天職など分からない、自分が信じればそうなる。この作品に出てくる登場人物たちも、それぞれ仕事について、いささかの疑問を持ちながら日々過ごす。でも、それは時の流れと共に、疑問は自信に変り、心地よい安堵感へと変化する。そこに注がれる情熱に勝るものはない、そう思わせる。それにしても、言葉の海に、船出して、言葉を拾い編みながら進むなんて、ロマンチックな表現を考えるものだ。