幸せの形は人それぞれ。多様性の時代。自分に正直に生きよう。
そう言えるのは、本当の自分を明かしたところで、排除されない人たちだけだ。
「多様性」ってなんなんでしょうね。
今日は、朝井リョウさんの『正欲』を読んだので、その感想や考えたことを残していこうと思います。本編に関するネタバレを含むので、お気をつけ下さい。
発売されたのはちょうど1年前だったらしいです。
人間の三大欲求として「食欲」「睡眠欲」「性欲」があります。
では「正欲」とは何なのでしょう。この小説の中では「正欲」が何を指すのかは明言されていません。僕は「各個人が正とする欲」なのかなと思いました。
落ちている鳥は、飛ぶことを諦めて重力に従って落ちる鳥だと解釈しました。
この小説の冒頭に、1つの事件が発生します。
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男性3人組がコミュニケーションアプリを通して、公園で集まる。
3人組は大きな水鉄砲や水風船を持っていて、そこに子供が集まっていく。
一緒に遊び、汗と水でびしょびしょになる子供を撮影する男。
警察が3人を捕まえて調べたところ、その撮影した男から児童ポルノ所持が発覚し、他の2名にも送っていたこと、コミュニケーションアプリで3人で集まる計画を立てていたことが発覚する。
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メインとなる登場人物は3人。
1人目は、正義感のある男性検事。1人の引きこもり息子がいる。
2人目は、寝具店で販売員をやってる女性。異常性癖を持つ。
3人目は、大学1年生の女子。学園祭を企画。彼氏いたことなし。
です。
この3人はそれぞれの人生を歩んでいて、それぞれの環境・人間関係の中で暮らしています。この3人がメインになった話が、少しずつ順番に進んでいく感じ。
小説前半は、この3人の周りに起きる出来事が描かれて物語が進行していきますが、小説後半は、この3人以外のメンバーのストーリーも大きく動いていき、最後に冒頭の事件の全貌が明らかになります。
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1人目:寺井啓喜のストーリーのあらすじ
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検事をやっていて、元看護師の妻がいる。
小学生の息子が不登校・引きこもりになってしまう。
一度社会のレールから外れた人が転落するのが早いことを仕事柄知っている啓喜は、息子を学校という社会に復帰させようとするが、空回り。
ある日「学校に行かなくても良い!」と主張するYouTuberの影響を受けて、地元で同じ不登校の小学生の友人と組んで、2人でYouTuberデビュー。
啓喜は懐疑的だが、妻は活き活きとする息子の姿を見て応援することにする。
地元の青年の協力も得てYouTuber活動をしていくが、コメント欄には「罰ゲームで電気あんまして下さい」「水をホースで飛ばして飛距離を争ってください」といったクセの強いコメントが届くように。
リクエストに応えるために息子たちは父親に協力を仰ぐ(海に連れてって!)が、啓喜はよく思っていないので拒絶。そんな父親を見て、息子も妻も地元の青年に頼るようになっていき、家庭内における啓喜の立ち位置が危うくなる。
子供を守るためにYouTubeの規則が変わり、コメント欄は封鎖。息子はまた塞ぎ込んでしまう。寺井は「これで学校に復帰してくれる」と期待したが、そんなことはなかった。
1人目はこんな感じのストーリーでした。
寺井は「正義感の強いパパ」ってキャラクターですね。
妻はエッチの時に涙を流すクセがあって、その影響で寺井は妻の涙を見ると性的興奮を覚えるようになります。まともに見えて変態なのすき。
「学校に行くのは当たり前」という社会の固定観念に対して、「学校行かなくても良くね」というマイノリティの声を聞いた息子が、これによって活き活きするのがリアルだなと思いました。
息子は青年とママが大好きでパパが大嫌いです。パパかわいそう。
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2人目:桐生夏月のストーリーのあらすじ
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寝具店で販売員をしている。
人間の三大欲求の1つ「睡眠欲」は私を裏切らないからこの仕事を選んだ。
こっそり目ぼしいYouTubeチャンネルを巡回する趣味があり、その中で寺井の息子のYouTubeも見てる。
ある日、同級生の結婚式・同窓会に呼ばれるが、1人の男性が泥酔して川に飛び込んで溺死してしまう。
その会には昔、秘密を共有した佐々木佳道がいて久しぶりに再会することに。佳道は大手食品メーカーの営業マンになってた。理由は「食欲」は私を裏切らないから。
実は、夏月も佳道も異常性癖を持っていて、「水」に興奮を覚える人だった。
蛇口から勢いよく飛び出す水や、水風船が割れて弾ける水が大好き。
小学生の時に、撤去されることになった水道の蛇口を蹴り飛ばして水を噴出させたのは2人だけの良い思い出。
色々あって2人は同棲することになり、世間体のために偽装結婚する。
寺井の息子のYouTubeにリクエストが送れなくなってしまったので、2人で公園で水遊びして動画に収めることにする。最高。
もしかしたら自分達と同じ性癖を持った人がいるかもしれないと思い、佳道はネット上で同志を探して、3人で公園で落ちあう事にする。
2人目はこんな感じのストーリーでした。
9%の酒を片手に飛び込んで溺死する男の死因を聞いて、思わず笑っちゃいそうになる夏月のシーンが面白かった。誰かが「危ない!」って言えばよかったんですけど、みんなが飛ぶのを期待しちゃったんですね。面白い描写でした。
異性がいない空間だから話せること。
それがテーマになったとき、人はなぜか、自分の奥底を見せたがる。
修学旅行の夜とかで「誰が好きなんだよ」とか、そういう類ですね。
自分の奥底の見せ合い、自分が見せたんだからお前も見せろよという圧力。
ちょいちょい出てくる例えやエピソードが、「確かにあったなぁ」と想起させます。
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3人目:神戸八重子のストーリーのあらすじ
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自分の容姿に自信がなく、兄の影響で男性不信になる。
大学の学園祭で「多様性」をテーマにする事にした八重子は、仲間と協力して無事に成功させる。
そんな中、八重子は諸橋大也と出会う。
大也はイケメンでダンスサークルに所属。八重子は大也に対しては男性だけど心を許せる事に気づき、惹かれていく。
諸橋大也は異常性癖を持っていて、「水」に興奮を覚える人だった。
女性に対して興奮しないので、AVも見ない。例のプールの存在を知らないことで周りの男子の友人から揶揄われていた。
寺井の息子のYouTubeにコメントで水に関するリクエストも送っていた張本人。
大也はネットで佳道からメッセージを受け取り、同士3人で公園で落ちあう事にする。
3人目はこんな感じのストーリーでした。
八重子よりも大也の方が比重が大きい気がします。
学園祭における「ミスコン」は、ルッキズムを助長するので止めようという話になりました。男性も女性も、性的な目で品定めされるからとのこと。なるほど。
八重子は自分の兄が妹モノAVを見てたのを知って、男性不信になってしまうんですね。これもう被害者は兄だろ。
あらすじには書いていませんが、「同士3人で公園で落ちあう」当日の朝、八重子と大也は家の前で長時間に渡って言い合いをします。
その内容がかなり芯を喰っていて、この小説全体のメッセージのようなものが詰まっていたので、ぜひ読んでみてほしいです。
「何を見たって、それを見たときに湧き上がる感情は自分ですら明確に線引きできない。どの感情だって、0でも100でもない。
喜怒哀楽の何がどれくらい混ざり合って今の気持ちになってるかなんて、誰にも正確にはわからない。そうだろ?」
誰が何をどう思うかは、誰にも操れない。
曲も、MCも、映画も、小説も、ブログも、この世にはいろんな「伝えたいメッセージ」に溢れているけど、それを受け取った人がどう思うかは操れないんですよね。
最後。
佳道・大也・ネットで知り合った男の3人が、公園で水遊びをします。自分達が楽しむために集まった3人ですね。
そこに子供がウキウキで集まってしまい、この小説冒頭の事件に繋がります。
ネットで知り合った男が前科持ちのガチでやばい奴だったんですね。それに佳道・大也が巻き込まれる形になります。
この事件を担当する事になった検事が、皮肉にも寺井啓喜。
佳道・大也は「目的は子供じゃなくて水だった」と言っても相手には通じないと全てを諦めて、この3人は闇に葬られます。真意は謎のまま。
という小説でした。誰も幸せになれない。
あくまでもキャラごとのあらすじを書き殴っただけなので、これを読んだだけではこの小説の真意は分からないと思います。
多様性について、マイノリティについて向き合って見たい方はぜひぜひ。
あ、このリンクから注文しても僕に1円も入らないのでご安心ください。
フェチって本当に色々あるんですね。
僕は異性愛者なのでマジョリティの側にいると思うんですけど、フェチは色々あるので興味深い1冊でした。
3月最後の土日は栃木に行ったり、素敵な小説に没頭したり充実した休日を過ごせました。2022年3月最後のブログはこれになります。
もう4月が始まります。僕は社会人3年目になります。
人として大人になりたい。新しい「好き」を見つけたいです。
それでは。